『帰ってきたヒトラー』 (C)2015 MYTHOS FILMPRODUKTION GMBH & CO. KG CONSTANTIN FILM PRODUKTION GMBH

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…前編「人間はどこまで残酷になれるのか〜」より続く

【映画を聴く】
後編/『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』から考える
ナチス映画の音楽のトーン&マナー

極めてカラフル! 音楽的にも新鮮だった『帰ってきたヒトラー』

2月25日より公開される『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』をはじめ、ヒトラーやナチス、ホロコーストを題材とした映画は数多い。古くは『独裁者』や『アンネの日記』から、商業的にも成功した『シンドラーのリスト』『戦場のピアニスト』、ヒトラー本人を描いた『アドルフの画集』『ヒトラー 最期の12日間』『わが教え子、ヒトラー』、ナチスの残した“後遺症”を描いた『ソフィーの選択』『手紙は憶えている』『ヒトラーの忘れもの』など。最近は本作のほか、『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』『検事フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男』『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』『ハンナ・アーレント』といった、1960年のアドルフ・アイヒマンの拘束とその後の裁判にまつわるエピソードを描いた作品が増えているのも特徴だ。

独裁者ヒトラー演じた実力派俳優が右傾化の危機を訴える!/『帰ってきたヒトラー』インタビュー

題材が題材なので、これらの作品は当然どれもシリアスなドラマという点で共通している。音楽的にもおしなべて静謐なピアノ曲や物悲しいチェロやヴァイオリンの独奏曲、メロドラマのような弦楽四重奏曲などがあてがわれることが多い。あまたの娯楽大作を手がけてきたジョン・ウィリアムズも、『シンドラーのリスト』ではいつになくストイックなヴァイオリン曲を中心とした、これまでにない作風を展開し、アカデミー作曲賞やグラミー賞を受賞している。

そんな中にあって、ヒトラーと彼の思考パターンを現代社会に蘇らせたフィクション『帰ってきたヒトラー』は、作品の成り立ちとして前例のないものだけあって、音楽もカラフルだ。『アイヒマンの後継者』とは違った意味で聴き応えのある作品になっている。音楽監督のエニス・ロトホフは、ヒトラーの好んだワーグナーを思わせる重厚なオーケストラ曲やコミカルさを持ったクラリネット曲を提供しているほか、ロッシーニ「泥棒かささぎ」やエルガー「威風堂々」、パーセル「メアリー女王の葬送音楽」といった『時計じかけのオレンジ』でおなじみのクラシック曲を使うことで、現代に蘇った独裁者の狂気を演出している。





この『帰ってきたヒトラー』や『アイヒマンの後継者』を見ていると、これまでヒトラーやナチスを描いた作品では万古不易に思えた“沈痛”や“悲哀”、“慚愧”といったトーン&マナーが多様化してきていることに気づかされる。“権力と服従”について改めて考えざるを得ない現代にあって、より多くの議論を促すような作品が増えると同時に、音楽の幅もさらに広がっていくことを期待したい。(文:伊藤隆剛/ライター)

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。