『いい人材が集まる、性格のいい会社』(佐藤雄佑著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、リクルートキャリア、リクルートエグゼクティブエージェントで、12年以上にわたり人事・採用の仕事に関わってきたという人物。

立場上、大手企業や有名企業以外の会社の経営者や人事担当者から、「うちみたいな中小企業には、いい人なんて来てくれない」というような悲観的な意見を聞くことが多かったのだそうです。事実、新卒の就職ランキングを見ても大手・安定企業が並び、いわゆる外見で選んでいる人が圧倒的。転職においても、20代から30代前半まではそんな傾向が強いといいます。

では、大手企業や有名企業以外の会社ではいい人材を採れないのかといえば、答えはNO。中小・ベンチャー企業が大手企業と同じことをやっていたのなら、いい人材を採用することは不可能。しかし「外見で勝てないなら、性格で勝負するしかない」という考え方で、これは本書のコンセプトなのだそうです。でも、そのためにはなにをすればいいのでしょうか?

私が日々キャリア相談に乗っていると、大手にいる人こそ、キャリアに不安を抱えていたり、上下関係や減点主義に萎縮していたり、社内に不満があり、愚痴を言っている人も多いです。つまり、希望通り大手企業に入ったとしても、全員がハッピーなわけではありません。そこに中小・ベンチャー企業が採用で勝つポイントがあります。会社の売り上げや規模、伝統といった外見では勝てなくても、大手企業では得られないような働きがいや多様な働き方を柔軟に提供していくことで、いい人材を獲得することは可能です。最近は、大手企業を退職して、ベンチャーに転職する人も増えてきていて、私もそのような人材がイキイキと働き、コアメンバーとして会社の急成長に貢献しているケースをいくつも見てきました。(「はじめに」より)

ちなみに「外見」は入社理由になるものの、退職理由にはならないのだといいます。大手、中小、ベンチャーに限らず、多くの場合、退職理由は「性格」が大きな意味を持つというのです。つまり性格が悪い会社は人が採れないだけでなく、退職も続いてしまうので、ずっと人の問題で悩むことになるということ。

だとすれば、「性格のいい会社」とはなにかを知っておく必要がありそうです。第2章「性格のいい会社のつくり方」内の「性格のいい会社とは」に焦点を当ててみましょう。

1.人に対する考え方がある会社


著者の定義によれば、性格のいい会社とは「人に対する考え方がある会社」、つまり「人材ポリシー」のある会社ということになるのだそうです。そしてもちろん、個々の社員に対して「働きがい」と「多様な生き方」を提供してくれることも重要。

会社は、いい人材に来てもらって、活躍してほしい、もちろん業績もあげたいと考えています。一方の社員は、自分のキャリアや、幸せな人生を実現できることを望むもの。そういう意味で、会社と社員は対等な関係であるということです。ただし「性格がいい」という表現にはやさしいイメージがありますが、それは甘いということはまったく別の話。

優しくするためには強くなくてはいけません。社員が権利ばかりを主張して、わがまま放題、さぼり放題だと、当然パフォーマンスが出ませんので、それを許すわけではありません。(58ページより)

つまり会社としては、ミッションに対するしっかりとしたパフォーマンスを期待すべき。そして、社員はそれに応える。会社はその一方で、社員のキャリア、幸せな人生を全力で支援する。そんなGive & Takeが大切だということです。(58ページより)


働きがいのある会社


著者は「働きがいのある会社」という考え方を大切にしているといいます。この考え方についてのポイントは、「働きがい」であり、「働きやすさ」ではないところ。もちろん働きやすい会社も魅力的ではありますが、それはあくまで会社の成長があってこそのことだから。

意志を持って「働きがいのある会社」を目指し、つくっていった結果、社員の満足度が上がり、モチベーションの高い組織ができる。そして、それがパフォーマンスにつながっていく。そんなグッドサイクルを実現することが大切だというわけです。中小・ベンチャー企業にとっても、「働きがいのある会社」という称号が、いい人材を獲得するために武器になるというのです。

