もし、あなたのお気に入りのレストランが、料理の値段が安くなるかわりに、ナプキンやフォークやテーブルに追加料金を払わなければならなくなったとしたらどうしますか? 多くの人は、そんな店はもうお断りだと言うでしょう。ところが、同じことが航空運賃には適用されないようなのです。私たちはあいかわらず、味気ない格安航空にお金を払い続けています。本当にそれでいいのでしょうか。

航空業界は、このビジネスモデルを「アンバンドリング」と呼んでいます。ロサンゼルスからニューヨークまで、250ドルという格安運賃で飛べますが、ただ座席に座る権利があるというだけです。座席の指定、手荷物の預け入れ、搭乗券の発行といった"アップグレード"を望むなら、追加料金を払わなくてはいけません。

一方、こうした格安航空の登場により、旅行に出かけやすくなりました。これは良いことでしょう。私はここ数年、スピリット航空を利用してテキサスへ何度か里帰りをしています。また、先日も、WOW航空でアイスランド行きの飛行機を予約したところです。運賃がこれほど安くなければ、こうした旅行はしていなかったと思います。

とはいうものの、格安航空のひどさについて、利用客から怒りの声が挙がっていることも事実です。私自身、WOW航空での体験が劣悪であったことを認めないわけにはいきません。以下に、格安航空のデメリットを紹介します。

追加でいろいろとお金がかかる


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社会経済的不公平に関する「ブーツ」理論について、耳にしたことがあるかもしれません。この理論は、テリー・プラチェットの小説に出てくる、なんとも痛ましいエピソードがもととなっています。



良質の革のブーツが50ドルで売っていた。一方、1〜2年はもつかもしれないが、厚紙がはがれたら水がじゃぶじゃぶ滲みてきそうな、安物のブーツは10ドルだった。良質のブーツは何年も何年も長持ちした。50ドル払う余裕があった男は、10年たった後でも、足が濡れることなくブーツを履いていた。安いブーツしか買えなかった貧しい男は、同じ10年でブーツに100ドルを費やしたあげく、いまだに足を濡らしているのだった。

言い換えれば、「安く買う者は、二度買う」ということです。まさにこれが、WOW航空で起こったことです。私と友人は、数時間前に空港に到着すると、しばらく散策を楽しみ、出発時刻の25分前にゲートに戻ってきました。搭乗券に出発の15分前にゲートが閉まると書いてあったからです。ところが、私たちがゲートに着くと、ゲート係はガチャリと鎖をつないで、「ゲートはもう閉まりました。こちらでできることは何もありません」とけんもほろろの対応です。ではどうすればいいのかと尋ねると、「オンラインで調べてください」と冷たく言い放つばかり。結局、私たちは新しい航空券を買い直しました。それは元の航空券よりも高いものでした。合計すると、さまざまなサービスが付属した大手航空会社の航空券を買うよりも高いお金を払うことになりました。つまり、大金を払ったあげく、私たちの足は"濡れたまま"だったのです。

友人の1人が、スピリット航空で同じような体験をしました。予定していたフライトが数時間遅れ、私の結婚式に向かう途中だった友人は、別の航空会社のフライトを予約しなければならなくなりました。結果、予定よりかなり多くのお金を支払うはめになったのです。スピリット航空もWOW航空も、チケットの払い戻しには一切応じていません。もっとも、これは、たった2つの事例を挙げたにすぎません。また、WOW航空の搭乗券に何と書かかれていようと、私と友人は、もっと早くゲートに着いておくべきだったのかもしれません。とはいえ、こうした異常事態だけが問題なのではありません。スムーズに事が運んだとしても、まだお金を払い過ぎているのが問題なのです。

こうした個人の体験談だけでなく、研究でも、同一条件で比較した場合、アンバンドリングモデルのほうが運賃が高くなることが示されています。Journal of Economics&Managementに掲載された調査によれば、航空会社がアンバンドリングで手荷物運賃を導入すると、同じサービスに対して利用客が支払う代金はより高額になるそうです。



データを見ると、運賃の平均値下げ額は、手荷物料金そのものよりも小さいことがわかる。つまり、手荷物を預けると、合計運賃は以前の運賃よりも高くなるということだ。25パーセンタイル(最安から4分の1に位置する)の運賃は、手荷物が別料金になって、7ドル安くなった。この額は、手荷物料金の2分の1から3分の1に相当する。すなわち、平均的な旅行客にとっては、手荷物を預けると、少なくとも手荷物料金の半分ほどは、合計運賃が値上がりしたことになる。一方、手荷物を預けない人は、運賃の値下げにより得をする。

