日本板硝子株式会社大阪本社が所在する住友ビル本館(「Wikipedia」より)

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 2月2日の東京株式市場では、日本板硝子の株価が一時、前日比103円(11%)安の829円に急落した。同社が400億円規模の増資をすると伝わり、1株当たり利益の希薄化懸念から売りが先行した。

 日本板硝子は、3月末までに企業再生ファンド2社を引受先として第三者割当増資を行う。日本政策投資銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行が出資するジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JISファンド)と、日本政策投資銀行、三井住友銀行、三井住友ファイナンス&リースによる「UDSメザニンファシド」(UDSファンド)が、日本板硝子の発行する優先株を合計400億円引き受ける。

 日本板硝子は2006年に行った英ピルキントン買収に伴う金利負担の重荷で財務状況が悪化し、16年12月末の自己資本比率は11.7%にまで低下した。第三者割当増資で自己資本を拡充するとともに、金融費用の削減によって財務の安定化を図る。現在の時価総額は800億円前後なので、400億円の増資となれば、発行する株式数が大幅に増える。

 日本板硝子にとって株価の急落は、いわば“年中行事”となっている。昨年6月、英国の欧州連合(EU)離脱が決まった際に、自動車や精密など欧州のビジネスの比重が大きい銘柄が売られたが、日本板硝子も英国関連銘柄として値を下げた。同年6月28日には年初来最安値の60円に沈んだ。

 16年9月28日付で、日経平均株価を構成する13銘柄が株式併合をしたとみなす、「みなし額面」が変更された。日本板硝子も額面50円が、みなし額面500円になった。16年6月28日につけた年初来安値60円は、調整後には600円に相当する。冒頭で紹介した2月2日の829円という株価は、従前なら82.9円ということになる。

 ピルキントン買収の失敗が重石となり、株価はさっぱり浮上しない。そのため、株式市場では「ピルキントンの呪い」とまでいわれている。

●買収した企業のトップを本体の社長に据える奇策

 06年2月27日、板ガラス世界第6位の日本板硝子は、同3位のピルキントンの全株式を取得し、完全子会社にすることで双方が合意したと発表した。総額6160億円の大型買収だった。

 当時の日本板硝子の連結売上高は2649億円。一方、ピルキントンは5000億円。年商が2倍の企業を傘下に収める「小が大を呑む」買収として話題をさらった。

 日本板硝子は海外売上高比率が2割から7割へ急増し、生産拠点は28カ国、従業員は2割が日本人で、それ以外はすべて外国人という、文字通りグローバル企業へと転換した。

 買収後、日本板硝子はグローバル企業を管理運営する困難さに直面した。ドメスティック(国内型)企業の典型であり、グローバル企業をハンドリングする経営ノウハウを持ち合わせていなかったからだ。

 この課題を解決するため、出原(いずはら)洋三会長(当時)が出した答えは、「外国人が経営し、日本人が監視する」という特異な企業統治形態だった。出原は、「買収したか、されたかを超越する発想の転換を行った。これこそハイブリット経営体制だ」と自画自賛した。

 08年6月、日本板硝子の社長にピルキントンの社長だったスチュアート・チェンバース氏が就任した。買収された会社のトップを本体の社長に抜擢したのだから、経済界は驚いた。

 ところが、就任からわずか1年2カ月たった09年9月、チェンバース氏は「家族と多くの時間を過ごすため」という“迷文句”を残して社長を辞任した。辞任会見で、「日本の古典的サラリーマンは会社第一主義だ。それが間違いだとは言わないが、私には家族が一番だ」と発言した。まるで日本のサラリーマンは会社の奴隷で、社長の重責にありながら“敵前逃亡”する自分が人間的であるかのような言い草だった。

 そのチェンバース氏が昨年、再びニュース面を飾った。ソフトバンクグループが16年7月、3兆3000億円で買収を発表した英半導体設計大手アーム・ホールディングスの会長がチェンバース氏だったのだ。彼は、ピルキントンとアームを日本企業に高値で売りつけた、したたかな英国人経営者ということになる。

 日本板硝子は懲りずに、クレイグ・ネイラー氏をヘッドハンティングしたが、「経営戦略の違い」を理由に、同氏は1年10カ月で辞任。外国人社長の起用に2度失敗して、ハイブリッド経営の旗を降ろした。12年に吉川恵治氏、15年に森重樹氏と、日本人社長の経営に移行した。

●ピルキントン買収後の10年間で最終赤字は6回

 経営トップが迷走していては、業績が上向くわけがない。ピルキントンを買収した初年度の07年3月期から16年3月期までの10年間の決算は、無残というほかない。

 10回中6回が最終赤字だった。リーマン・ショック後の09年3月期から最終赤字に転落。11年3月期に1度黒字浮上したが、それ以降は再び水面下に沈んだ。15年3月期に4期ぶりに16億円の黒字に転換したが、16年3月期は再び赤字に転落。しかも、最終損益段階で過去最大の498億円の巨額損失を計上した。

 累積赤字が膨らみ、その結果、利益剰余金は1315億円の赤字となった。配当は12年3月期を最後に無配だ。この間、リーマン・ショックと欧州債務危機という2つの大きな経済危機が起きたが、これは他社も同じことで、赤字の言い訳にはならない。

 日本板硝子は、買収したピルキントンをガバナンス(企業統治)できなかったことが経営悪化の最大の原因だ。

●400億円増資も空振りするおそれ

 17年3月期の連結決算(国際会計基準)では、売上高が前期比9%減の5700億円、営業利益は60%増の310億円、純利益は50億円の黒字に転換する見込み。事業別では建築用ガラス、自動車用ガラス、地域別では欧州の収益が好転し営業増益となる。

 16年同期は、中国で建築用ガラス、ブラジルで自動車用ガラスが、想定したほどの利益を得られず巨額の減損を計上し、498億円の最終赤字に沈んだ。

 17年3月期の最終利益は50億円にとどまり、復調したとはいいがたい。業界首位の旭硝子の最終利益は474億円(16年12月期)と断トツ。同3位のセントラル硝子の100億円(17年3月期見込み)にも及ばず、同4位の日本電気硝子の49億円(16年12月期)と同じ利益水準だ。

 ピルキントン買収の負の遺産が重くのしかかる。社債・借入金は4275億円(16年12月末)。年間の金融費用は198億円(16年3月期)に上る。

 2つのファンドを引受先とする400億円の第三者割当増資で自己資本の充実を図り、金融費用の削減によって収益の改善を目指す。増資で長年悩まされてきたピルキントンの呪いから解き放たれ、経営を立て直すことができるのか。
(文=編集部)