米国のドナルド・トランプ大統領と主要メディアとの対立がますますエスカレートしてきた。

 トランプ大統領は特定の新聞やテレビ局を「フェイク(偽)ニュース」の発信源と名指し、「米国民の敵」とまで断じた。米国政治の歴史において大統領とメディアがこれほど全面的に対決し続けるのはきわめて珍しい。

「メディアは事実をねじ曲げている」

 2月16日午後、トランプ大統領はホワイトハウスで記者会見を開いた。会見の主な目的は労働長官候補の発表だった。だが、トランプ大統領は政権発足後の約1カ月の実績についても語り始め、政権が円滑に機能しており、一部の世論調査では政権支持率が55%に達したことを強調した。一方でこうした実績を主要メディアは正しく報じていないと強く非難した。

「ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルスなどのメディアは、国民のためではなく、特別な利益団体や破綻したシステムから利益を得ている人たちのために機能している。メディアはあまりにも不誠実なので、私がそのことを指摘しなければ米国民は大きな被害を受ける」

「メディアは旧態依然とした権力機構のなかにいて凝り固まった状態にある。私はそのシステムを変えて、米国民に真実を知らせたい。一部のメディアは素晴らしいが、ほとんどは事実をねじ曲げてばかりだ」

 トランプ大統領は、政権が短い期間に多くの新政策を実行して国民からの信託に応えているにもかかわらず、ほとんどのメディアは「トランプ政権の混乱や錯乱」ばかり報じていると指摘した。そして、そうした報道はすべて「偽ニュース」だと批判した。

 質疑応答で記者から質問を受けたトランプ大統領は、「選挙期間中にトランプ陣営はロシアの諜報機関との交流があった」という報道を取り上げ、偽ニュースだと決めつけた。特にニューヨーク・タイムズに対しては、トランプ陣営とロシアの「癒着」を報じた同紙の記事はすべて偽ニュースだと繰り返した。

 質疑応答の中でトランプ大統領はCNNの報道も極端に偏向していると非難し、「私についての報道は憎悪と怒りと敵意に満ちている。討論番組の出演者もひどい攻撃を浴びせてくるばかりだ」と述べた。さらには保守派とされるウォールストリート・ジャーナル紙の報道の一部についても不正確だと糾弾した。

主要メディアを「アメリカ国民の敵」と攻撃

 この会見の翌日の2月17日、トランプ大統領は自分のツイッターで、保守派の間で人気の高いラジオの政治トークショー番組のホスト、ラッシュ・リムボウ氏が「これまでみた大統領記者会見の中で最も効果のある会見の1つ」と評したことを紹介し、「多くの人たちはこの評価に同意するが、偽メディアは異なる報道をするだろう。要するに不正直なんだ」と書いた。

 また同じ日に、「破産しそうなニューヨーク・タイムズ、NBCニュース、ABC、CBS、CNNなどの偽ニュースメディアは私の敵ではない。アメリカ国民の敵なのだ」ともツイートした。

 この「アメリカ国民の敵」という表現に対して、メディアの側は当然激しく反発した。もはや、批判や非難という域を超えた“弾圧”に近い表現だというわけだ。ここに至ってトランプ大統領と主要メディアはいよいよ全面対決の段階に突入したと言えるだろう。

 こうした衝突の背景には 米国の主要メディアの論調が長らく民主党側に傾き、共和党側が不満を抱いてきたという歴史がある。とはいえ共和党の大統領にしても、主要メディアに不満は述べながらトランプ大統領のように全面的に対決することはなかった。これまでの大統領のメディア対応の常識が、トランプ氏という型破りの人物によって破られようとしている。

 なお、トランプ大統領は、77分にわたる16日の記者会見で約40の質問を受けた。外国メディアや地方の小規模メディアの記者たちにも質問の機会が与えられた。オバマ前大統領の記者会見は、長さが平均して約50分、質問は事前に指定した米国主要メディアの記者たちからだけ、質問数はいつも8問と決まっていた。記者たちとのオープンなやり取りをみても、オバマ時代とは似ても似つかぬ記者会見だった。

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筆者:古森 義久