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ディズニーリサーチは、電子機器が部屋の中のどこに置かれていても、無線給電できるシステムを開発した。室内空間のほぼ任意の位置にある複数の電子機器に対して電力を無線で安全に供給できるという。研究論文は、オープンアクセスの科学誌「PLOS ONE」上で公開されている。

今回の無線給電技術は磁気共鳴方式の一種であり、ディズニーリサーチでは準静空洞共鳴方式(QSCR: quasistatic cavity resonance)と呼んでいる。給電側コイルに電流を流して、室内、倉庫内などの空間に準静磁界を発生させ、この磁界の振動に対して受電側コイルが共鳴することによって電力を得るという仕組みである。

無線給電には大きく分けて電磁誘導方式と磁気共鳴方式があり、電磁誘導方式では、給電側コイルと受電側コイルの距離を数mm〜数cm程度と近接させる必要がある。これに対して、磁気共鳴方式は、送電距離をメートル単位まで延ばせるという特徴がある。その原理自体は、ニコラ・テスラが「テスラコイル」を発明した1890年代から知られていたが、人体が電磁界に長期間曝露した場合の健康への影響が不明だったため、規制当局によって厳しい安全基準が適用されてきたという経緯がある。その結果、磁気共鳴方式においては、送電距離を長く取った場合、送電量を小さくしないと安全基準が満たせないというトレードオフが存在していた。

研究チームは今回、IEEEおよび米国連邦通信委員会(FCC)が設けている安全基準に適合する形で、標準的な広さの室内全体への無線給電が可能なシステムの設計を行った。設計されたモデルでは、コンデンサを複数内蔵した銅製の円柱を部屋の中央部に配置する。周囲の壁・天井・床には、アルミシートとアルミフレームを用い、部屋全体を金属製の共振空洞として作用させる。このように条件を整えた上で、一次コイルで発生させた電磁界の周波数に円柱を共振させることによって、直方体の室内空間全体に均一に広がった磁界を作り出すことができる。

論文によると、部屋の大きさが電磁波の波長よりも小さくなるため、室内空間全体がサブ波長の共振器として動作する。このとき室内での磁界分布の均一性が高くなり、部屋の隅でもそれほど減衰しなくなるため、電子機器に取り付けた小型の受電コイルによる共振でも十分な電力を得ることができるという。また、サブ波長サイズの室内で動作させることにより、電界に対する磁界の強度比を自由空間に比べて100倍以上大きくとることができる。これによって無線給電に利用される磁界を、人体への影響が懸念される電界から分離することができるため、より多くの電力を安全基準内で伝送できるようになるという。

共振周波数は1.32MHzとした。メガヘルツ帯の比較的低い周波数を使用する理由は、室内に日常的に置かれている物品と電磁波がほとんど相互作用せず、電磁誘導方式の無線給電でしばしば問題になる金属製品の誘導加熱といったトラブルが起こらないためであるという。

実験用のQSCR室(容積54m3)では、室内のほぼ任意の位置に置いた10個の機器(携帯電話、LED電球、ファン、リモコンカーなど)に対して45〜95%の効率で給電できることが実証されている。また、生体組織に吸収される電磁波についての単位である比吸収率(SAR: Specific Absorption Rate)に関しても、有限要素法によるモデリングなどを行い、最大1900Wの電力(スマートフォン320台を同時に充電可能)を安全基準内で伝送できることを確認したとしている。また、出入口や窓などの開口部があって密閉されていない構造であっても、システムの効率をそれほど落とさずに運用可能であるという。

ひとつ問題となるのは、このシステムでは現状、部屋全体を金属製の空洞にする必要があるということである。つまり、壁・床・天井をアルミシートなどを用いた金属面にする必要があるため、残念ながら、この技術を使って自宅で誰でも簡単に無線給電できるようになる、というわけではなさそうだ。

ただし、モジュラーパネルを使用したり、導電性塗料で塗装するといった対応を行うことで、既設の建物にも同システムは導入可能になるだろうとディズニーリサーチは主張している。また、将来的には、QSCRの最適化を進めることによって、金属面の必要性は大幅に低減させることができると予想されている。

(荒井聡)