楕円形の黒い謎の物体が話題を呼んでいる『メッセージ』ポスタービジュアル

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 まずはイントロダクション。本作と出逢う前に、現在高校3年生となった長男の幼き頃、彼との思い出の数々がなぜかフラッシュバックした。試写室へと向かう電車の道中で。そして、いざ座席につき、開幕するや、ヒロインらしき女性の声でモノローグが始まり、生まれたばかりの娘を抱く姿、一緒に無邪気に戯れる幸福な日々、反抗期、その理不尽な死などが矢継ぎ早に映し出され、積み重なっていくメランコリックな気分がついさっきまでの自分とシンクロしているようで、ちょっと驚いた。(文:轟夕起夫)

 今年の10月に公開される『ブレードランナー2049』も楽しみなドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』は、いわゆる未知の生命体との“ファースト・コンタクト”を描いたSFだ。ある日、世界の主要国12か所に、全長450メートルもの(貝のフォルムのごとき形状の)宇宙船が降り立つ。アメリカには平原地に出現。映画冒頭の声の主であり、大学で教鞭を執っていた言語学者ルイーズ(エイミー・アダムス)が軍の精鋭チームに招集され、人間とは当然まったく別の思考体系を有する地球外知的生命体との対話方法を探ることに。

 作品を推進する原動力は、いくつもの謎である。ルイーズが、同じく招集された物理学者イアン(ジェレミー・レナー)と挑む異言語の解読……そもそもなぜ、何を目的に地球にやって来たのか? それから、不意にフラッシュバックに襲われるルイーズのバックボーンも。ちりばめられた謎は容易には明らかにならず、むしろ膨らんでいく。従ってずーっと緊張感が続く。ジリジリと、ジワジワと。これが息苦しくもスリリングで、“痛心地”いい。

 いろいろと、ヒントは出されてはいるのだ。例えば、7本の触手を持ったエイリアン2体、その形態からヘプタポッド(7本足)と名付けられた地球外知的生命体は、ルイーズとイアンの間では“アボット&コステロ”と呼ばれている。アメリカ往年のお笑いコンビ、バッド・アボットとルー・コステロにちなんだお遊びだが、彼らの有名な漫才ネタに「Who’s On First?」(一塁手は誰)というのがあって、名詞の掛け違いによるディスコミュニケーションが続く。ルイーズのフラッシュバックの中では娘がある難しい単語を探していて、それが互いに影響し合って得をする“非ゼロ和ゲーム”だとわかる。娘の名は、英語だと回文のできるHannah(ハンナ)で、これにも重要な意味が。つまり、観ている側の脳味噌をフル回転させる“つくり”になっている。

 空中に浮かぶ宇宙船は我々を、かのスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(1968)の石柱状の謎の物体、モノリスさながらに思索へといざなう。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は「100年にも及ぶ映画言語に反したことをするのがいかに大変かに気付いた」と述べているが、この作品自体がいわば“未確認飛行物体”となっているのだ。観たあとは、世界の捉え方が少し変わる。言語や時間、記憶についての概念も。筆者が本作と出逢う前に脳裏を横切ったイメージにさえ、もしかしたら特別な含意があったような、、何やらそんな気がしてくるのであった。