アメリカにはIoTを進める土台や受け止める土壌が発達している。(写真はイメージ)


 IoTは、自動車や重工業の生産やオペレーション&メンテナンスを大きく変えるものとして検討がスタートしてきたが、これまで実際に活用まで進んでいるのは、「経験と勘」で想定できる領域の代替である。

 これからIoTというキーワードに残されている時間はどのくらいだろうか。「時間切れ」になる前に、どのようなアクションを起こしていくべきか、アメリカを参考に考えてみよう。

「IoT周辺産業」が形成されたアメリカ

 アメリカでは産業軸とソリューション軸の2つでIoTの重要性が評価され、IoTの実装が段階的に進んでいる。

IoT活用ですぐに結果が出る領域
製造業の装置・設備管理、運輸業のサプライチェーン・在庫管理やフリートマネジメント、小売業のサプライチェーン・在庫管理、エネルギー供給・通信業の資産活用管理、石油化学業の在庫管理、政府・教育機関のセキュリティ・設備・エネルギー管理

IoT活用がこれから重要になる領域
製造業のサプライチェーン・在庫管理、運輸業のセキュリティ・設備管理、ヘルスケアのスマートプロダクト化(調薬など)、保険業の監視・リスク管理、など

 これらのIoTの実装では、システム・デザイン、ソフトウェア開発、ハードウェア調達、インテグレーション、インストレーション〜サービスなど、多くの業務と人員が必要になる。

 アメリカでは、これらの業務をこなせるサービサーがベンチャー〜中小企業として多く存在し、IoT実装のオペレーションを進める周辺産業として充実してきている。このことが、アメリカが数多くのIoTを経験し、イノベーションを起こせる土台となっている。

 例えば、アメリカのIoTカンパニーリストには、IoTスタートアップ、ハードウェア、ソフトウェア、クラウド、システムインテグレーターまでさまざまなカテゴリー分けでIoT関連企業が見られるが、IoTのコンセプトやロジックなどを独創的に手がけることができるのはほんの一部のであり、その多くはIoTの実装に関わる企業である。航空や電力など有名メーカーにおける有名なIoT事例群でも、その裏で、多くのベンチャー企業が、PoC(Proof of Concept:概念実証)やビジネスへの実装をサポートしている。

 IoTAnalytics社のIoTプロジェクト数比較を見ると、アメリカはアジア全体よりも全体量では2倍以上、産業によっては3倍以上のプロジェクト数を経験しているが、背景にはこのようなIoT周辺産業の形成がある。

 移動にかかる費用や、コミュニケーションにかかる手間の大きいアメリカでは、センサーと少しの工夫を実装するだけで、すぐに効率化の結果が出る。足元の実用性で勝負する分かりやすいIoTをまず実装して、小さな結果を出しながら着実に進めてきたのがアメリカのここ数年だろう。アメリカでは頭でっかちになるのではなく、IoT産業の身体づくりをしっかりと進めてきたのである。

これからのIoT領域をどう「見極め」ていくか

 分かりやすいIoTを実装した後、IoTはどこまでビジネスの効率化や拡大に寄与していけるのだろうか。

 例えば、工場設備のメンテナンスにおいて、消耗部品の状況を把握して、適正に交換部品の在庫を持っていくサービスは、効率化における分かりやすいIoT事例であり、アメリカでは「VMI(Vendor-Managed inventory)」としてベンダーによるビジネス拡大が進んでいる。

 このような交換部品の自動発注などは担当者の経験と勘にも馴染みやすく、投資リターンとリスクも許容できる範囲として、判断の自動化まで進みやすい分野である。

 ただし、この判断の自動化を原子力の運転制御など高リスクの分野まで進める場合は、リスク=判断ミスの許容は難しくなる。この分野では、どうしても人の判断が介在することになり効率化を妨げるため、IoTの価値は、見える化の価値に留まってしまう。

 アメリカがこれからIoTを次の段階に進める際、企業が直面している壁は、このようなリスクがある領域での判断の自動化である。この領域には「Safety(安全性)」「Public Perception(共存に対する慣れ)」「Local Business(社会的許容性)」という人間の観念が横たわる。

 これからは、人間の観念がIoTを次にステップに進める際の障壁になる。どこまで自動化して、人間の判断を代替させることができるのか、規制緩和なども含めて、アメリカの産業界では、うまくIoTがはまる領域の見極めを進めている。

AIなど先端テクノロジーとの「文化的融合」

 経験と勘を代替する分かりやすいIoT、判断を自動化するIoTの後、これからさらに進んだ先端領域でのIoTとは何であろうか。

 例えばフィンテックでは、AIがキーワードであった。情報システムの高速性が人間を完全に超えて、人間の叡智を超える領域が生じ、ここにAIが必要とされる。この中で、新しいものを柔軟に取り入れる金融の産業特性が、AIやクラウドなどの新しいテクノロジーを取り込み、相互発展を後押しをしてきた。

 IoTの旗振り役と言われる製造業はどうか。製造業はもともとの企業文化として、(1)ブラックボックス化を嫌うこと、(2)IT企業との連携が上手くない、ことが問題である。人間の叡智を超えるものは否定されやすいのである。

 アメリカでは、この困難を自ら乗り越えるべく、GE、フォードなどトップ企業が自己変革を進め、新しく異質なテクノロジーを吸収する努力をしているが、日本企業の、組み込み、作り込み、の企業文化の変革まで行えている企業はほぼ皆無だろう。

 このような製造業とIT企業の相性までを捉えて、どのように取り組むか、これから日本企業はさらに検討を進める必要があるだろう。さもないと、IoTについてさんざん考えた挙句、ぐるっとまわって、人間の経験と勘を代替するだけの分かりやすいアプリケーションに収束することだろう。

 先端領域での可能性がある限り、IoTという言葉はまだ時間切れにはならない。先端領域まで見通した幅広い範囲について、自社の企業文化までふまえた検討を進めるべきである。

筆者:古賀 龍暁