言い換えれば、航空会社は顧客に柔軟性を提供しているかのように見せかけて、実際には、全体の利益をずる賢く増やしているのです。あなたは、「大したことじゃない。最低限、飛行機に乗れさえすればいいんだから」と言うかもしれません。しかし、いつしか、安物のサービスとストレスで疲れ切ってしまうことでしょう。そして、快適なシートを指定したり、軽食を注文したり、大きな手荷物を持ち込むために追加料金を払うことになります。つまり、もともとあったレベルの快適さを得るために、結局は同程度か、あるいはそれ以上の代金を払うということです。あなた自身は追加サービスなどいらない、と言うかもしれません。でも、快適さにお金を払ってしまう人も少なからずいるのです。


アンバンドリングは航空業界には適さない


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この新しい、アンバンドリングモデルは、航空会社にとって利益があるからこそできたものです。しかし、一般に考えられているのとは違って、航空業界は収益を上げることに苦しんでいます。これは、最近はじまった問題ではありません。

特に、1978年に航空規制緩和法が施行されると、ユナイテッドのような大手の航空会社は軒並み問題を抱えはじめることになりました。低運賃の競争相手が出てきたのです。大手航空会社も低運賃に向かうべきでしたが、結局は持ちこたえることができませんでした(燃料費用の高騰もあった)。結果、2002年以降、デルタ航空、ユナイテッド航空、アメリカン航空が相次いで倒産しています。

「だからなに?」と言うかもしれません。「悪徳な巨大企業は倒れればいい。航空運賃が安くなるなら万々歳だ」 と私も最初はそう思っていました。

しかし、事実はこうです。企業はどこかの時点で、事業を維持するために舵を転換します。つまり、価格を上げるか、コストを削減しはじめるのです。主要な航空会社はどちらも少しずつやっています。

航空会社は、事業を維持するために、価格を引き上げる必要がありました。しかし、顧客は運賃の値上げを嫌がるので、見かけの運賃を上げないために「アンバンドリング」商法を思いついたというわけです。旅行サイトのCranky Flierは、この動きを少し擁護しながら次のように説明しています。



しかし、人びとは運賃の値上げにはとりわけ敏感だったので、航空会社は自社のネットワークを堅実に運航し続けるために、何らかの工夫をしなければならなかった。そこで、運賃の仕組みを変えて、シート以外のアメニティを、利用客が自分で取捨選択できるようにしたのだ。

別の言い方をすれば、「アンバンドリング」モデルとは、顧客を逃がすことなく価格を釣り上げる、ずる賢いやり方なのです。航空会社はこの方法で収益を増やすことにしましたが、ことはそれで終わりませんでした。コストにも手を付けはじめたのです。競争力を高め、事業を維持するために、航空会社は人件費を削減しました。Aviation Weekが、その結果として、航空会社で働く人たちが、どれほど苦しめられているかを次のように説明しています。



ユナイテッド航空はその代表的な事例だ。 2005年に、同社は98億ドルの従業員年金債務を放棄した。これは、 米国史上でも最大のデフォルトの1つに数えられる 。2013年、ユナテッド航空が賃金と医療給付の削減を発表すると、デンバー国際空港で従業員による抗議活動が沸き起こった。同社のスポークスマンは、メールの中で、これは苦渋の決断であるが、事業を効率的で財政的に持続可能なものにするためには必要不可欠なのだと語った。

それだけではありません。質よりも量を優先したため、機内が乗客でごった返すようになりました。まるでイワシにでもなった気分になりますが、それは乗務員にとっても同じでした。Skift.comで、業界アナリストのAddison Schonland氏は、航空会社は、同じ数の乗務員を使って、より多くの乗客を運んで、収益をあげようとしている、と書いています。つまり、企業はさらに収益を上げているということです。しかし、イワシのように詰め込まれれば、人は気難しくなるというもの。乗務員はただでさえ数の増えた乗客から、多くの苦情を訴えられて参っています。こうしたなか、航空機パイロット協会は、格安エアラインとの競争のせいで、パイロットのキャリアパスが「あまり魅力がないもの」のなってしまったと訴えています。

アンバンドリングにより、旅行はより気軽なものとなりました。それはもちろん良いことです。しかし、結局はトータル運賃は値上がりし、乗客を含めた業界全体に苦しみを広げる結果となりました。


