「ESPIRITU!」

 試合後のマッシモ・フィッカデンティは、そこで語気を強めた。必ず勝つんだ、というチームの「スピリット」。いかにも、イタリア人指揮官らしい。

 2月18日、サガン鳥栖は韓国Kリーグの水原三星ブルーウィングスをエース、豊田陽平と新鋭、鎌田大地の得点により、2-1で撃破している。ACLに出場する相手に先制し、一度は追いつかれながら、突き放した。Jリーグ開幕を1週間後に控え、意気揚々。結果が問われる試合ではないが、勝者のメンタリティは勝利によってのみ作られるのだ。


水原(韓国)との親善試合で決勝ゴールを決めた鎌田大地「勝利のために戦うスピリットを確立したい。それが、どんな状況でも、どんな相手でも」

 フィッカデンティ監督はロッカールームで選手たちに薫陶を与えてきたが、挑戦は2年目を迎える。

 鳥栖は勝利する集団になったのか?

「昨年やってきたスタイルに肉付けしている。大きくは変えていない。そこに新加入の選手が入って、アジャストさせている」

 昨年から在籍している選手たちは口を揃えて言う。戦術的なベースは変わらない。

「今年のキャンプは、昨年ほどは走っていません。まあ、昨年は走りすぎたかな、というのはあったので」

 そう語る豊田は、フィッカデンティ2年目でゴールゲッターとしての堅調さを示す。水原戦は裏にクロスを呼び込み、GKの鼻先でトラップ、右足でかわしてから左足で叩き込んだ。エースの決定力の高さは、今シーズンも鳥栖の戦術を旋回させる軸になるだろう。

 チーム布陣は昨季と同じく4-3-1-2が主流。ポゼッションを守備に用いながら、放り込んでくる相手に対しては、跳ね返す強さを持っている。中盤は3枚なので、横のスライドが必要で運動量が多くなる。トップ下は中盤の守備をフォローし、トップを追い越す動きも求められ、縦や斜めのランニングの質が問われる。そこに2トップが連動し、相手のパスを限定し、味方のパスを引き出す。

 水原戦も、昨季から在籍する選手たちはその戦術を手際よく用いていた。

 例えば、ボランチの高橋義希は戦術ピースとして欠かせないだろう。目立たないが、いるべき場所を留守にせず、中央の防御力を高める。イタリア式戦術の申し子として、インターセプト数もJリーグ屈指を誇る。

 そして、昨シーズン後半から守備面で安定感が出てきた左サイドは、左SB吉田豊、左ボランチの福田晃斗が堅牢さを見せている。吉田の守備が安定したことで、攻撃にも余裕が生まれ、打撃を与えられるようになった。事実、豊田の先制点を演出したのは、福田のパスだ。左サイドはチーム全体の策源地となりつつある。2点目も、左サイドに2トップの豊田、富山貴光が流れ、その連係から裏に出したボールを鎌田がドリブルで持ち込み、GKとの1対1を決めている。

 もっとも右サイドは手薄さが見える。水原戦では皮肉にも、移籍したキム・ミヌにたびたび形勢不利を強いられ、洗礼を浴びる形になった。代わって入団した小川佳純(←名古屋グランパス)は、右ボランチとしては模索中といったところか。守備のスライドに追われ、可能性のあるボールを供給するまで手が回らなかった。

 また守りの面でも、同点に追いつかれたシーンは、右SBの藤田優人が自陣で中に入ったところを失っている。これは守備者として明らかに軽率だった。故障で調整に入っている小林祐三(←横浜F・マリノス)の復帰が待たれる。

 失点シーンに関しては、他にもいくつか不安は見えた。CBフランコ・スブットーニ(←アトレティコ・トゥクマン)のポジションも甘かった。逆サイドにボールがある場合、2〜3歩、背後にポジションをとって、最短距離にパスを通させないのが定石。しかしターンが遅いため、入れ替わられてしまった。

 オフサイドでゴールが取り消されたシーンでも、CB2人が大きく割れてしまうなど、ポジショニングの微調整は必要になるだろう。

 失点シーンについてさらに言えば、相手FWが勝手にシュートを打てるコースを狭めていたにもかかわらず、決められている。GK権田修一(←SVホルン)も「日本で最高のGK」(フィッカデンティ)としては、物足りない。真剣勝負から離れたプレシーズンマッチで勘が鈍るのは仕方ないが……。

「もっとよくなるとと思います。まあ、初めてやる選手が多かったですしね。僕個人としても、チームとしても、果てしなくよくなる可能性があるんじゃないかと」

 権田自身も決意を新たにする。

 現状、昨季までのメンバーの戦術”駆動力”は高い。その一方、新戦力はシステムやコンディションを適合させている途中といったところか。それでも水野晃樹(←ベガルタ仙台)、原川力(←川崎フロンターレ)など駒は揃っただけに、戦力は確実にアップ。水原戦は大事をとって欠場したが、ベルギーから戻ったFW小野裕二(←シント=トロイデンVV)も開幕には間に合いそうで、鳥栖の起爆剤になるかもしれない。

 Jリーグ優勝は、現実的な目標になった。

「おれは負けるのが嫌いだ」

 そう言って選手たちを叱咤激励してきたイタリア人指揮官だが、勝利の算段は整いつつある。

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