「Thinkstock」より

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 若者の「車離れ」「テレビ離れ」という言葉がよく聞かれる。車離れは統計にも顕著に表れている。車の趣味、保有欲は減少し、また20代の運転免許保有者数も減少している。若者の車に対する価値観は、高度経済成長期の「憧れ」や「目標」ではなくなり、車は単なる移動手段へと変化している。つまり、「車を買いたい」という感情から「車が必要なら買う、必要でなければ買わない」というように変化している。

 一方で、タクシー業界で話題の配車アプリUberの登場によって、車の購入を投資とみなし、投資による収益を得るために高品質で高額な車を購入するようになってきているといわれる。シェアリング・エコノミーの台頭により、欧米では急成長しているが、こうした動きが日本でそれほど高まるとは思えないものの、車に対する価値観の変化に影響を与えるかもしれない。

 他方、「テレビ離れ」については、若年層のテレビ視聴時間は減少傾向にある。NHK放送文化研究所によると、平日の平均視聴時間は20代、30代は約2時間であるのに対し、高齢者は依然として長時間で4時間から5時間である(2015年国民生活時間調査)。

 また総務省の「平成27年版情報通信白書」によれば、「テレビ(リアルタイム)視聴」「テレビ(録画)」「ネット利用」「新聞閲読」「ラジオ聴取」のそれぞれについて利用時間を比較している。

 平日の平均利用時間は「テレビ(リアルタイム)視聴」が最も長く、平日が170.6分。年代別に見ると、概ね年代が上がるほど利用時間が長くなる傾向は変わらない。「ネット利用」は、全体の平均利用時間は平日が83.6分。年代別に見ると、10代、20代は平日がそれぞれ109.3分と151.3分で、「テレビ(リアルタイム)視聴」より長い利用時間となっている。

 もっともネットの長時間利用者は、ソーシャルメディアなどを通して放送中の番組に対する反応などを書き込むことを考えると、テレビとの「ながら利用」が多いという傾向もあると思われる。

「若年層のテレビ離れ」は、パソコン、スマートフォンやタブレットなどの端末機器が普及するにつれて、「お茶の間に置かれたテレビという装置」に対する意識が希薄化しているという面を表現している。映像を視聴できる装置が多様化してきている。若者はこれまでテレビ局が編成する番組に合わせていたのに対し、自分のスケジュールに合わせてテレビの視聴時間をコントロールするようになってきている。携帯電話やタブレットを利用して視聴する場所もコントロールしている。

●あなた(が)テレビ

 最近、テレビを視聴できるワンセグ機能付き携帯電話を所有した場合、NHKと受信契約を結ぶ義務があるか否かという点をめぐって裁判で争われたことは記憶に新しい。地裁の判決で、「契約義務はない」とする判断が示された。時代の変化で生じた放送法と受信料制度の“穴”が、改めて浮き彫りになった事例であろう。

 若年層がテレビ番組を視聴する時間は減少しているが、YouTube、ニコニコ動画、Hulu、Amazonプライムなど、テレビ視聴率に反映されないものの、日常生活のさまざまな局面であらゆる映像に接する機会は増加している。放送法上では放送局に該当しない映像配信事業にも、テレビや放送を示唆する名称が使用されている。たとえば、Tubeはブラウン管の略称であり、テレビを意味する話し言葉なので、YouTubeは「あなた(が)テレビ」であり、インターネットを介した映像配信はインターネット「放送」と呼ばれている。

 また近年では、スポーツ競技において、スタジアムや街頭などにある大型の映像装置を利用して観戦する「パブリック・ビューイング」が人気を集めている。オリンピックやサッカーワールドカップなどは各地のスタジアムやスポーツ・カフェなどで、集団視聴される。またコンサート等スポーツ以外のイベントでも実施される。それほど大規模ではなくても、学校や集会場に集まり、応援する光景がテレビのニュースなどで流れる。家庭内での視聴では決して味わえない一体感が味わえる。試合の動向に多くの観客は一喜一憂し、感動を共有しているのである。さながら昭和の時代の「街頭テレビ」である。

 こうしてみると、若者のテレビ離れという現象は、正しくは「時間と場所をコントロールしながら映像を観るようになった」といえるであろう。
(文=井手秀樹/慶應義塾大学名誉教授)