2007年に創設されたフットサルのFリーグには、「絶対王者」と呼ばれるチームがある。リーグ唯一のプロクラブであり、総工費40億円を超えるオーシャンアリーナを本拠地とする名古屋オーシャンズだ。


大阪(ブルー)と名古屋(レッド)の今季の対戦成績は大阪の2勝1敗 リーグ1年目の2007-2008シーズンから2015-2016シーズンまで、名古屋はリーグ9連覇を達成してきた。2012-2013シーズンからはリーグ戦後、上位チームによるプレーオフが行なわれてきたが、名古屋は常にリーグ戦で1位となり、プレーオフ・ファイナルに勝ち上がっていた。

 しかし2016-2017シーズン、その歴史が止まった。2月19日まで行なわれていたレギュラーシーズン、27勝2分け4敗の勝ち点「83」で順位表のトップに立ったのはシュライカー大阪。9連覇中の名古屋は、22勝7分け4敗の勝ち点「73」で2位となったのだ。他クラブと比較できないほど圧倒的な資金力を誇る名古屋は、なぜ、リーグ戦1位の座から滑り落ちたのか――。

 今シーズンの名古屋は、開幕前に転換期を迎えていた。昨シーズンまでチームの主力だった元日本代表FP(フィールドプレーヤー)北原亘と元ポルトガル代表FPペドロ・コスタが現役を引退。さらに4度のリーグ最優秀選手とリーグ得点王に輝いていたエースの日本代表FP森岡薫には、契約交渉でゼロ提示を行なった。

 経験のあるベテランを放出し、愛知県で開催される可能性のある2020年のフットサル・ワールドカップに向けて名古屋は、若い日本人選手を育てることも狙っていた。ただ、彼らにとって最大の誤算は、新たな得点源となるはずだったブラジル代表FPシノエが、シーズン開幕前に「一身上の都合により」退団したことだ。

 さらに「森岡の後継者」となることが期待されたFP平田マサノリも、負傷による長期離脱などでシーズンのほとんどを棒に振った。7月には急遽、日本代表FP酒井ラファエル良男の実弟で、ブラジル代表でのプレー歴もあるFPサカイ・ダニエル・ユウジを獲得した。

 しかし、ダニエルはストライカーというよりも、力強い守備を持ち味としており、得点力を上げることはできなかった。その結果、直近の4シーズンで常に130得点以上を挙げていた名古屋だが、シーズンの総得点数は119にとどまり、競った試合で勝ち切れないことが例年以上に多くなってしまった。

 過去9シーズンは、名古屋が白星を挙げられなかったときに、他クラブがつぶし合うことも少なくなかった。しかし、今シーズンは大阪が抜群の安定感を見せ、第7節で名古屋に7-4で勝利してからは第30節で名古屋に0-1で敗れるまで、17連勝を含む22勝1分けという成績でリーグのトップを独走した。

 大阪躍進の立役者となったのは、FPアルトゥール、FPヴィニシウス、FPチアゴというブラジル人トリオだ。昨シーズン、MVPと得点王に輝いたヴィニシウスは今シーズンもリーグ最多の43得点を記録。また、高いボールキープ力を誇り、最前線でボールの収めどころにもなるチアゴはリーグ2位の37得点、ボールを奪い取る力が強く、距離のある位置からも精確なミドルシュートを叩き込むアルトゥールはリーグ3位の33得点と、3人で得点ランクのトップ3を独占した。

 また、3人の外国籍選手と並んで出場時間の長かった日本代表のFP小曽戸允哉(おそど・のぶや)とFP加藤未渚実(かとう・みなみ)も、それぞれ小曽戸が26得点(6位)、加藤が22得点(7位タイ)を決めている。Fリーグ新記録となるシーズン186ゴールを挙げた大阪だが、そのうち161ゴールをこの5人で挙げたのだ。

 大阪の指揮官として3シーズン目を迎えた木暮賢一郎監督は、ブラジル人トリオのうち、ふたりを常時ピッチに立たせた。日本人選手では小曽戸と加藤のふたりが長時間ピッチに立ち、状況に応じて元日本代表FP村上哲哉、FP佐藤亮、FP田村友貴といった選手が起用された。多少、乱暴に表現してしまえば、もっとも力のある選手たちを可能なかぎり出場させ続けたのだ。

 現在、ほとんどのクラブはふたつのセットを作り、ある程度、均等に出場機会を与えている。そうした相手に対しても強度を保てる選手の能力、監督の細やかなベンチワークは特筆に値する。また、試合に出場する時間が短いながらも、練習から手を抜かずに取り組んでいる村上、佐藤らベテランの存在は、チームの一体感を保つうえで不可欠だった。

 名古屋が過渡期に入り、大阪が成熟期を迎えたことで起きた10年目の変化。2月24日から始まるプレーオフで、いよいよ10年目のFリーグ王者が決まる。

 Fリーグのプレーオフのレギュレーションは複雑だ。まず、リーグ戦1位となった大阪は、3月3日に行なわれるプレーオフ・ファイナルラウンド進出が決定している。2月24日に墨田区総合体育館で行なわれるプレーオフ・ファーストラウンド、そして2月25日のプレーオフ・セカンドラウンドでは、リーグ戦2位から5位の4チームがノックアウト方式で対戦する。

 10連覇を目指す名古屋は、リーグ戦5位でプレーオフに進んだ府中アスレティックF.C.と対戦する。このカードは昨シーズンのプレーオフ・ファイナルラウンドと同じであり、今シーズンのリーグ戦の対戦成績は1勝1分け1敗と互角。初めてファーストラウンドからプレーオフを戦う名古屋は、未経験のプレッシャーとも戦わなければならない。

 ファーストラウンドのもう1試合は、リーグ戦3位のペスカドーラ町田とリーグ戦4位のフウガドールすみだの対戦となる。2月4日に行なわれたリーグ戦の試合では、町田が4-0とすみだを圧倒した(今季リーグ戦での対戦成績は町田の3勝0敗)。

 負傷に苦しんだGKピレス・イゴールと、個人としてFリーグ10連覇を目指すFP森岡薫を擁し、FP甲斐修侍のラストイヤーをタイトルで飾りたい町田は現在、シーズンを通して一番いい状態にある。前半戦を首位で終えたすみだは、レギュラーシーズン最後の2試合とも出場停止だったU-20フットサル日本代表FP清水和也、今シーズンかぎりで引退するFP太見寿人(ふとみ・ひさと)の両ピヴォ(※)の活躍がカギを握りそうだ。

※ピヴォ=サッカーにおけるフォワード的な役割。ポルトガル語で「軸」「中心」という意味。

 ファーストラウンドからファイナルラウンドまで勝ち進んだチームがFリーグ王者になるためには、さらにファイナルラウンドで大阪に2連勝しなければならない(※)。そのため、リーグ戦1位で終えた大阪が極めて優位な状況にある。「絶対王者」名古屋が意地を見せて10連覇を達成するのか、それともFリーグに新王者が誕生するのか――。10年間でもっとも熱い戦いが幕を開ける。

※ファイナルラウンドは2試合制。第1戦で大阪が勝利、もしくは引き分けの場合はその時点で大阪の優勝となる。

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