18日、浦和は富士ゼロックススーパーカップで鹿島に2-3と敗れ、去年のチャンピオンシップの借りを返すことはできなかった。だが、同じ轍を踏んだのではない。浦和は未完成ながらも新しいチャレンジを仕掛けていた。

試合では、ずっと浦和を見ているベテラン記者でも首を傾げる場面があった。それは前半、守備ラインでボール回しをしていたときに、西川がDFと同じラインまで飛び出してパス交換に加わっていたシーンだった。

足下のテクニックに長ける西川は、過去にもしばしばペナルティエリアを出てボール回しに加わっていた。だが、通常はDFの後方に位置している。ところがこの日はさらに前までポジションを上げていた。いつもなら阿部勇樹が守備ラインに加わる際の位置に入っていたのだ。

アイスホッケーのパワープレーと同じで、GKまでフィールドプレーに参加すれば数的優位を生み出すことができる。正確なキックを持っている西川ならば、そういう戦術も考えられないことはない。そして、西川ほどの技術を持っているGKは、Jリーグに見当たらないという現状を考えれば、もしこのスタイルを完成させることができれば、浦和は常にフィールドプレーヤーが相手より1人多い状態でプレーできるのだ。

もっとも大きなリスクもある。もし西川のパスや、西川へのパスがカットされると、無人のゴールに蹴り込まれてしまう可能性があるのだ。そんな危険な選択肢を選ぶのだろうか。西川が守備ラインまで飛び出したのは1回しかなかったので、偶然なのかもしれない――。

はたして、西川は意図的に守備ラインにまで出て行ったのか。質問されると西川はあっさり「そうです」と認めた。「新スタイルというか、監督が常に僕に求めていることです」「監督のアイデアの多さは僕も毎年面白いと思いながらプレーしています」。西川はそう続ける。

危険が大きいことについてはどう考えているのか。「全部の場面でということではなくて、前に行けるときにサポートに入りながら」とリスクヘッジをするのだという。さらに、単にボール回しに参加するだけではないらしい。「パスを回すだけが役割じゃなくて、ゴールを目指すパスが求められているので、そのタイミングを伺いながら前に出て行ければと思います」。西川にはアシストも求められているのかもしれない。

毎年GKに求められる役割が増えてきていると西川は笑う。そしてその役割の増え方には「充実感」を感じていると顔を引き締めた。このシーズンに「新スタイル」が完成すれば、浦和はしばらくの間、「唯一無二」の立場を手に入れられるだろう。そうすれば、どんな相手に対しても雪辱は思いのままになるはずだ。

【日本蹴球合同会社/森雅史】