アンバンドリングはサービス全体を低下させる

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WOW航空に乗った時のこと、乗客の1人が息子に、1列目のシートがとれてラッキーだったと話しているのを耳にしました。「サードクラスの航空会社でファーストクラスの旅ができるよ」と彼は皮肉っぽく笑いました。これは、たとえるなら、マクドナルドでプレミアムサンドウィッチを注文したような感じです。ビッグマックよりは若干ましですが、全体的に見ればチープさは変わっていません。

これは、航空業界全体に蔓延する問題です。安い料金でできるだけ多くの乗客を詰め込もうとするため、1人あたりの空間がどんどん狭くなってきているのです。Slateは次のように説明しています。

航空機の座席の幅は、かつては18インチ、または18.5インチあったが、今や17インチ、エアラインによっては16.5インチしかない。レッグルームもすべてのエアラインで一様に縮小されており、1980年中頃は32〜36インチだったものが、今では30インチほどしかない。

私はSkiftの意見に賛成です。航空会社は私たちに苦痛の押し売りをしています。追加料金を払わせるため、乗客にわざと不快な体験をさせているのです。

航空会社はエコノミーキャビンの密度を高めることで、「機体を建て増しすることなく、容量を増やすことができた。また、1人あたりの空間が縮小されたことで、多くの人が、わずかな快適さを求めて、追加料金を払わされるはめになった」 これが、航空会社が収益を増やすために採用しているアップセリング(より高額な商品を売りつける)戦略の主軸である。苦痛を押し売りするアンバンドリング戦略がそれを強力にサポートしている。

また、航空会社のなかには、安心して航空券を買うことさえできないところもあります。スピリットは、最も時間を守らない航空会社であり、フライトの73.8%しか時間通りに到着しません。これは、特別料金を払ってもどうにもなりません。また、私と友人は、WOW航空のゲート係にどやされた後、ほかにどんな選択肢があるかを尋ねるためにカウンターに行ったのですが、このとき、またどやされるのではと恐怖を感じたことを覚えています。あとで笑い話になりましたが、子どものようにどやされないために特別料金を払うというオプションはなかったわけです。つまり、どんなに追加料金を払っても、サービス全体が良くなるわけではないということです。

アナリストたちが指摘する最大の問題は、中間がないことです。異常なほど高価なファーストクラスの航空券を買うか、そっけないサービスで我慢するか、どちらかしかありません。私たちの多くは、法外なファーストクラスの航空券を買う余裕などなく、後者で我慢するしかありません。利用者たちはそのことに本格的な怒りを叫び始めています。

アンバンドリング戦略のおかげで、航空機を利用しやすくなったのなら、それは素晴らしいことだ、という意見があります。私もその点は同意します。ある航空会社の幹部がSlateに次のように語っていました。「私たちができる最高のサービスとは、運賃を低く抑えることです」また、スピリット航空のCEOも、より良くする、よりも、より安くすることが目標だとオープンに語っています。

アンバンドリング戦略をとる格安航空を利用する人が増え続けていることは事実です。しかし、真相は、企業が喧伝しているほどシンプルでもバラ色でもありません。それに、格安航空が必ずしも安くつくとは限りません。細則や例外規定をよく調べることが利用者側の責任なのだとしても、こっそりと隠蔽された追加料金や、劣悪なポリシーは、「航空機を利用しやすくした」という意見をかすませるには十分なものです。私たちは事実、片道の航空券350ドルと、ホテル代150ドル、買い直したチケット代に100ドルを払うことになりました。後で友人がつぶやいたことが、すべてを語っています。

「私たちはお金を払えたからよかった。でも、旅行をキャンセルしてすごすごと家に帰らなくちゃならない人もたくさんいるだろうね」

あなたがもし、どうしても格安エアラインのチケットを買うことになったのなら、最低限、どんなリスクがあるかは把握しておくべきです。事前に次のことを調べてください。

航空会社の払い戻しポリシーほかの利用客がどんなクレームを訴えているかフライトが遅延したときに航空会社が何をしてくれるか追加料金をいくら払うことになりそうか

予備のプランも必要です。たとえば、私がスピリット航空を使うときは、遅延を考慮してスケジュールに数時間の余裕を持たせています。ばかばかしいことですが、これは利用する者が払わなければならないコストであり、業界全体では、おそらく、それ以上のコストを払っています。格安航空の利用客の多くは、航空券を予約するときに、自分たちが何を得ることになるのか承知しているはずであり、すべてを勘案すれば、割に合う買い物だと言えなくはありません。とはいえ、巧妙なからくりが隠されていることも理解しておきましょう。

Kristin Wong(原文/訳:伊藤貴之)
Illustration by Sam Woolley. Photos: Francisco Antunes, Scott, Matthew Hurst