トランプ政権のマイケル・フリン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、就任前にロシア政府と接触していたとの疑惑で辞任に追い込まれた。

 日本では半ば驚きをもって報じられているが、トランプ政権の派閥構造から簡単に予測できたことである(筆者は事前に辞任を予測し、ツイッターなどで発信していた)。

 また、前回の本コラム(「トランプは入国禁止令の裏で『宣戦布告』していた」)で、筆者はトランプ政権がシリアへの地上戦力の投入を目論んでいることを指摘したが、最近になって内外のメディアがこれを証明する報道を行っている。実はこれもトランプ政権の派閥構造上、明白なことなのである。

 今回は、トランプ政権の派閥構造を説明し、それがどのようにフリン辞任や後任人事に影響するのか、さらに、そこからどのような顛末をたどる可能性があるのかを解説したい。

トランプ政権を支配する“過激”な共和党保守派

 トランプ政権を構成する各勢力を整理すると以下の通りである。

[1] 共和党保守派の3つの勢力

 (1)過激な「共和党保守派」(マーサー財団系)
 (2)穏健で伝統的な「共和党保守派」
 (3)リバタリアングループ

[2] トランプ一派

 簡単に説明するとトランプ政権は共和党保守派の3つの派閥から形成されている。トランプ一派は少数派でしかない。

 共和党はマケイン上院議員やブッシュ一族を代表格とする「共和党主流派」、およびそれと激しく対立する「共和党保守派」に大別される。「共和党保守派」は、「小さな政府」を信奉し、ティーパーティーやヘリテージ財団をバックとする集団である。そして、トランプ政権の最大派閥は、この「共和党保守派」なのである。

 これを閣内で率いるのは、ゴリゴリの宗教右派のペンス副大統領、バノン首席補佐官、コンウェイ上級顧問、ポンペオCIA長官、プライス厚生長官、セッションズ司法長官、ペリーエネルギー長官、ヘイリー国連大使、ジンキ内務長官、マルバニー予算管理局長、バーデュー農務長官、プルイット環境保護局長官などだ。まさに「共和党保守派」が内政の枢要を占めていることが分かる。これは日本で言えば、副総理兼財務大臣、官房長官、官房副長官、首相補佐官、内閣情報官、法務大臣、厚労大臣、農林大臣、総務大臣、環境大臣、特命担当大臣などを単一の派閥が輩出し、経団連や農協などの圧力団体を抑えているようなものだ。共和党保守派の影響力の強さが分かろう。 

 この共和党保守派には、いくつかの勢力がある。第1の勢力はマーサー財団系である。これは旧テッド・クルーズ陣営と呼ぶべきものであり、「保守過激派」と言うべきものである。マーサー財団は大富豪のロバート・マーサーと娘のレベッカが管理する団体だ。彼らは現状のエスタブリッシュ支配を破壊すべきと考えており、それは彼らの子飼いたるバノン首席補佐官やコンウェイ上級顧問の考えとも共通している。

 マーサー財団は、バノンに1000万ドル(11億円!)もの資金提供をし、彼がブライトバートニュースを立ち上げるのを助けており、理想でも共鳴しているとされる。実際、バノンはレベッカの「オビワンケノービ」だと共和党関係者は指摘している。要するに、トランプ政権の最大のキーマンたるバノンをその影響下に置いているのである。これだけでも彼らの影響力の強さがお分かりいただけよう。

 また、マーサー財団は政権移行チームや閣僚に関係者を送り込めた、ほぼ唯一のシンクタンクたるヘリテージ財団に多額の寄付をし、事実上支配している。実際、レベッカはヘリテージ財団の理事を務めている。彼らはティーパーティーの最大勢力の1つ「パトリオッツ」にも多額の寄付を行い、事実上の傘下としている。

 このように、マーサー財団を中核とする保守過激派こそが、トランプ政権の最大派閥なのである。

 共和党保守派の第2の勢力は、マーサー財団よりは穏健かつ伝統的なグループである。ここにはプリーバス首席補佐官、ペリーエネルギー長官など、パトリオッツ以外のティーパーティー系議員および閣僚が含まれる。また、共和党に対して最も高い影響力を持つ圧力団体の1つ「全米税制改革協議会」の代表を務め、トランプ大統領を支援するグローバー・ノーキストもその一員である。

 この集団はマーサー財団系と対立しているわけではなく、実際、ノーキストとマーサーは親しいとされている。ただし、プリーバス首席補佐官のような主流派と「話せる」ような人物はやや孤立気味である。

 共和党の第3の勢力は、リバタリアングループだ。PayPal創業者のピーター・ティールやヘッジファンドのアンソニー・スカラムッチのような億万長者等、コーク兄弟の旧傘下の人間などが実務レベルで政権に参加している。