働きがいをつくる構成要素についてはさまざまな考え方があるでしょうが、著者は「ビジョン」「成長」「仲間」だと定義しているそうです。最初の「ビジョン」は「経営理念」などの言葉にも置き換えられますが、「うちの会社は、誰のために、なにをするのか」を表現しているもの。働きがいを感じている人の多くは、会社の向かっている方向と、自分の向かっている方向性がフィットしているもの。また、仕事が社会のため、人のためになっているという社会貢献性も、働きがいの重要な構成要素。

2つ目の「成長」は、仕事を通じ、自分の成長を実感できるかどうか。「働きがい」と「働きやすさ」の違いはここであり、多少大変だったとしても、それを乗り越えたときの達成感が成長につながるということです。最後の「仲間」は、「なにをするかより、誰とするか」ということ。もちろん経営者も大事な要素ではあるものの、「自分の会社で働くのが楽しいか楽しくないか、好きか嫌いか」を決定づける要素は、職場の半径5メートルの人間関係だといいます。その範囲の人間関係がよければ、その人にとって居心地のいい会社になるということ。(60ページより)


多様な働き方


旧来の日本の働き方は、「ガラパゴス状態」だと著者は指摘します。昔ながらの終身雇用、年功序列、長時間労働は、海外からするととても異質なもの。当然ながら、企業が事業推進や人材採用といったグローバル対応をしていくうえでも、支障をきたすわけです。日本式雇用制度が一概に悪いとはいえないものの、その前提である終身雇用や男性中心といった考え方が崩壊している状況下では、変えていかざるを得ないということです。また少子高齢化が進む以上、男女の差にかかわらず、すべての人がなんらかの制約を抱えながら生きていく時代になっていくはず。

しかし現在の働き方であると、働くこととプライベートの両立が困難で、「働き続けるのか、辞めるのか」という二択と直面した結果、辞めることを選ばざるを得ない状況。それでは、いい人材の採用が難しくなっても当然です。

会社の都合だけを社員に要望している関係だと、「気づいたらいい人材から辞めていき、人が足りずに回らなくなる」ということになっていくはず。しかしそれでは、企業の成長など望めるはずもありません。だからこそ重要なのは、多様な働き方を実現していくこと。そうすることで一人ひとりの社員が活躍できる場をつくり、それを会社のパフォーマンスにつなげていくことが大切だというのです。(65ページより)


経営者のコミットがスタート地点


いい人材を採用し、自律的に活躍してもらうことによって会社を成長させ、「人を起点とした経営」を実現するーー。そのためには、「いい人材を採用し、自律的に活躍してもらうことで、会社を成長させていく」ことが大切。そんな、人を起点とした経営にチャレンジすることに、社長がコミットしなければならないと著者は主張します。

それは時間がかかるものですが、そうであるだけに、サイクルが回り出したときには他者には簡単に模倣できない強さになるということ。その証拠に著者は、いい人が1人入ったことによって雰囲気が変わり、会社全体のパフォーマンスが激変した例をたくさん見てきたのだそうです。

一方、このコミットができないと、人の成長を待つことができないので、すぐにもとに戻って「人が採れない、育たない」というところに逆戻りしてしまうといいます。すると既存のメンバーに負荷がかかるため、不満が増えていくわけです。

だからこそ、人を起点とした経営にコミットすべき。それは、「人を信じて、人を待てるか」ということであり、それは「性格のいい会社」をつくるスタート地点になるというのです。

そして、経営者が性格のいい会社をつくると覚悟を決めたら、次にすべきは「人に対する考え方を決める」こと、すなわち人材ポリシーを決めることだと著者はいいます。社員の人生、キャリア、成長を、会社としてどう考え、どう支援していくのか。それを決めていくということ。

この「人材ポリシー」には、正解がないもの。「定年まで長く働いてほしい」という考え方もあれば、その一方には、「目的や方向性が変わってきたら卒業して次のキャリアを目指せばいい」という考え方もあるわけです。いわば、こうした考え方については「こうしなくてはいけない」というものはなく、あくまで会社として、社長として、「社員をどのように考え、なにを提供するのか」を決めることが大切だということです。(68ページより)



著者も指摘しているとおり、就職・転職を考える際は大手ばかりを意識してしまいがち。でも働きがいという観点から見ると、中小・ベンチャーにも大きな可能性があることを本書は実感させてくれます。働くということの原点に立ち返るためにも、本書には呼んでおく価値があると思います。


(印南敦史)