ベルリン映画祭にて(左より)ホアン・ジー、ヤオ・ホングイ、大塚竜治

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 第67回ベルリン国際映画祭で、中国在住の大塚竜治が夫人のホアン・ジーと共同監督した映画『ザ・フーリッシュ・バード(英題) / The Foolish Bird』(中国)が、子供に見せたい映画を対象にしたジェネレーション部門の14プラス(14歳以上の審査員が選出)で、次点にあたるスペシャル・メンションの評価を得た。大塚は「日本を離れて中国で映画をつくることを許してくれた両親に感謝したい」と喜びのコメントを寄せた。

 大塚はテレビ番組のディレクターを経て、2005年に映画製作を学ぶために中国の名門・北京電影学院に留学。そこでホアン監督と出会い、以来、大塚が撮影と製作、ホアンが監督を担当し、二人三脚で自主製作を続けてきた。2人の短編『ザ・ワームス・オブ・オレンジ・ピール(英題) / The Warmth of Orange Peel』(2005)は、本作同様にベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に選出されている。

 そしてホアン監督の初長編作『卵と石』(2012)が第41回ロッテルダム国際映画祭コンペティション部門で最高賞のタイガー・アワードを受賞し、一躍、世界が注目する存在となった。新作『ザ・フーリッシュ・バード(英題)』は、『卵と石』に続くホアン監督の実体験をモチーフにした少女の成長物語第2弾で、主演女優も同じヤオ・ホングイが演じている。

 映画はホアン監督の出身地である湖南省の田舎町が舞台。だが、携帯電話の普及が、16歳の少女リンの生活や人間関係に大きな変化を及ぼしているというグローバルな問題を描いている。大塚さんいわく実際に取材をしてみると1990年代と今では高校生の生活や考え方がだいぶ異なる事から、現代の視点に置き換えて描いたという。そこがベルリンの若い審査員たちの支持と共感を得たのだろう。

 同時に本作からは、中国に根強く残る階級社会や経済格差も垣間見えてくる。それはやはり、緻密な脚本と積み重ねてきた時間の賜物だ。大塚さんたちは北京在住だが、撮影の為に愛娘を連れて現地で約7ヶ月生活。日々起こる出来事を脚本に取り入れつつ練り上げた。しかもヤオ以外の出演者は、地元の素人だという。リハーサルを繰り返し、時には彼らの感情の変化に合わせて脚本を修正しながら撮影を進めたという。

 その試行錯誤の様子は、2016年7月にWOWOWで「ノンフィクションW 独立系映画が映す中国〜女性監督ホアン・ジーの闘い〜」としても放送されている。そして今回、初めて共同監督する事になった大塚は「ホアン監督と討論する事も多く、離婚してもおかしくなかった」と笑う。だが自主で始めた映画づくりも、編集段階で強力なメンバーがサポートに現れた。

 撮り上がった映像に感銘を受け、台湾映画『藍色夏恋』(2002)のシュー・シャオミンがプロデューサーとして参加する事に。さらにシューが懇意にしている巨匠ホウ・シャオシェン監督のスタッフであるリャオ・チンソンが編集を、『罪の手ざわり』などのリン・チャンが音楽を担当。完成した作品のクオリティーの高さも高評価に繋がったに違いない。大塚は「リャオさんはストーリーに縛られず、役者の些細な感情の変化を丁寧に編集で繋いでいたのが印象的で、非常に勉強になりましたし、リン・チャンの音楽に秘められた情感が、映画そのものを見事に昇華してくれたと思います。何より2人が、僕たちが目指す映画づくりに賛同してくれた事が大きな自信になりました」と語る。

 ただ、劇中には性描写や携帯電話を不法売買する違法行為シーンがあり、検閲で問題になる可能性が高く、中国公開は厳しいかもしれない。だが今後、国際映画祭などで引っ張りだことなるだろう。大塚も「ベルリンでの評価をきっかけに、アジアや日本の皆さんにも観てもらえる機会が増えたら嬉しいですね」と期待を寄せていた。(取材・文:中山治美)