全米で『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を抜く大ヒットを記録した、アカデミー賞作品賞候補作『ヒデン・フィギュアーズ(原題)』
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 米ソ冷戦真っ只中の1960年代、NASAの宇宙開発を陰で支えた優秀な黒人女性たちがいた。『ヒデン・フィギュアーズ(原題)』は、そんな彼女たちの知られざる貢献や苦労を感動的に描いた、実話を基にした人間ドラマだ。ヒロインを『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたタラジ・P・ヘンソンが演じ、『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(2011)で助演女優賞を受賞し、本作でも助演女優賞にノミネートされたオクタヴィア・スペンサー、今年の作品賞候補作『ムーンライト』でも注目された新人女優ジャネール・モネイ、『ムーンライト』で助演男優賞にノミネートされているマハーシャラ・アリら旬な黒人俳優が脇を固める。また、大ベテランのケヴィン・コスナー、テレビシリーズ「ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則」(2007〜)のジム・パーソンズ、キルステン・ダンストも出演。なかなか豪華なキャスティングとなっている。(文・細谷佳史)

 ヘンソン演じるキャサリンは、幼い頃から数学の才能に秀でており、NASAで黒人女性として初めて、ハリソン(コスナー)率いる全米中の秀才が集まったエリート・グループに配属される。しかし、人種差別が当たり前だった当時、NASAでも黒人は白人と同じトイレに行くことも、同じ場所で食事をすることも、同じコーヒーポットを使用することも出来ず、さらに女性であるキャサリンは、男ばかりのグループで多くの試練に見舞われる。しかし、天才的頭脳と不屈の精神で与えられた以上の仕事をこなし、アメリカ初の有人地球周回飛行に成功したマーキュリー6号の軌道を一人で計算し、NASAに欠かせない存在となっていく。そしてキャサリンの同僚ドロシー(スペンサー)も、NASAが初めて導入したものの、誰も使い方がわからないIBMのコンピュータを、マニュアルなしに使いこなすという離れ業をやってのけ、NASAの男たちを唖然とさせる。

 出演者全員が、実に見事にそれぞれの役を全うしているが、主役のヘンソンが特にいい。穏やかな口調で話す抑え気味の芝居だが、全ての瞬間で彼女の抱く感情がひしひしと観客に伝わってくる。ヘンソンの名演なしに作品の成功はなかったことを思うと、今回オスカーで彼女が主演女優賞にノミネートされなかったことが何とも残念だ。ちなみに、先日のSAG(全米映画俳優組合)アワードでは、本作キャスト全員に贈られるキャスト賞を受賞している。

 映画には、当時のNASAを再現した映像をはじめ多くの見どころがあるが、キャサリンが時々職場から長時間いなくなる理由が、職場の建物に黒人用のトイレがなく、かなり離れた場所まで通わなければならなかったためだと知ったハリソンが、いきなりトイレの上にある「有色人種用」と書かれたサインをハンマーで叩き壊すシーンは、カタルシスにあふれている。いわゆる善良なアメリカ人を押し付けがましくなく、さらりと演じられるコスナーはさすがだ。

 『ヴィンセントが教えてくれたこと』(2014)の監督、セオドア・メルフィの、ドラマに程よいコメディーを混ぜた語り口も素晴らしい。スタジオ映画らしいオーソドックスな演出だが、キャサリンの子供時代を描いたオープニングから観客の心をつかんで、テンポよく最後まで一気に見せるストーリーテリングは秀逸だ。2016年のハリウッド映画で、最も完成度の高い娯楽作と言っても良いかもしれない。

 アメリカの白人の中には、恐ろしいことにいまだに人種的に、白人が黒人よりも優れていると本当に信じている人たちがいる。そして、人種差別発言を繰り返すトランプが大統領になった今、作品賞で本命視されている『ラ・ラ・ランド』は個人的にも大好きだが、『ヒデン・フィギュアーズ(原題)』や『ムーンライト』のようなマイノリティーに光を当てた作品を応援せずにいられない。