声優デビューから10年、内田 彩を解き放った“ターニングポイント”を振り返る。
あとから知ったのだが、取材の少し前に内田 彩は声帯結節の切除をしたという。声優として生きる彼女にとって、それは勇気のいる決断であり、精神的にもつらい時期を過ごしたことだろう。しかし、仕事に復帰したばかりの彼女はそんな事情を微塵も見せず、常にまわりを気遣い、現場を盛り上げるプロフェッショナルな人だった。声優として10年目を迎える今年。手術も終えて、やっとスタートに戻ってきた内田に、映画『鷹の爪8〜吉田くんのX(バッテン)ファイル〜』で演じた役とこれまでの歩みについて振り返ってもらった。

撮影/川野結李歌 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.



「つっちーは、『鷹の爪』には珍しい真っ当なキャラクター」



──内田さんがご出演された映画『鷹の爪8〜吉田くんのX(バッテン)ファイル〜』について、昨年の公開時にインタビューさせていただきましたが、Blu-ray&DVDが3月2日(木)に発売されるということで、またお話を伺いに来ちゃいました(笑)。

はい!(笑) どうぞよろしくお願いします!

――人と地球にやさしい世界征服をたくらむ“悪の秘密結社 鷹の爪団”の活躍(?)を描く、脱力系アニメ『秘密結社鷹の爪』ですが、内田さんの出演については公開前から話題になっていましたね。



FROGMAN監督からもお聞きしましたが、「内田 彩が『鷹の爪』に出るの?」って(笑)、反響が本当に大きかったみたいです。女性声優が『鷹の爪』に起用されるのは今回が初めてだったので、私自身、すごくドキドキしていました。

――ファンのみなさんも驚かれたのでは?

「え? どういうこと?」って……ザワザワしていたと思うんですが(笑)、今回は『コロコロイチバン!』(小学館)で連載されている、子ども向けのお話をもとにした内容ということで、ファンの方も「あー、なるほど!」って思ったようです。



――内田さんが演じられた“つっちー”は、主人公・吉田くんの子ども時代の友達で、メカの発明から古代文字の解読までできちゃう天才少年ということで…。

「そういう役どころね」って、すごく納得していただけたようです。男の子役というのも、楽しみにしていただいていたようで、嬉しかったですね。

――映画を観たファンの方から、内田さんのもとに感想などは届きましたか?

実際に観るまでは、ギャグとかおふざけ要素があると思っていた方もいらっしゃると思うんですが(笑)、吉田くんたちのチームの博士的役に専念していたので、「内田さんの新たな部分がみられてよかったです」っていう感想もいただけました。




――たしかに、これまで演じてこられなかったタイプのキャラクターですよね。

いままで、頭のいい男の子の役をやったことがなかったので、自分としても新たな挑戦で……。ファンの方にも新たな私の声を聞いていただけて、「よかったです」と言っていただけて嬉しかったです。

――物事を説明するセリフも多い、博士的な役割を演じるにあたって、意識した点などはありましたか?

最初のアフレコの際に、「今回は子ども向けのアニメということで、子どもが観たときにわかりやすい、伝わりやすいものを作りたくて、アニメの声優さんを起用したんだよ」って監督から言われたんですね。

――これまでの『鷹の爪』シリーズでは、女優さんやモデルさんが起用されていましたよね。

そうなんです。だから、それを聞いたときに「あ、面白さとかいらないんだ」って思って(笑)。私の役目はそこじゃなくて、博士役をまっとうすればいいんだって安心しました。そういうことなら、きちんとわかりやすく説明するっていうところに重きを置こうと思いました。だから……『鷹の爪』には珍しく、真っ当なキャラクターで(笑)。

――とても落ち着いたキャラクターでしたね(笑)。

あとで聞いたら、FROGMAN監督が作ったキャラクターではないということで、「なるほどー!」って思いました。「僕が作ったら、絶対ナメクジとかにしちゃうもん」って言われて、「たしかに!」って(笑)。全部、腑に落ちました。ナメクジじゃなくて、よかったです。



「『鷹の爪』でうるっとくるなんて、変な感じ(笑)」



――今回は、ストーリーもいままでの『鷹の爪』とは少し違った印象でした。

そうですね、私も「今回は一味違うな」と思いました。吉田くんの子ども時代のお話でしたが、内容はわりと大人向けでもあって。「で、結局なんだったの?」みたいな(笑)、いつもの『鷹の爪』ワールドももちろんありましたが、それにプラスして、ちゃんとしたストーリーがあって、新しいなと思いました。

――たしかに、ちゃんとしたストーリーでしたね(笑)。

爽やか青春ものがプラスされている! って(笑)。友情とか、敵との戦いとか、乗り越えていくところとか……あと、少し恋愛要素があったりして、いままでとは違うストーリー性を感じましたね。「あー、面白かった!」で終わるんじゃなくて、なにか残るような、伝わるメッセージがあるところが、また新しい魅力だなあと思いました。

――最後にちょっと感動しちゃったりしますもんね(笑)。

そうなんです! 『鷹の爪』でうるっとくるって、なんか変な感じで(笑)。感動していいのかな? って思っちゃいますね(笑)。

――前回のインタビューで、今作は「プレスコ(先にセリフを収録して、それに合わせてアニメーションを作る手法)」かつ、「別録り(出演声優が揃って収録するのではなく、ひとりずつ個別に収録するスタイル)」だったと伺いましたが、そういう場合、役作りはどうされるんでしょうか?

