<ホワイトハウスの勝手な思い込みに反し、メキシコは大量の不法移民をアメリカに入る前に拘束し、本国に強制送還してくれている。その相手を侮辱し、信頼を損ない、トランプ流の強硬策を通そうとしても、メキシコは受け入れないだろう>

中米グアテマラの国境近く、メキシコ南部タパチュラの通りを走るトラックの後ろに彼はぶら下がっていた。メキシコの国境警備隊員だ。片手に半自動ライフルAR-15を握り、ライフルも防弾チョッキも、自分が受けた訓練のほとんども「メイド・イン・アメリカ」だと言った。

彼の装備を見れば、メキシコの国境警備がどれほどアメリカと密接に連携し、直接的な支援を受けているかが一目瞭然だ。メキシコは近年、麻薬の取り締まりや国境を越えた犯罪や不法移民に対処するため、アメリカとかつてない緊密な協力関係を育んできた。

水曜からメキシコを訪問するアメリカのジョン・ケリー国土安全保障長官とレックス・ティラーソン国務長官に立ちはだかるのは、まさにそうした現実だ。両長官はドナルド・トランプ米大統領による新たな不法移民の取り締まり強化策(悪名高い壁も含む)について、反発するメキシコからなんとかして合意を取り付けるため、エンリケ・ペニャニエト大統領や他の政府高官と会合する。

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メキシコ実は優等生

火曜に国土安全保障省が公表した指針は、バラク・オバマ前米大統領が出した移民に関する大統領令や指針をほぼ全て撤廃し、国内に滞在する不法移民の取り締まりを格段に強化する内容だ。不法入国したという事実だけで、米当局は大量の移民を容易に送還できるようになる。オバマ前政権からの大きな変化は、「簡易送還」の対象者を拡大した点だ。従来は入国から2週間以内、国境から160キロ以内で拘束された不法移民が対象だったが、今後は入国から2年以上経っていることを証明できない限り全米のどこにいても拘束の対象になる。さらに出身国以外の国へ強制送還することもあるという。

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「アメリカはメキシコより巨大で強力な国だから、メキシコ側に交渉力はないと思うのは間違いだ」と指摘するのは、米ウッドロー・ウィルソン国際学術センターでメキシコ研究所副所長を務めるクリス・ウィルソンだ。「現時点でメキシコは、アメリカよりはるかに多くの中米出身者を本国へ強制送還している。メキシコはアメリカが嫌がる仕事を代行しているとも言える。もし2国間の協力関係の枠組みが失われれば、メキシコはアメリカに有利なすべての取組みを打ち切る構えだ」

モリー・オトゥール