■全面禁煙は小規模店舗は死活問題

「分煙推進のための署名活動を行っています。たばこを吸う人も吸わない人も共に楽しめる飲食店づくりをめざしています。ご協力、お願いします!」

バレンタインデーの2月14日夕、東京・赤坂の一角で10数人の男性たちが声を張り上げる姿があった。一般社団法人全国生活衛生同業組合中央会のメンバーによる署名活動だ。全国生活衛生同業組合とは、旅館・ホテル業や喫茶店、中華料理店、クラブなどの飲食業、理髪店やクリーニング店といった16業種の組合で、それらを束ねる組織が中央会だ。いずれも中小、零細規模がメインの経営者の集まりである。その彼らが危機感を抱き、2月2日から全国で展開しているのが、「分煙への理解」を求める署名活動なのだ。

というのも、厚労省は2020年の東京五輪を迎えるにあたり、受動喫煙防止対策を強化する健康増進法改正案を今国会に提出しようとしているからだ。厚労省が発表したたたき台によると、禁煙エリアの大幅な拡大をめざそうというもの。

それによると、医療機関、小・中・高校は敷地内禁煙。官公庁、社会福祉施設、運動施設、大学は建物内禁煙。さらに、事務所(職場)、ビルの共有部分、駅・空港ビル、鉄道・船舶は原則建物内禁煙で、喫煙室の設置は可能というもの。加えて、飲食店、ホテル・旅館などのサービス業も原則建物内禁煙とし、喫煙室設置は認めるとしている。

これに驚き、異議を唱えたのが、同中央会というわけだ。これまで、エリア分煙、時間分煙、喫煙可、禁煙など、さまざまな業種がそれぞれの店舗の“個性”に合わせて方向性を打ち出し、ステッカーで表示したり、商店街単位などでネットを使い店の分煙スタイルが分かるような取り組みをしてきた。それが、「とりあえず禁煙」という方向性を国の施策で打ち出そうとしてきたのだから、驚天動地に陥るのも無理もない話だ。

同中央会の伊東明彦事務局長は語る。

「経営する側も、客も自由に選択できる余地があってこその社会なのに、その自由が奪われる危機です。しかも、スペースが狭く、資金が潤沢でない店舗にとっては死活問題です」

署名活動のために店舗前の敷地を提供した「三河家」店主で、赤坂青山料理飲食業組合連合会の堀込一之会長もこうため息交じりに語る。

「当店は完全個室なので、お客様のニーズに合わせることができます。しかし、小規模店舗の場合、新たに喫煙室を設置するとなると、テーブルや椅子の数を減らさなければならない。これまで分煙促進で東京都は助成金を出してきたが、それではまかない切れません。いきなり目の前に絶壁が現れたようなものです」

■喫煙者と非喫煙者は対立してはいけない

これまでも自治体で受動喫煙対策が検討されると、医師会をはじめとした「完全禁煙派」と、同中央会のような業界団体の「分煙派」は互いの主張を述べ、議論がかみ合わない時間を費やすような場面が何度も見られた。とりわけ、医療界の論客は、あたかも紫煙をPM2.5と同列になぞらえたり、喫煙を犯罪行為のような例えをすることもあった。前出の伊東事務局長は語る。

「もし、たばこの害が本当にそれだけあるのなら、大麻並みに法律で禁止する議論を堂々としてくればいい。しかし、それはしないで、喫煙者を隔離するだけの方策を取ろうとする。社会は多様性を認める方向に進んでいるのに、たばこに関しては徹底的な封じ込めを試みる。これは弱い者いじめにしか見えません」

しかし、法案提出に向け、厚労省は2月9日、自民党厚生労働部会で案を提出したものの、委員から異論が噴出した。ある衆院議員秘書はこう語る。

「喫煙によって健康を害するリスクが高まるのは事実です。しかし、完全にがんになるエビデンス(証拠・根拠)は認められていません。にもかかわらず、五輪を盾にして事実上の禁煙社会をゴリ押ししようとしている」

さらに、厚労相経験者の議員秘書は、経済的見地からこう言う。

「こんな法案を通したら、疲弊している地方の経済は壊滅的な打撃を受ける。一方の論理だけを振りかざして、いい社会になるわけがない」

医学的に見ても、経済的に見ても性急な法案で、同部会では9割以上が反対意見だったという。同部会は15日にも開催され、同中央会など7団体が意見を述べる。果たして、着地点は見つかるのか。赤坂で署名をした女性はこう語る。

「あまりきつく規制するのはどうかと思います。お互いリラックスできる環境ができればいいのではないでしょうか」

喫煙者と非喫煙者が互いに対立するのではなく、歩み寄って共存できる工夫や努力が必要ではないのだろうか。それは、規制強化では決して生まれるものではない。喫煙者のマナーも今以上に厳しく求められてしかるべきだろう。

(ジャーナリスト 山田厚俊=文)