日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼CEO(写真:東洋経済/アフロ)

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 日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼CEO(最高経営責任者)が退任して、4月1日付で代表取締役会長に就く。後任の社長には、昨年から共同CEOとして権限の委譲を受けていた西川廣人氏が就任する。日産の社長交代は17年ぶりだ。

 ゴーン氏が交代する狙いは3つある。

●グループ経営の強化

 ひとつは、グループ経営の強化だ。ゴーン氏は現在、ルノーと日産の社長兼CEOに加え、昨年買収した三菱自動車工業の代表取締役会長を兼任している。ルノーと日産については、日々の経営執行の総括的な責任を負っている。日産の執行トップから離れることで、スケジュールに余裕ができるため、グループ全体を俯瞰する仕事に充てる見通しだ。

 ゴーン氏はますます競争が激化する世界の自動車産業を見渡しながら、グループの経営戦略の方向性を指揮する。ルノー、日産、三菱自の3社合わせた2016年のグローバル販売台数は約996万台。世界1位の独フォルクスワーゲン(VW)が1031万台、2位のトヨタが1017万台、3位の米ゼネラルモーターズ(GM)が1000万台であり、世界のトップ集団の背中が見えている。

 ゴーン氏は在任中に世界1位の自動車メーカーになる「野望」を持つといわれている。身軽になったゴーン氏は今後、買収戦略を仕掛け、その「野望」の実現に向けて動く可能性が高まった。

●コーポレートガバナンスの問題

 2つめの理由は、コーポレートガバナンスの問題だ。ルノー、日産、三菱自の3社で経営トップを務めることについては、同業他社や有識者の間から「利益相反ではないか。ニューヨーク証券取引所であれば認められない兼業。日本の株式市場はなめられているのではないか」といった批判も出ていた。

 特に日産とルノーでは日々の経営を判断する執行のトップであり、両者の協業でシナジー効果を生んでいるとはいえ、ルノーの経営にとってプラスなことが必ずしも日産にメリットを生まないケースもある。たとえば、ルノーの生産量が減った際に日産の工場から車種を移管すれば、日産の生産量が落ちて決算に影響することもある。日産の執行のトップを降りることで形式上は日々の経営からは離れるため、こうした批判をかわすこともできる。

 ただ、ルノーの社長兼CEO職を手放さないのは、ルノーはフランス政府が筆頭株主であり、ルノーの経営に口を挟んでくることがあるからだ。フランス政府がゴーン氏の退任要求を仕掛けてくることも想定されるため、政府との交渉の責任者でもある社長兼CEO職は手放せないのだ。もし、フランス政府にへそを曲げられたりすれば、ゴーン氏の権力基盤が揺らぎかねない。

●プライベートな事情

 3つめの理由はプライベートな事情のようだ。今年1月に連載した日本経済新聞の『私の履歴書』では、ゴーン氏は子どものことには触れていたが、妻のことには一切触れていなかった。「ゴーン氏は熟年離婚しており、最近再婚したばかり。新しい家庭を大切にしたいために時間の余裕が欲しいのではないか」(日産OB)との見方もある。また、「ゴーン氏は前妻に多額の慰謝料を支払ったようだ」(同)ともいわれており、完全に引退して悠々自適な生活を送るというのはまだできないようだ。

 ゴーン氏が形式上は日産の社長兼CEOを退任したからといって、権力構造が変わるものではない。事実上の社長はゴーン氏のままといっても過言ではない。後任の西川氏は東京大学卒で秘書や購買での経験が長く、そつがないうえ、ゴーン氏の意向を忖度するのが巧みだ。ゴーン氏も西川氏の手腕を評価しており、西川氏が社長になりたがっているのをくみ取り、「忠臣」を後継に据えた。西川氏については「日本人部下には手厳しいうえに、まったく面倒をみないが、ゴーン氏には心底忠誠を誓った日本人」という評判も関係者から漏れ伝わる。ゴーン氏が「傀儡政権」を敷くにはぴったりの人選ともいえるだろう。
(文=井上久男/ジャーナリスト)