『かもめ食堂』の荻上監督が日本で感じた違和感とは

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 生田斗真が母性愛あふれるトランスジェンダーの女性役に挑んだ映画『彼らが本気で編むときは、』。荻上直子監督にとって『レンタネコ』以来、5年ぶりの新作となるが、自ら“第二章”と銘打つほど、この作品には気合いがみなぎっている。日本におけるセクシャルマイノリティーの変わらぬ現実、そして、母子が織り成すそれぞれの愛のカタチ。本作に注がれた荻上監督の切なる思いとは?

 本作は『かもめ食堂』『めがね』などの荻上監督がオリジナル脚本も手掛けたヒューマンドラマ。優しさに満ちたトランスジェンダーの女性リンコ(生田)と、彼女の心の美しさに惹かれ、すべてを受け入れる恋人のマキオ(桐谷健太)、そして母の愛を知らない孤独な少女トモ(柿原りんか)、桜の季節に出会った三人が、それぞれの幸せを見つけるまでの心温まる60日を描く。

 数年間をアメリカで暮していた荻上監督が、帰国してまず驚いたのは「途端に自分の周りのセクシャルマイノリティー率が減ったこと」だったという。「テレビをつければ“オネエ”とカテゴライズされた方がきらびやかに活躍しているけれど、いざ街を歩いてみると、ほとんど見かけたことがない」と嘆く。「アメリカでは、セクシャルマイノリティーの友達が周りにたくさんいましたし、レストランでも隣に養子の子供を連れたゲイカップルがいたりする。ごく普通の光景でしたからね。日本では、まだまだ自分を出せず苦しんでいる人が多いのかな」。

 ところがある日、「性は男と女だけじゃない」という新聞の見出しを見つけ、荻上監督の心が動いた。「男の子から女の子になったトランスジェンダーのお子さんのお母さんが“ニセ乳”を作ってあげたという記事に感銘を受けて、さっそく連絡を取り、お話を聞かせていただいたら、子を思う親の気持ちは双子の母である私、さらに今も私に愛情を注ぐ私の母と、なんら変わらないものだった」と振り返る。

 これを題材にした映画制作を熱望し、5年ぶりの新作に取り掛かった荻上監督は、トランスジェンダーの主人公リンコ役に生田を指名する。「今回は、絶対にキレイになりうる人に演じてほしかった。なぜなら、記事になったトランスジェンダーの女性がとてもキレイな方だったので。10代で性別適合手術を受けている子は違和感なく、ちゃんと女の子になるそうです」と真意を語る。

 だが、実際に男性がリンコを演じるとなると、顔がものすごくキレイでも、体型ががっちりしているから、意外と女の子にならない。予想以上に難しく、自分が描くイメージに近づけるために、ファッションや髪型など試行錯誤を繰り返した。にじみ出る内面の優しさは、さすがの表現力で違和感なし。果たして生田演じるリンコは、観客の目にどのように映るのだろうか。

 完成後、知り合いの年配女性に「こんな映画を作りました」と報告したら、「いま流行ってるんだよねって言われて」と困り顔の荻上監督。確かにセクシャルマイノリティーをテーマにした作品は昨今増えているが、「トランスジェンダー自体は確実に昔から存在していましたし、ブームで語るものじゃない」と語気を強める。劇中、性別適合手術に関しても赤裸々に語られているが、「それが自然なことで、何の抵抗も感じない環境になれば」と真摯(しんし)に訴えた。(取材・文・写真:坂田正樹)

映画『彼らが本気で編むときは、』は2月25日より全国公開