無限のたし算の風景

 Σの呪縛を解くシリーズ第3弾のテーマは無限です。シリーズ第1弾と第2弾は有限項の数列の和について見てきました。Σの公式から見えてくるのは、いくつもの項の和が1つの式にまとまる風景です。

 たとえ100万項のたし算でもΣ記号のおかげで1つの式で表すことができる軽快さ、そして公式のnに1000000を代入しさえすれば和が一発で得られる爽快さです。

 ここから無限の項のたし算に踏み込んでいきます。Σ記号の上に無限を表す∞記号がある風景です。実はすでに連載で無限のたし算は3つ取り上げています。π、ゼータ関数、そしてマクローリン級数です。

 連載「驚異の数、円周率 πの世界〜現代に甦るラマヌジャンの公式」では円周率πを表す数式を紹介しました。

 マチンの公式(1706年)、高野喜久雄の公式(1982年)、ラマヌジャンの公式(1914年)、チュドノフスキーの公式(1994年)どれもπ計算の歴史に輝かしい記録を打ち立てた立役者というべき公式ですがすべてΣと∞の数式です。



 連載「宇宙を支えていたのは、驚異のたし算だった」で紹介した無限のたし算は次のようなとんでもないたし算でした。

1+2+3+4+5+6+7+8+9+10+…=-1/12

 これがオイラーによるζ(ゼータ)関数の仕業です。私はこれを「ウルトラたし算」と名づけました。常人の理解を超えているという意味です。詳細は連載をぜひ読んでみてください。

 無限項のたし算は無限級数と呼ばれます。πもζも無限級数の姿をしています。

 「電卓はいかに計算しているのか」や「ビッグ・データ時代に対数表を味わう」で紹介したのがマクローリン級数と呼ばれる無限級数です。三角関数、指数関数、対数関数などの関数がΣと∞の数式で表現されます。



 以上のような無限のたし算は結果としてのΣの風景を眺めることはできてもその原風景を辿ることは容易ではありません。

 そこで小学生でも分かる無限級数を紹介してみようと思います。見て分かる無限のたし算です。

見て分かる無限のたし算

 1/2を初項として次々に1/2倍した分数を無限個たし算する問題です。

1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+…=?

 面積で考えることができます。初項の1/2は一辺の長さが1と1/2の長方形の面積(=1×1/2)としてみます。すると、第2項の1/4はその半分の正方形の面積となり、第3項の1/8は第2項の半分の長方形の面積となります。

 こうしてできる長方形と正方形を合わせていくとどうなるでしょうか。次の図のようになります。

 すると項をたしていくごとに図の左上角部分が埋まっていく様子が見てとれます。したがって、問題の答えは1辺の長さが1の正方形の面積と考えることができます。

1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+…=1×1=1 …(☆)

 左上角部分が埋まっていき正方形に限りなく近づいていくことを収束するといいます。無限のたし算の結果(和)が有限値に確定する時、無限級数は収束するといい、有限値は収束値と呼ばれます。

 (☆)の「=」とは無限級数の収束値を表しているということです。

 これが見て分かる無限のたし算です。

無限等比級数の和

 数列1/2、1/4、1/8、1/16、1/32、…は等比数列と呼ばれます。項を次々に1/2倍していく1/2は公比と呼ばれます。

 等比数列は高校数学教科書に登場します。等比数列の和は有限項の和のことです。

等比数列 1/2、1/4、1/8、1/16、1/32

 等比数列の項が無限になったものが無限等比数列で、それらのたし算が無限等比級数です。

無限等比数列 1/2、1/4、1/8、1/16、1/32、…
無限等比級数 1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+…

 無限等比級数は公比によって和の様子が変化します。公比が1以上ならば和は無限大です。例えば、公比2の無限等比級数

1+2+4+8+16+32+…=+∞

 これを無限級数が発散するといいます。そして、公比が-1と1の間であれば無限等比級数は収束します。その収束値は次のように表されます。

無限等比級数の和=(初項)/(1-公比)

 (☆)をこの公式で計算してみましょう。初項が1/2で公比が1/2ですから

1/2+1/4+1/8+1/16+1/32+…=(1/2)/(1-1/2)=1

 面積で考えた結果と同じになります。

0.9999999…=1の証明

 せっかくなのでこの無限等比級数の和の公式を別な問題に使ってみましょう。

 1/3×3=1に疑問はありません。ここで、1/3=0.33333…なのでこの式を小数で表してみると次のようになります。

1/3×3=1
0.33333…×3=1
0.99999…=1 …(★)

 (★)は頭をかしげてしまいます。上の計算過程に間違いを見つけることはできないにもかかわらず結果は受け入れがたいものです。

 これにはいくつかの説明がありますが、その1つが無限等比級数の和の考え方です。0.99999…は無限等比級数の和とみることができます。

0.99999…=0.9+0.09+0.009+0.0009+0.00009+…

 確かに右辺は初項0.9、公比1/10=0.1の無限等比級数の和です。公比1/10は-1と1の間にある数なので無限等比級数は収束します。無限等比級数の和の公式より

0.99999…=0.9+0.09+0.009+…=0.9/(1-0.1)=0.9/0.9=1

 と計算できます。ゆえに(★)が示されました。前述したように(★)の「=1」は無限級数の収束値が1であることと理解することができます。

Σの呪縛を解くカギ

 Σの呪縛を解くシリーズ第3弾から無限のたし算──無限級数に突入しました。

 無限級数では「収束」が問題になります。無限等比級数が公比の大きさで収束するかしないかが分かるように無限級数はどのような場合に収束するかを考える必要があります。そこにあるのは厳密性です。

 厳密性は数学の生命線であることは言うまでもありません。しかし、数学を学ぶ者にとってそれは大きな障害になることも事実です。厳密性にこだわり続けるばかりに数学の学びが息絶えてしまう人がどれだけいることでしょう。

 数学者オイラーは、無限級数の計算の達人でした。彼の辿った計算には厳密性の議論が飛んでいます。

 しかし、驚くべきことにオイラーは誰よりも先に正しい結論すなわち無限級数の収束値を得ることに成功しています。厳密性の議論は後の数学者によって行われているのです。

 オイラーは無限のたし算を「面白い」と実感しながら突進して行きました。ここにΣの呪縛を解くカギを見つけることができます。無限のたし算は引っかかるところが沢山でてきますが、オイラーを見習って「面白さ」を実感しながら突進していくことです。

 Σの呪縛を解くシリーズ、次回はアルキメデスの挑戦に迫っていきます。

筆者:桜井 進