満島ひかりの “ひとり語り” のシーンは圧巻…映画『愚行録』は見終ったあと背筋がゾワゾワしてしまう内容です【最新シネマ批評】

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【公開直前☆最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、妻夫木聡、満島ひかり主演のミステリー映画『愚行録』(2017年2月18日公開)です。原作は貫井徳郎の同名小説で、第135回(平成18年)直木賞候補にもなっています。

育児放棄をした若い母親の事件と一家惨殺事件がそれぞれ描かれ「何か関係あるのかな?」と思ったら……。見終ったあと背筋がゾワゾワ〜っとするような、いやに後味が悪いミステリー。“イヤミス” 映画なのです。では物語からサクっといってみましょう。

【物語】

週刊誌記者の田中(妻夫木聡)が一家惨殺事件を取材するため、被害者の夫婦、田向(小出恵介)と友希恵(松本若菜)を知る人物、ひとりひとりに話を聞いていく。そこで浮かんでくる田向と友希恵の人物像。

ある人は「あんなにいい人が殺されるなんて」と泣き、ある人は「恨みを買っても仕方ない」と語ります。

一方、田中記者の妹・光子(満島ひかり)は育児放棄の疑いで逮捕され、勾留中。田中は光子の身を案じつつ、取材にのめり込んでいきます。そして明らかになった真相とは!

【実は……と語る姿に見える人間の醜さ】

殺人事件の被害者は、エリートの夫と美人妻とかわいい娘。犯人も動機も謎のままですが、田中が二人を知る人物の取材を進めるうちに、夫妻の裏の顔が見えてきます。抜け目なさ、世渡り上手、ずる賢さなどが漏れてくるのです。

でもそんな彼らの裏の顔を「実は……」と語る関係者たちも醜いんですよ。悪口、陰口をいうとき、人はこんなに人相悪くなるんだと思いましたね。

しかし、これは映画の中だけの問題ではありません。人は誰でも表向きはニコニコしていても、本音は正反対ということはありがちです。本音と建て前、公私を切り換えていかないと生きていけませんからね。

でもそういう姿を客観的に見ると、こんなに嫌なものなのだなと。事件の真相を追いながら、人間の嫌な一面をこれでもかと見せられます。

【田中光子の這い上がれない人生が辛い】

田向夫妻殺人事件の一方で、映画は田中記者の妹の光子にもスポットをあてています。実は田中兄妹、揃って親の虐待を受けてきた過去があるのです。親が子供に与える影響は多大で、強烈な虐待を受けた子供は当然、心に深く傷を負っています。なんとかしてその傷口をふさぎ、明るく楽しい人生を送りたいと誰もが思うでしょう。

でもそんな願いも、頑張りも、一生懸命さも、ずる賢い奴らに奪われてしまうのです。詳細はネタバレになるので映画をぜひ見てほしいのですが、正直、光子の人生はかわいそうで仕方なかったです。

でもこの光子のエピソードと田向一家の殺人事件。何の関係もないように見えて、次第に様々な出来事が明らかになっていくのです。そしてどんどん背筋が寒くなっていくという仕掛け。それまでにもう十分、人間の愚かさを見せつけられているのに、最後にとどめを刺すという。本当に情け容赦ない作品です。

【石川慶監督、デビュー作とは思えないクオリティ】

映画『愚行録』を演出したのは、本作が長編映画監督デビューの石川慶監督。長編デビュー作とは思えないほど、ふたつのエピソードを重ねて紡いでいく手腕は凄い! この監督は今後も要チェックです。

また役者さんたちも素晴らしく、やはり満島ひかりは巧い! 彼女のひとり語りのシーンは圧巻で、光子の悲しみや惨めさが真に迫るのは、彼女が演じたからこそ。話題のドラマ「カルテット」(TBS系)でも好演していますが、今いちばん輝いている女優ではないでしょうか。

「あ〜楽しかった!」とは全然思えない “イヤミス” 映画ですが、人間の闇というより膿を絞り出す映画『愚行録』。怖いもの見たさの好奇心をくすぐる映画です。

執筆=斎藤 香(c)pouch

『愚行録』
(2016年2月18日より、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー)
監督:石川慶
出演:妻夫木聡、満島ひかり、小出恵介、臼田あさ美、市川由衣、松本若菜、中村倫也、眞島秀和、濱田マリ、平田満ほか
(C)2017「愚行録」製作委員会

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