新型ワゴンRの各モデル(筆者撮影、以下同)


 先の日米首脳会談の場では直接議題になることはなかったが、トランプ大統領が自動車分野における日米の貿易不均衡に強い関心を持ち、問題視していることは確かである。

 安倍晋三総理は帰国後にテレビ出演時などで、日米はいま、80年代に貿易摩擦があった状況とは大きく違い、自動車を含めた日系企業がアメリカ国内で製造拠点を持っておりアメリカでの雇用を生んでいることをアメリカ側にしっかりと説明したと語っている。今後は、麻生副総理兼財務大臣とペンス副大統領の間で経済対話を進めるとしており、自動車分野もその中に含まれる模様だ。

 自動車分野での日米間の交渉というと、TPPでの日米二国間協議を思い出す。2013年の二国間協議で米国側が指摘したことの1つが、日本固有の車両規定だった。アメリカ車を日本国内で販売する場合、車両の細部にわたる適合が必要だ。それに伴う書類の作成やコストなどが非関税障壁になっている、という批判だった。

 さらに、アメリカ側は軽自動車をやり玉にあげ、車両規定の見直しも要求してきた。当時はそれを受けて「軽自動車がなくなるかもしれない」といった報道もあった。

 今後、トランプ政権との交渉の中でも、「なぜ日本でアメ車が売れないのか?」についてアメリカが再検証し、日本側に対応を求めてくる可能性は十分にある。

新型ワゴンRがフルモデルチェンジ

 こうした中、日本では軽自動車の王道であるスズキ「ワゴンR」がフルモデルチェンジした。1993年の初代発売から数えて今回が6代目となる。同車の累計販売台数は約440万台、現時点で市場にある保有台数は約280万台と推定される人気車種だ。

 新型ワゴンRの商品特徴は大きく4つ。(1)デザインを大幅に刷新、(2)全モデルがマイルドハイブリッド車(発進・加速時にエンジンをモーターでアシストするハイブリッド)で、モーターのみの走行も可能に、(3)独コンチネンタル社製の先進的な運転支援装備を搭載、(4)軽ワゴンで最大の室内長を誇る広い室内、である。

 モデルは大きく3つ設定された。ベースモデルの「FX」、主力の「FZ」、さらに斬新なボディデザインとターボエンジンが特徴の「スティングレー」だ。価格は、廉価モデルの約108万円からスティングレー・ハイブリッド Tの約180万円までと幅広い。

 燃費はリッターあたり33.4キロメートルと、軽ワゴンでは最良の数値である。その実現のために、エンジン本体の改良に加えて、モーター付きの発電機(ISG)の出力を上げ、リチウムイオン2次電池の容量を増やした。

最上級モデルのスティングレー


改良による改良が重ねられている軽自動車

 新型ワゴンRの走り味は見事だった。

 試乗は東京の調布市周辺の一般路で行った。主力モデル「FZ」と「スティングレー」にぞれぞれ乗ってみたが、逸品なのは「FZ」だった。

 走り出してすぐに感じたのは「やさしい走り味」だ。ステアリング操作に対するクルマ全体の動きが実に素直であり、柔軟だ。そして安心感が高い。これらを総合する言葉を走りながら考えたが、出てきたのは「やさしさ」だった。

 車体の剛性を上げ、サスペンションの稼働幅を広げ、重量を20キログラムも軽量化。そして、モーターで走行した時の心地良い押し出し感。新型「ワゴンR」の良い点は「FZ」の方が分かりやすく感じることができた。

 また、スティングレーを含めて圧巻はインテリアだ。車内各部の質感は、300万円級のミニバンに匹敵すると言っても過言ではないステアリングにはカーナビやラジを操作するスイッチが装着されており、非常に使いやすい。さらには、スピード表示などの走行情報を運転席正面の反射板で映し出す「ヘッズアップディスプレイ」を軽自動車として初めて装備するなど、軽自動車とは思えない“上質”な空間が広がっていた。

 軽自動車は日常の足として使うユーザーが多いため、メーカーには細かく厳しい要望が数多く寄せられる。しかも近年は、スズキ、ダイハツの2強にホンダがNシリーズで対抗し、三菱自動車も日産向けOEM供給で売り上げを伸ばす「デイズ」や「ルークス」を展開するなど、軽4メーカーによる競争が激しくなってきている。

 そうした状況の中で各社は、ボディサイズが全長3.4メートル×全幅1.48メートル×全高2.0メートル、エンジン排気量が660佞鮠絽造箸垢觴嵶承定のなかで、改良による改良を重ねている。

発電機付モーター(ISG)とリチウムイオン電池は近年、高出力化と大容量化の傾向にある。近年の搭載部品の比較展示


 軽自動車の技術開発は、まさに「匠の技」とも言える領域だ。アメリカの自動車メーカーは「この価格で、どうしてここまで造り込めるのか」と思っていることだろう。軽自動車は、アメリカ人技術者が嫉妬するような商品なのだ。

 日本のユーザーにとって、軽自動車がどんどん進化するのは非常にありがたいことである。だが、アメリカにとってはやはり「邪魔な存在」なのかもしれない。日米首脳会談の数日後、最新型の軽自動車を運転しながら本気でそう思った。

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筆者:桃田 健史