再審請求中

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 メディアを席巻した毒婦は今、大阪拘置所で“ある決定”を待っている。1998年7月、夏祭りで振舞われたカレーにヒ素が混入、67人の死傷者を出した「和歌山毒カレー事件」。死刑判決が確定している林真須美(55)は再審請求中で、結果如何では“地獄からの生還”もあり得るのだが――。

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 4人を殺害し、63人を殺そうとした罪に問われた真須美は、一審二審ともに死刑判決。2009年5月には、最高裁で刑が確定した。

「その年の7月に和歌山地裁になされた再審請求について、昨年6月、地裁から弁護団に『最終補充書を9月16日までに提出するように』との連絡がありました。3月末までに、何らかの判断が下されるのではとみられます」(全国紙デスク)

 判決の大きな根拠となったのは、東京理科大の中井泉教授(分析化学)によるヒ素の鑑定結果だった。

再審請求中

「兵庫県佐用町の大型放射光施設『スプリング8』を用いた鑑定では、事件現場に残された紙コップに付着したヒ素と、真須美宅の台所の容器に保管されていたヒ素が同一物とされ、犯行の裏付けとなりました」(同)

■「砂糖を体重計で」

 が、弁護団の依頼でこの鑑定結果を分析し、補充書でその誤りを指摘した京大大学院の河合潤教授(材料工学)に聞くと、

「11年の秋、初めてスプリング8を用いた鑑定書を見て、すぐにおかしいことに気づきました」

 具体的には、

「同一の証拠資料を分析し、含まれている微量元素の濃度を『ピーク強度』で表したグラフが出てきます。ところが、同じものなのに、複数回の測定でSn(スズ)やSb(アンチモン)の強度が異なっている。実はスプリング8の分析とはこれほど大雑把で、例えれば料理の時、砂糖の重さを体重計で計るようなもの。誤差が大きく、事件の鑑定には不向きなのです」

 裁判では、現場の紙コップのヒ素のほか、通称「林真須美関連亜ヒ酸」と呼ばれるものが6種類登場した。内訳は、台所から押収された1種と、親類など関係先から提出された5種である。

「地裁判決は、この6種のうちどのヒ素が紙コップにあったのかは断定せず、どれかが入れられたと述べているに過ぎない。つまり鑑定結果は、合計7種のヒ素は全て同一物だと結論づけようとしている。最も重要な紙コップのヒ素も、他とはピークの高低差などが異なっているのに、中井先生は『同一の工場が同一の原料を用いて同一時期に製造した亜ヒ酸』と言い切っている。科学者として一線を越えてしまったと思います」

 これに対し中井教授は、

「河合さんは『スプリング8は精度が低い』と主張しますが、私はある化学会社が製造した亜ヒ酸を使って、ロット(製品の入った缶)が異なると結果がどのように違ってくるのか、比較実験を行なっている。そして、私が分析した事件に関する亜ヒ酸はみな、その他とは明らかに異なる波形パターンを示している。全てが同一の起源に由来すると、はっきり言えるのです」

 見解は大いに異なれど、先のデスクはこう言うのだ。

「仮に再審開始となれば無罪となる可能性が高く、まず請求が通るとは考えられません。過去に再審が認められたのはDNA鑑定など、誰の目にも明らかな新事実が出てきたケースばかり。却下されれば高裁に不服申し立てを行なうのでしょうが、いずれにせよ今回、スプリング8の信頼性が揺らいだのは間違いありません」

 毒婦の薄笑いが、目に浮かぶようだ。

ワイド特集「女という商売」より

「週刊新潮」2017年2月16日梅見月増大号 掲載