影響力も結束力も弱いトランプ一派

 フリンは、これら3つの派閥には属さない、トランプ一派の側の人間であった。

 トランプ一派とは、トランプの親族(息子や娘たちと婿のクシュナー上級顧問)、ウォール街出身者(ムニューチン財務長官およびロス商務長官)、エネルギー産業系(ティラーソン国務長官)、反ネオコンの軍人・専門家(フリン前国家安全保障補佐官、マティス国防長官、マクファーランドNSC次席補佐官)などから構成される、トランプ大統領の家族・友人・知人からなる寄せ集め集団である。

 トランプ大統領の関係者ということだけが共通点であり、内部には対立もある。例えばフリンはマティスやティラーソンと対立し、マクファーランドNSC次席補佐官は軍人たちと相性が悪いというような状況である。保守派に比べれば、その影響力と結束力の弱さは明白と言ってよい。

フリンは共和党保守派を敵に回して辞任

 今回のフリン辞任の一件は、トランプ一派の影響力の弱さが表れたものだった。

 そもそも共和党主流派からさえ、フリンのような米国と係争中の政府との接触は2008年のオバマ陣営や最近でもガハード民主党下院議員もやっているという指摘がある。また、テレビでイバンカ・ブランドの商品を買うように訴えたコンウェイ上級顧問に対しても政府倫理局から懲戒要求が出ているが、こちらは無視されている。他の閣僚もやっていることは似たり寄ったりだが、フリンだけが守られずにクビになってしまった。フリンは政権内で孤立してしまったからだ。

 フリンの辞任1週間前から各種報道で報じられていた閣僚の反応を見ると、フリンを擁護していたのは、トランプとその家族(クシュナー)だけであった。

 トランプ大統領は、当初はフリンをかばう姿勢を見せていた。だが、ペンス副大統領が「フリンの言い訳を信じたせいで、嘘をつくことになった」と激怒し、バノンも「後任人事は既に用意してある」と側近に話したり、フリンを物陰に呼び「最善の行動をとれ(辞職しろ)」と迫るなど、保守派の態度が変わると、トランプもきわめて激怒していると報道されるようになる。

 特に保守中の保守とされるコフマン下院議員が、保守派として初めて公然と辞任要求した直後にフリンが辞任したことは示唆的である。このように、フリンはトランプ政権の最大派閥である保守派を敵に回したことで、トランプとその家族(クシュナー)の擁護もむなしくクビになったのである。

後任がマクマスター陸軍中将になった理由

 当初、フリンの後任には、保守派のバノンが目指す中東介入に適合するハワード元中央軍副司令官やペトレイアス元CIA長官など、中東情勢に明るい軍人が候補に挙がった。これもトランプ政権において保守派の影響力が高いことを示していると言えよう。

 だが、結局彼らは辞退し(彼らが政権唯一のキッシンジャー閥のマクファーランド次席補佐官を解任するよう要求し政権に拒否されたからだが)、紆余曲折を経てマクマスター陸軍中将になった。

 実はこれも派閥構造で説明可能である。

 後任人事を巡る各派閥の態度を見てみよう。まず、過激な「共和党保守派」(マーサー財団系)は、ボルトン元国連大使を押した。これは、ボルトンは、バノン首席補佐官やマーサー財団と懇意であり、マーサー財団が応援していたテッド・クルーズが、ボルトンをフリンの後任にすべきと主張していたことからも明らかである。

 このまま行けば、ボルトンが後任になっていたはずだ。だが、今回の決定の直前、穏健で伝統的な「共和党保守派」の中核であり、議会を握るランド・ポール上院議員が「ボルトンだけは絶対にありえない」と強硬かつ公然と反対の意思を示した。

 要するに保守派は分裂したのである。結果、ボルトン以外の候補者で、双方が折り合えるマクマスターになった。

 というのは、マクマスターは、ペトレイアスと親しく、湾岸戦争やイラク安定化作戦といった中東での戦争で大活躍し、陸軍改革にも尽力した、理論家としても戦闘指揮官としても陸軍で信望の厚い人物だからである。

 これは、彼がトランプ政権内では少数かつ中立的な軍人閥であるがゆえにパワーバランスを崩さないことを意味している。また、彼の軍歴は中東での介入を目指す、バノン等の保守過激派の要望を満たすし、ボルトンだけはNOとするランド・ポールのような保守穏健派の要望も満たす。実際、保守派のトム・コットン上院議員もこの人事を称賛している。

 このようにトランプ政権は、実はオバマ政権より予測可能性の高い政権である。意味不明に見える行動も前回述べたようにバノン等による深謀遠慮であるか、今回指摘したように派閥力学の結果なのである。

 特に後者の重要性は、今回指摘したようにトランプ大統領よりも保守派こそが影響力が高いことからも明らかである。すなわち、トランプ政権を支える保守派の動向、その内部対立や議会における主流派との抗争こそ、トランプ政権の今後の動向を占うキーポイントと言えよう。

(*)共和党保守派については、早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員の渡瀬裕哉氏から貴重な助言を頂戴しました。ここに深く御礼を申し上げます。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

筆者:部谷 直亮