経済ジャーナリストの荻原博子氏

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 抱える住宅ローンの返済は年々きつくなるのに、マンションの資産価値は年々落ちていく。さらに、マンションが老朽化するだけでなく、住人の年齢も上がっていく――経済ジャーナリストの荻原博子氏は、2016年12月に刊行された『生き返るマンション、死ぬマンション』(文藝春秋)のなかで、「今は、そんな『マンション大崩壊時代』『ダブル高齢化時代』に直面している」と指摘する。

 不動産経済研究所によると、16年の首都圏の新築マンション発売戸数は3万5772戸(前年比11.6%減)で1992年(2万6248戸)以来、24年ぶりの低水準となった。契約率は68.8%で70%を下回ったのは2009年以来初めてだ。一方、東日本不動産流通機構によると、16年の首都圏の中古マンション成約件数は3万7189件(前年比6.9%増)で過去最高を記録した。平均価格は新築マンションが5490万円、中古マンションは3049万円である。

 今、マンションは買うべきなのか否か。すでに住んでいる人は、どうすればいいのか。同書著者の荻原氏に聞いた。

●京都のマンション、築41年なのに資産価値が1.6倍

――本書では、資産価値を向上させているマンションの例として、「ブリリアマーレ有明」(東京都江東区)と「西京極大門ハイツ」(京都府京都市右京区)が紹介されています。どちらも、管理組合理事長の手腕が優れているからこそ、あれだけの取り組みができたのでしょうね。

荻原博子氏(以下、荻原) はい、どちらのマンションも理事長が優れています。西京極大門ハイツは築41年で、立地は地元の人が「住みたくない」と言うような地域です。さらに、京都の景観条例に引っかかるため、建て替えて高層マンションにすることもできません。そんな悪条件のなか、このマンションは資産価値が購入時の1.6倍になっているのです。

 一方、ブリリアマーレ有明は、経営の視点から分析してカテゴリ分類などを行うことで、資産価値を高めています。本書に詳述していますが、いずれも、常識にとらわれない取り組みを行うことで、新たな価値を創造しているのです。

――特に、西京極大門ハイツの管理組合の自主管理方式には「地方自治の発想があるのかな」という印象を持ちました。

荻原 そう! まさにそうですね。

――管理組合に能力のある人がいれば、管理会社を使わずに自主管理にしたほうがいいのかと……。

荻原 西京極大門ハイツの管理組合で感心するのは、非常に合理的なところです。たとえば、メンテナンスを管理会社を通じて工務店に頼むと、実際に作業を行うのは下請けや孫請け業者ですが、インターネットなどで直接その業者に頼めば、もっと安く済みます。西京極大門ハイツは、それを実践しているのです。

 私がそうしたやり方をよく理解できるのは、自宅を建てたときに工務店を入れなかったという経験があるからです。自分たちが工務店の役割をするかたちで建築家の方とやり取りをし、実際に作業する専門業者に直接発注したのですが、その際にいろいろなことを学びました。

 マンションの修繕や修理も、「こうしたい」という明確な希望があれば、専門業者に直接頼んだほうが安く済みます。西京極大門ハイツの管理組合は、それを実行しているだけであって、入居者から高い管理費を取っているわけではありません。

●西京極大門ハイツのすごい自主管理の秘密

――管理費の余剰金を入居者に還元しているぐらいですからね。

荻原 そんな管理組合は、ほかにはないと思います。

――内部留保として蓄積するという考えはないのでしょうか。

荻原 ないんですよ。建て替えするときの用地買収費には駐車場の収益を充てることにしていて、それはもう確保できています。それから、感心したのは配管工事の費用として、管理組合が1戸あたり38万円の補助金を支給して、業者と工事の時期を自由に選べるようにしたことです。親戚や友達に頼んで安く仕上げてもいいし、家庭の事情に合わせて工事期間も設定できます。

 安く仕上げて補助金が余れば、キッチンのリフォームやバリアフリーにする費用に充てることができます。そして、そうするとマンションの資産価値が上がりますよね。だから、すごく合理的な方法なんです。

――この方法を知って自主管理に目覚める管理組合が増えると、管理会社は管理する物件が減って困ってしまうのではないでしょうか。また、実際に作業をする事業者に直接発注して中間マージンを排除して安く済ませる方法も、本書には書かれています。これを実行されたら困るという工務店も多いでしょう。

荻原 でも、住人にとってより良い方法を追求した結果ですから、いいと思います。自分の家を建てたときに感じたのですが、どういう家にしたいのか、どういう暮らしをしたいのか、一番わかっているのは自分たちなんですよ。それを突き詰めて考えて実行したのが、西京極大門ハイツです。これは、ほかのマンションもマネのできる方法です。

●マンション購入、ローンは50歳までに完済すべき

――マンションを購入するなら西京極大門ハイツのような物件が望ましいと思いますが、そういう物件が見つかるとは限りません。

荻原 マンションを選ぶときには、管理組合を見るというのもひとつの方法かもしれません。立地条件で資産価値を考える人が多いですが、立地条件はガラッと変わることもあるので、将来どうなるかわかりません。

 たとえば、10年たてば仕事のやり方や形態も変わってきます。どこでも仕事ができる時代になったら都心に住む必要もなくなり、自分が住みたいところに住めるようになります。そうなれば、資産価値を考えてマンションを買う時代ではなくなるでしょう。世の中の仕組みやライフスタイルがどんどん変わっていくわけですから、住まいに対する考え方も変わっていいと思います。

