3月12日(日)にフロリダ州セントピーターズバーグで開幕するインディカーシリーズ。そのプレシーズン合同テストが、アリゾナ州のフェニックス・レースウェイで開催され、今季フル出場予定の21台が集まった。


フェニックスで行なわれた合同テストに参加した佐藤琢磨 気温が摂氏22〜28度と温暖で、雨も降らなかった2日間、午後1〜4時と6〜9時の合計12時間にも及ぶ走行セッションが用意された。

 最初に指摘しておきたいのは、今回のテスト結果では今シーズンの勢力図を単純に予見することはできないということ。フェニックスは全長が約1マイルのオーバルコースで、ルールによりロードコース用エアロパッケージの装着が義務づけられるが、この仕様のマシンでのパフォーマンスは同種のコース、つまりはフェニックス、ゲートウェイ(ミズーリ州セントルイス近郊で今年からレース開催、全長1.25マイル)、アイオワ(全長0.875マイル)でしか発揮できないからだ。

 しかも、シーズンの流れを決める開幕からの3レースは、ストリート2戦とロードコース1戦。第4戦はフェニックスだが、その後もまたロードコース1戦、スーパースピードウェイ(コース距離の長いオーバル)1戦、ストリート2戦、そしてまた大型オーバル……と、ショートオーバル以外でのレースが続く。

 今回のテストで最速ラップを記録したのはJR・ヒルデブランドで、2番手はエド・カーペンター。エド・カーペンター・レーシング/シボレーによる1-2で、ヒルデブランドは昨年樹立されたコースレコードを上回ってみせた。

 3〜5番手に並んだのは現在シリーズ最強のチーム・ペンスキー勢(昨シーズン10勝!)。今年移籍してきたばかりのジョセフ・ニューガーデンを先頭に、インディ500で3勝のベテラン、エリオ・カストロネベス、2014年チャンピオンのウィル・パワーの順で続いた。ここまではトップからコンマ2秒以内に収まる大接戦だった。昨年初めてチャンピオンになったシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)はトップと約0.24秒差で8番手だった。

 ホンダ勢では、6番手につけたミカイル・アレシン(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)がトップで、次が2004年チャンピオンのトニー・カナーン(チップ・ガナッシ・レーシング・チームズ)による7番手。トップとの差はそれぞれ0.2148秒、0.2255秒だった。差は僅かだが、今年もシボレー勢のショートオーバルでの優位に変わりはなさそうだ。

 シボレー、ホンダの両エンジンメーカーがエアロパーツも供給する空力競争が始まった2015年にシボレーは16戦10勝、2016年には16戦14勝を挙げた。この一方的な結果を受けて、インディカーは2018年から、シリーズが設計、提供するエアロパッケージを全員が使う2014年までと同じワンメイクマシンに戻すことを決めた。そして、これ以上の参戦経費高騰を避けるため、2017年は空力ルールを凍結した。

 新開発パーツの導入が禁止されれば、勢力図が2016年から大きく変わる可能性は低くなる。高速オーバルだけは僅かながらの優位にあったホンダは、それを保ちつつ、昨シーズンのデータをもとに現有パーツでのレベルアップを図っている。

 そんな苦しい状況にあるホンダだが、ペンスキーに並ぶ強豪のチップ・ガナッシ・レーシング・チームズが、今年からホンダへと移籍してきた。ホンダのエアロの高速コースでの優位、ロード/ストリートコースでの差の縮小、そしてエンジンのパフォーマンスに優位ありと見て、2018年以降も見据えて決断を下したのだ。

 4台体制のガナッシ加入がホンダにもたらすのは、シリーズトップレベルの開発能力や、優秀なドライバー、エンジニアたちによるフィードバック。彼らのノウハウが加味されればホンダ勢全体がレベルアップするはずで、少なくとも昨シーズン以上の競争の激しさになることが期待できる。

 今回のセッション2ではマルコ・アンドレッティ、最終セッションではライアン・ハンター-レイと、アンドレッティ・オートスポート/ホンダのドライバーたちがセッション・トップのタイムを出していた。2日とも日中のセッションではシボレーが速く、夜はホンダ勢が優位と見える結果になった。

 しかし、実際のフェニックスのレースは4月の下旬だから、今回のテストよりさらに気温、路面温度は高くなる。ゲートウェイとアイオワのレースは夏なので、気温などはさらに高くなるだろう。

 これらのレースはどれも予選を日中に行ない、決勝はナイト・レースで争われるのだから、テストでも予選シミュレーションは日中、レース用セッティングは夜間に行なうのが合理的だった。しかし、ホンダ勢の中には、夜間に予選シミュレーションを行なったケースが少なからずあった。オーバーテイクの難しいショートオーバルでは予選順位が極めて重要になるため、少しでも多くのテストをこなそうという思惑があったのだろう。

 結局、好タイムの出やすい気温、路面温度の低いコンディションでも、ホンダ勢はシボレー軍団の日中のタイムを凌ぐことはできなかった。とはいえ、今回のテストデータを第4戦までに解析し、セッティングのレベルアップを果たすことは可能だろう。

 インディカーで8シーズン目を迎える佐藤琢磨は、2日間総合で16番手だった。トップとの差は0.4552秒。これはショートオーバルではかなりの差だし、テスト終了を目前にターン1でアクシデントを起こしてしまったりもした。しかし、今年の琢磨はキャリアベストの体制を手に入れている。アンドレッティ・オートスポートに移籍したからだ。

 昨年のインディ500で1-2フィニッシュを達成したホンダのエースチームは、シリーズのトップ3に数えられる強豪だ。2012年チャンピオンのライアン・ハンター-レイ、昨年のインディ500ウィナーで元F1ドライバーのアレクサンダー・ロッシ、キャリア2勝のマルコ・アンドレッティが佐藤琢磨のチームメイトとなる。

 ペンスキー、ガナッシ同様の4カー体制では、豊富なデータを武器に戦える。チームオーナーのマイケル・アンドレッティは、「持ち前の速さ、高い開発能力、チームワークを発揮できる良好なパーソナリティが起用の決め手。フィードバックのよさがもう発揮されている」と話している。

 新体制でのテストで、琢磨はチーム内で最も多い239周もの走り込みを行なった。「こういう形(アクシデント)でテストが終わりになったのは残念だったけれど、チームメイトたちとテストプログラムを分担し、データを共有する体制はとてもいいし、多くの成果があったと思う。多くのエンジニアがいるチームではいくつもの開発プロジェクトが同時進行している。その体制にはすごいものがある」と、大型チームで戦うシーズンに手応えを感じている様子だった。

 レースが行なわれるコースでのテストは今回が初めてだったが、すでに琢磨はシミュレーターやストレートライン・テストなど、チームの行なう開発プログラムに参加し、力を発揮しているという。

 シーズン開幕まではもう約1カ月だ。琢磨はチームメイト3人とともにフロリダ州セブリングのバンピーな短いロードコースで、ストリートコースにフォーカスしたテストを行なう予定だ。

 開幕戦はフロリダ州セントピーターズバーグ。2014年のポールポジション獲得をはじめ、琢磨がとても得意としてきたコースだ。そして第2戦ロングビーチは2013年に琢磨がインディカーで初優勝を飾ったところ。強豪アンドレッティ・オートスポートで琢磨がどんな戦いぶりを見せてくれるか、おおいに楽しみだ。

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