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by Pulpolux !!!

SF映画「インターステラー」に出てくる数式は理論物理学者キップ・ソーン氏が監修しているなど、科学分野に踏み込んだ映画の多くには実際の科学者らの知見が散りばめられています。このような映画制作の裏側には「科学映画の脚本家用のホットライン」が存在し、ある組織によって映画と科学の橋渡しが行われているとのこと。

The hotline Hollywood calls for science advice - YouTube

生きて意志を持つ「巨石」がある日突然世界中に出現しする映画「メッセージ」は非常に高いレベルで異星人の恒星間航行が考証されたことで知られています。



映画の中で、俳優のジェレミー・レナーは科学者役でした。レナー演じる科学者は巨石と意思疎通を図る役割でしたが、当初の脚本では、科学者のセリフに「巨石は人間が送ったフーリエ級数に対して返答したか」というものがありました。



しかし、実際の脚本ではフーリエ級数がフィボナッチ数列へと変更されています。これは宇宙飛行士であり科学ブロガーであるフィル・プレート氏の意見を反映したものです。「フーリエ級数は数学的なコンセプトであって、数列ではありません」「一方でフィボナッチ数列は数列なので、エイリアンが我々の注意を引くために送ってくるだろうと考えたのです」とプレート氏は語っています。



Plait氏は映画の作り手と科学者たちの橋渡しを行っている、ある「組織」に属しています。この組織は科学が関係する映画の脚本家用のホットラインを設立しているとのこと。



脚本家用のホットラインを使用した1人がメッセージの脚本家であるエリック・ハイセラー氏だったわけです。



たった1つの言葉の変更ですが、プレート氏のアドバイスによって、映画の信頼性が少し向上したと言えます。プレート氏は「言葉の変更を大きく評価しているわけではありませんが、映画を見に行った時は妻を肘でつつきました。『私が書いたことを俳優が言っている!』って」と語りました。



間違ったコンピューター科学、間違った地学、間違った物理学など、「間違った科学」は映画やテレビの中にあふれています。



そこで、2008年、米国科学アカデミーは「The Science and Entertainment Exchange(科学とエンターテイメントの交換)」というプログラムを立ち上げます。



プログラムの仕組みはこう。まず、脚本家がホットラインに電話をかけます。



「私たちはどのようにしてエイリアンとコミュニケーションを取るのか?」といった質問をすると、2400人の科学者・エンジニアが登録されているデータべースが検索され……



連絡を取るべき人がわかるわけです。



プログラムが始まった2008年から、およそ1700〜1800の相談があったとのこと。



特にマーベル・コミックの映画については全ての作品でホットラインが利用されたそうです。



そしてホットラインが利用された映画のうち、2017年にはメッセージと「ドクター・ストレンジ」はアカデミー賞にノミネートされました。



また、2011年に公開された映画「マイティ・ソー」もホットラインが使われた作品。



プロデューサーのケヴィン・ファイギ氏は、映画の中で、地球から神の居場所まで届く「虹の橋」を描く必要があると考えており、物理学者のショーン・キャロル教授に相談したところ、「虹の橋をワームホールとして描いたらどうだ」というアドバイスを得たとのこと。しかし、ファイギ氏は「ワームホール」という言葉が90年代風に聞こえるとして、言葉の使用を嫌がりました。



The Science and Entertainment Exchangeのアン・メルシャン氏によると、ワームホールという言葉にしぶるファイギ氏に対し、キャロル教授は、ワームホールが「アインシュタイン-ローゼンブリッジ (アインシュタイン-ローゼン橋)」とも呼ばれていることを示したとのこと。



すると、映画の制作側は「いいね!」と乗り気になったわけです。



実際に映画で言葉が使われたシーンがコレ。ソーがニューメキシコ州に落下し、ナタリー・ポートマン演じるジェーン・フォスターが、ワームホールのヒントがソーにあると考え出します。



この時、映画制作側は、「映画の中でキャラクターがどのような言葉を使うか」だけでなく、「どのキャラクターがその言葉を使うか」にも注意を払いました。



映画の原作となったコミックでは、ジェーン・フォスターは看護師でした。しかし、映画を監修した物理学教授は、「ジェーン・フォスターがソーを地球に送ったワームホールを研究する物理学者だった方がプロットの意味が通る」と主張。



この提案はジェンダーのステレオタイプを破る絶好の機会でもありました。



「私たちは看護師も好きですが、『天体物理学である強い女性キャラクター』というアイデアは素晴らしいものでした」と、メルシャン氏。



そこで、脚本家はストーリーを変更。



この変更について、Hollywood Reporterは「How Marvel's 'Thor' Contest Empowered a Group of Young Women Science Buffs (いかに「マイティ・ソー」が若い女性科学者のグループに力を与えたか)」という記事を掲載。映画は非常に高く評価されました。



「私たちは科学者が映画の中でどのように描かれるかに注意を払います。映画の中で、もちろんメインキャラクターはみんな魅力的に描写されます。しかし、私たちは女性や有色人種のキャラクターも含めて、みんなが魅力的に描かれ、それぞれが織り込まれることでスクリーンが織物のようになることを望んでいます」とメルシャンさんは語りました。



1983年に行われた研究で、子どもに「科学者の絵を描いてください」と言ったところ、ほとんどの子どもが年配の白人男性を描いたことが知られています。



これは、子どもが日常的に見るアニメの影響を受けたことが理由だと考えられています。



そして、この時の研究では、ステレオタイプの科学者を描く子どもは年齢が上がると共に増えていったとのこと。



また、「年配の白人男性」以外の科学者のイメージに「悪役」というものがあります。1931年から1984年までにイギリスで配給された何千本もの映画を調べた研究では、映画で描かれる科学者のうち、悪役が占める割合は41%で、ヒーローとして描かれる映画は1%以下だったとのこと。



時を経て、科学者のイメージはよくなってきています。科学者のイメージに関して3000人を対象に行われた世論調査では、2001年の大人は1983年の大人に比べて科学者に対してよいイメージを持っていることが判明しました。そして、自身や子どもが「科学」というキャリアを選ぶことに対しても肯定的になってきたとのこと。



「望む望まないを問わず、人々は映画やテレビから学びます。私たちはこれを『Accidental Curriculum(偶発的カリキュラム)』と呼んでいます」とメルシャンさん。



アメリカで2000年に放映が始まった「CSI:科学捜査班」というテレビドラマは大ヒットを記録。そしてドラマがヒットすると共に「CSI効果」と呼ばれる現象が起こり、大学で法科学を専攻する学生が急増しました。



ただし、このドラマは法科学に関する間違った知識を広めてしまったという側面も。2010年の研究で、CSIを見ることと、DNAテストによる証拠が実際よりも信頼度が高いものだと信じることの間に関係性があることが判明しています。



The Science and Entertainment ExchangeはCSI効果のようなポジティブな効果を生み出し、人々にとってより科学を理解しやすく、よりアクセスしやすい状態にするために、現在も活動を続けているわけです。