――マンションの購入については、会社員の場合、住宅ローンと生活設計とのバランスの見通しが必須条件でしょう。マンションを購入している50代半ばの会社員で、子供2人の教育費を支払っている知人が数人いますが、聞いてみると、みな40代後半にローンを払い終えたので教育費を無理なく支払えているということでした。

荻原 それはすごいですね。私は「50歳でプラスマイナスゼロなら御の字」と言っています。50歳の時点でローンを完済するなど借金がゼロであれば、貯金がゼロでも問題ないというわけです。もし、子供の教育費にメドがついていて共働きなら、夫婦で年間200万円は貯金できるでしょう。そうすれば、10年で2000万円になります。

 そして、仮に60歳で定年退職して退職金が1500万円入れば、3500万円の貯金を確保することができます。いずれにせよ、ローンを完済すれば将来の生活の見通しが立つようになります。そのため、「投資するぐらいなら、ローンの繰り上げ返済をすべき」と言い続けています。

●ローン返済と教育費が重なり苦しむ50代

――多くの会社員は、50歳を過ぎると給料が下がっていきます。30代でマンションを購入して退職金で完済する計画を立てている人は、目算が狂ってしまうのではないでしょうか。

荻原 会社の業績が悪ければ退職金が出ない場合もあると思いますが、その時点でアウトです。また、返済期間中に会社が倒産するかもしれません。想定していない事態がいつ起こるかわからないということを認識すべきで、住宅ローンは50歳までに完済する計画を立てておくべきでしょうね。

 私は、50代でローン返済と教育費が重なって苦しんでいる人をたくさん見てきましたが、そういう人は「今がなんとかなればいいや」と思考停止に陥ってしまい、「将来、こうしよう」という前向きなビジョンを持てなくなってしまうのです。たかだか家のことで人生が立ち止まってしまうというのは、本当に罪なことですよね。

――そんな状態では、仕事もうまくいかないでしょう。マンションを購入する際は、そのリスクも冷静に考えるべきではないでしょうか。

荻原 購入することで、お金だけでなく住む場所も縛られてしまいます。しかし、所有欲の強い人もいるでしょうから、「どうしても購入したい」という意思は尊重するべきでしょう。ただ、今は何が起こるかわからない時代です。無理してローンを組んでマンションを購入するぐらいなら、借家住まいを続けて、現金を1000万円貯めたほうが現実的です。貯金が1000万円あれば、不測の事態にも対処できますから。変化の激しい時代においては、現金を持っているということが最大の強みになります。

●国策の住宅バブルで欠陥マンションが激増!

――本書では「不動産購入に慣れていない人の場合、いったん心が購入に傾くと、もう一度立ち止まって冷静に考えるというのはなかなか難しくなる」と指摘しています。

荻原 慣れていない人ほど、「買う」というスイッチが入ってしまうと、切り替えができなくなってしまうのです。私は、いろいろな人に「まだ価格が下がるから、もう少し待ったほうがいい」とアドバイスしたことがありますが、一度スイッチが入ってしまうと、もう無理。初めての経験なので、冷静に判断できなくなってしまうのでしょう。

 また、マンション購入を煽るために国が加担していたという事実を指摘したいです。かつて、政府は景気回復のために国策として多くの国民に家を買わせようと仕向けました。結局、そのツケは耐震偽装や杭打ちデータ偽装などの欠陥マンション、ローン破綻者の増加といったかたちで表れています。

――国が住宅バブルを引き起こし、それに乗せられた多くの会社員がローン返済に苦しんでいるという現状が、本書には詳しく書かれていますね。

荻原 ひどい話です。1997年にアジア通貨危機、北海道拓殖銀行の経営破綻、山一證券の自主廃業、98年には日本長期信用銀行の経営破綻が起きて、日本は不況に見舞われました。そこで、国が住宅バブルで不況を乗り越えようと、98〜99年にかけて3つの住宅政策を打ち出したのです。

 まず、建築基準法の要件を緩和して大量に住宅を供給できるようにしたこと。また、住宅金融公庫の住宅ローン金利を2%まで下げて低所得者でも大型ローンを組みやすくしたこと。さらに、マイホームを購入したときに税金が戻る住宅ローン控除を過去最大に大型化したことです。

 この3つの政策で住宅バブルが引き起こされ、住宅ローンの返済額を最初の5〜10年間は低く抑える「ゆとり返済」も、その流れに拍車をかけました。「家を買えよ!」「借金を背負えよ!」と国民の懐に手を突っ込んでくる政策でした。

――国税庁の調査によると、会社員の平均給与は97年がピークで年収467万円でしたが、その後下がり続けて、この数年は上向いていますが、2015年は420万円でした。ローン返済は依然厳しい情勢です。

荻原 会社員の平均給与が下がり続ける中、5〜10年が経過したローンの返済額が一気にアップしたことで、行き詰まってマイホームを競売にかけられる人が激増する事態になりました。

――国が購入を煽ったことに加えて、マンション販売業者は、マンション価格や住宅ローン金利がどう変動しても、常に「今が買いどき」と言いますからね。

荻原 そうです。でも、販売することが彼らの仕事ですからね。それは仕方がないのではないでしょうか。

――本日は、いろいろと示唆にあふれたお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)