20日、田中均・元外務審議官は日本記者クラブで講演し、「米中間で貿易戦争になったら、日本や東アジアは大きなダメージを受ける」と指摘。米中首脳間で「グランドバーゲン」(包括的取引)が成立することが日本とってもアジア諸国にとっても望ましい、との考えを示した。

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2017年2月20日、田中均・国際戦略研究所理事長(元外務審議官)は日本記者クラブで講演し、「米中間で貿易戦争になったら、日本や東アジアは大きなダメージを受ける」と指摘。米中首脳間で経済・外交・安全保障を包括的に決着させる「グランドバーゲン」が成立することが日本とってもアジア諸国にとっても望ましい、との考えを示した。北朝鮮の核ミサイル開発問題に関し、南北朝鮮が統一されて平和な体制をつくるために、米中韓日など国際社会は行動すべきだと強調した。田中氏の発言要旨は次の通り。

今後最も重要なのは米中関係だ。日本、米国、中国の3角関係で決まってきた。日本は2つの戦争をし、米国とも戦った。ペリー来航から40年で日清戦争、それから40年で(太平洋戦争・日中戦争)敗戦を経験した。次の40年、どんどん大きくなる中国とどう向き合っていくか。日本は繁栄した国にとどまれるのか。

米中関係がどうなるか関心を払わなければならない。米中間で貿易戦争になったら、日本や東アジアは大きなダメージを受ける。トランプ氏は、当初は中国に対し基本的に強い態度に出ると思われた。台湾の蔡英文総統と電話会談したが、「一つの中国」は米中の政治の基礎となっており、皆認識していることで、最近この基本的な考え方に戻ったようだ。

米中首脳間でグランドバーゲン(包括的取引)が成立することが日本とってもアジア諸国にとっても望ましい。日本にとっても米中貿易戦争が起きない方がいい。経済的には米国は東アジアで建設的に、中国と話し合いをして関与すべきだ。

中国は経済成長至上主義で来た。米中バーゲン(取引)の条件は(1)東シナ海、南シナ海で自制するか、(2)北朝鮮に本気で圧力をかけられるか―の2点だ。米中協調が東アジアの安定と発展に望ましい。

TTP(環太平洋連携協定)は地域で資本主義体制のルールをつくり、国家資本主義とは違う体制をアジアでより広めていこうという戦略があった。中国の力が大きくなってくる中で、リベラルな経済体制が損なわれることは米国の不利益になると言う認識を米国は以前持っていた。

ところが米国が東アジアに健全に関与していくことに確信が持てない状況となった。米国が始め、日本も協力してようやくまとまったTTP協定を米国はいとも簡単に離脱した。日本は相談されておらず、唯々諾々と「ハイそうですか」というわけにいかない。日本にとって影響はきわめて大きく、完全に廃棄せずに可能性をなお開いておくべきだ。RCEP(東アジア地域包括的経済連)など自由貿易委協定の推進など手を打たなければならない。

日本は貿易や投資で中国など近隣諸国と深く結びついている。昨年の訪日外国人も中国500万人、韓国400万人など東アジアの人たちが圧倒的だ。この地域の重要性を軽く見てはならない。

米国が東アジアに健全な関与をすることが、米国にとっても日本にとってもメリットがある。米国は中国と協議し、中国に覇権を求めさせない行動を取ることが重要だ。

安倍首相とトランプ米大統領の先の会談で、日米首脳間の緊密な関係が成立した。親しい関係をつくるのは重要だが、両国首脳の緊密な関係構築は目的ではない。これまで、日米首脳同士では、レーガン・中曽根康弘、ブッシュ・小泉純一郎の時代に親しい関係になったが、何をやったか。私は(外務官僚として)両方立ち会ったが、中曽根首相は、西側の一員としての地位を追求した。小泉首相は(対イラク政策をめぐり)ブッシュ大統領に対し、米国は力はあるが権威はないとこんこんと話し、安保理決議を促した。(直言すれば)「2倍返しされる」と恐れることなく建設的に関与することが重要である。

北朝鮮はかつて(金正日時代)は先軍体制で、今よりも安定していた。体制も国の限度が分かっていたが、今は違う。国際社会環境をつくることが必要だ。(傍観するだけの)「圧力と忍耐」で、結果的に何もしないということではいけない。

中国が北朝鮮に圧力をかけられる体制をつくること、一定のアシュアランス(保証)を中国に与えないと動かない。南北朝鮮が統一されて平和な体制がつくられるべきだ。中国国内には朝鮮族が暮らしている。難民が流入して、領土が混乱するようなことはないと国際社会が保証すべきだ。日本、韓国、米国、中国が協議し、行動する必要がある。(八牧浩行)