本当に最初……1枚のイラストしか手元にないので(笑)、どうしようって思っていて。頼りになるのは、監督の「よくいる博士タイプのキャラで、説明は端的にしっかりと」っていう言葉と、イラストのちまっとした感じと……台本に書かれているセリフだけですよね。

――なるほど。

言葉のチョイスとか、「どういう喋り方をする子なんだろう?」って、イラストから感じ取れる、この子の雰囲気から想像したりしながら…。



――つっちーがまた……感情が読み取りにくそうなビジュアルで(笑)。

そうなんです(笑)。メガネで隠れているので、表情はほぼ読み取れなくて。口はどちらかというと、棒線みたいな、つぐんでいる感じなので、あまり感情が表に出るようなタイプではないんだなとか。背はちっちゃめで、ちまっとしてるので、声は幼めのほうがいいかな? とか。

――そうやって、少ない情報から手がかりを得ているんですね。

そこから想像するしかないので(笑)。でも、吉田くんに対しては「違うよ」とか、「吉田くんがやらないなら、僕がやるよ!」とか、しっかり意見を言えるタイプだったので、弱々しい雰囲気はいらないなと思って。なんかそういう、小さなところから想像して、最初はとりあえずやってみる感じです(笑)。



――今回のつっちーに関しては、最初に作っていった声でOKをもらったそうですが?

そうなんです。テストで恐る恐るやってみたら、ブースで爆笑が起きていて(笑)。「そのままで大丈夫です」って言われたので、逆に「もう変えない!」って思いましたね。「こうやったほうがいいかな?」って思って下手に変えてしまうと、違ったものになってしまうかもしれないので。

――その結果、つっちーは本当にまともな……可愛さもありながら、きちんと聞き取れて、耳に馴染むような心地の良い声だなあと思いました。

わー、ありがとうございます! まわりのキャラクターが個性的すぎるから(笑)、私は逆に個性を出さずにお芝居したら、それが個性になるのではないかなあと思いながらやってみました。別録りだったので、ほかの方とかみ合うのか不安でしたが、できあがった作品を観たら、すっごくのんびりマイペースに喋っていて(笑)、逆に良かったかもしれないって思いました。



「雑誌を見てビックリ! 声優って実際に存在するんだ!?」



――2008年にデビューされて、今年はちょうど10年目ということで…。

うわぁー、早い!(笑)

――そもそも、内田さんが声優を目指したきっかけはなんだったのでしょうか?

昔からアニメが好きで、妹と一緒に『となりのトトロ』ごっこや『セーラームーン』ごっことか(笑)、アニメの登場人物になりきって遊ぶのが大好きだったんです。小学校でも、国語の教科書を朗読する当番がまわってくるのがすごく好きで……なにかを声にして読むのが好きだなあっていう自覚はありました。

――そこから声優に興味が向かったのは?

中学のときにマンガやアニメが好きな友達がいて、声優雑誌を読んでいたんですよ。「なにそれ!?」って思って、そこで初めて……ぼんやりとは知っていた声優という存在が、目の前に現実として、しかも写真つきで現れて(笑)。

――写真つき(笑)。

「実際にいるんだ! この人があの役をやってるんだ!」っていう衝撃がありましたね。あと、養成所の広告やオーディションの情報がたくさん載っていたので、「声優になれるんだ!」ってビックリして、一気に興味がわきました。非現実的だった声優という存在が、「同じ人間で、なり方があるんだ!」って(笑)、ぐぐっと近づいた気がしましたね。



――それまで、なれるとは思わなかった?

漠然とアイドルとか歌手とか女優さんに憧れはあったんですけど、まあ無理だと(笑)。スカウトされたり、オーディション番組で受かったりしないとなれないと思っていたのが、「声優には学校があるんだ!」っていうのが、すごい衝撃的で。「じゃあ、なれるかもしれない」って思ったんですよね。

――実際に行動に移してみたのはいつ頃ですか?

中3で声優のオーディションに応募したら、全国大会まで行くことができて、特別賞をもらったんです。それで、「思いきってやってみたら特別賞をもらえたから、頑張れば声優になれるかもしれない」って、現実的になりましたね。もしそこでコテンパンに落ちていたら、「あ、やっぱり無理」ってなっていたと思うんですけど。

――なりたいと思っていた声優になって、10年目を迎えたいま、当時抱いていた声優に対するイメージと現実とのギャップはありますか?

そうですね……仕事の幅が違うというか。私が声優を目指し始めた頃のイメージは、裏方で、職人さんで、“七色の声を持つ”みたいな感じでしたね。表にも出ないし……雑誌で見てビックリするぐらいでしたから、普通だったら知らない、特殊な、必殺仕事人みたいな(笑)、 “プロフェッショナルな人たち”っていうイメージでしたね。



──それがいまは変わってきた?

そうですね。裏方的なものだった仕事が、表に出ることが多くなってきていて。イベント、歌、雑誌とか……演技以外のお仕事も、とても多い印象ですね。

──インターネットの普及でさらに幅が広がってきていますよね。

そうですね。ニコニコ生放送の番組も多いですし、スマートフォンのゲームがすごく増えていて。養成所に通っていた頃に思っていた、演技をして表現するっていう仕事以上に、瞬発力が求められることが多くなってきているんじゃないかなあと思いますね。