【書評】米国何するものぞ。国を思う文士・阿川弘之の憤慨録
「自由で安全になった日本社会で育った現在の物書きには気骨やユーモアがない」と一刀両断するのは、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』編集長の柴田忠男さん。そんな柴田さんが今回紹介しているのは、気骨もユーモアも持ち合わせていた文士たちの品格が否応なしに伝わってくる、何でもありの憤慨録です。
『国を思うて何が悪い』
阿川弘之・著 光文社
阿川弘之『国を思うて何が悪い』を読んだ。1987年の光文社のベストセラーを、1997年に文庫化したものである。20年前の著作だがいま読んでもまったく違和感がない。元講談社の鬼編集長・大久保房男のすすめというより脅迫で語り下ろした、何でもありの憤慨録の草稿を二人で徹底的に朱筆をいれたもので、さすがの品格である。
自由主義者の阿川が平素、腹に据えかねている政治や社会、言論界のうさんくさい進歩的風潮に対する苦言、品のよい皮肉といった感じで、登場する文士や政治家などはさすがに古いが、その手合いはいまでもゴロゴロいるからすぐに応用が利く。海軍出身だから陸軍をくさすのはわかる。「グズグズ言うならぶった切る」というのは陸軍の体質を如実に示すものだ。そうすると「安倍は人間じゃない。たたき斬ってやる」と叫ぶ山口二郎法政大教授みたいのが陸軍タイプなのであろう。この本では、やはり気骨のあった文士たちの話が一番面白い。佐藤春夫は「日本は戦争に勝ったんだ、戦闘に負けただけだ」と主張する。
佐藤説によれば「日本は確かに戦闘には負けた、しかし、日本の戦争目的は植民地にされているアジアの国々を独立させることだったんだ、それならこんにち、フィリピンもインドネシアもインドもビルマも、みな独立したじゃないか、あの戦争があってようやく独立出来た、つまり、日本の戦争目的が達成されたわけで、これは日本が戦争に勝ったということじゃないかねって。半分本気、あとの半分はまあ、『一億総ざんげ』と称した戦後の安っぽい反省ムードが不愉快でわざとそういうこといわれたんでしょうがね」。それから数年後、アメリカで日本ブームが起こっているという報道を見て、佐藤春夫はこう言った。
「これが日本が戦争に勝った証拠だよ」。なぜかと問うと「戦勝国の高い文化は、文化の低い敗戦国に浸透して行く。これは、古来から歴史の常識じゃないかね、君」。佐藤は超ヘビースモーカーで、戦後はロングサイズのペルメルばかり喫ってる。編集者が大先生を少し困らせてやろうと「どうして日本の煙草を喫わずに、そんな文化の低い敗戦国の煙草ばかり喫うんですか」と訊ねたら「これは敗戦国の貢物じゃ」と言ったそうだ。雑誌も手紙も検閲されていて、アメリカ批判など口にする人はめったにいない時代の話だ。自由で安全な社会で、反体制反権力が売り物の現在のもの書きたちには、そんな気骨やユーモアは爪の先ほどもない。朝日新聞の受け売りで正義面をした輩が多い。
編集長 柴田忠男
『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』
この著者の記事一覧/メルマガ
デジタルメディアで活躍する現役クリエイターたちのコラムで構成されている本格派。総発行部数約16000! 真のクリエイターを目指している方からデジタルに関わる方まで、すべてに向けて発行中!
出典元:まぐまぐニュース!