東北エプソン工場内の生産ライン

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 国産の製品でも労働力が安価な海外に製造拠点を持っているという話はもはや当然のように語られるものになっているが、まったく逆をいく発想で、国内工場にこだわり、労務費を押さえている企業がある。

 それが、今年5月に発売予定の一般オフィス向けインクジェット複合機/プリンター「LX-10000F」「LX-7000F」シリーズを発売するセイコーエプソンだ。

 同商品にも使われている、エプソン最新のプリントヘッドPrecisionCore。それをメインで製造しているのが山形県酒田市にある東北エプソンの製造工場だ。今回、記者はその製造工場を取材するため、はるばる山形県酒田市を訪れたわけだが、そもそもなぜエプソンは東北の、それも酒田市に製造拠点を設立したのだろうか? その経緯をエプソン販売の広報担当者に聞いてみた。

「セイコーエプソンが設立された’85年当時、エプソンの生産拠点は長野県内に集中しており、人材確保が難しくなりつつありました。また、リスク分散も図るために、長野県外へ製造拠点を設立をしました。山形県酒田市を選定した理由は、複数あった候補の中から、誘致に協力的だったためです。また、1991年に、庄内空港の開港も決まり、交通アクセスについても利便性が確保できるなど総合的に判断しました」

 そうして設立された東北エプソンの製造工場。果たして、内部はどうなっているのだろうか。東京ドームの12倍という広大な敷地を誇る現地を訪れた、記者の目に飛び込んできたのは全自動アームロボットが駆動する、まるでSFのような世界だった――

◆エプソン製の6軸ロボットをフル活用

 ほこりや雑菌が入らないよう、頭からつま先までカバーする防塵服に身を包み、工場内部へと進んだ記者の目に飛び込んできたのは、エプソン製の6軸ロボットを活用した「PrecisionCoreマイクロTFPプリントチップ」の製造ラインだ。「PrecisionCoreマイクロTFPプリントチップ」は、エプソン独自の薄膜ピエゾを用いたプリントヘッド技術の総称で、その中核となる部品だ。

 その製造ラインは主に5つの組み立て工程と、検品作業によって成り立っている。接着剤が塗られた「マイクロTFPプリントチップ」にドライバーICを載せたフィルム基板を接続。ここにインク流路構造を持つ部品やケースを組み合わせている。

 工場内では、ほぼすべての工程がオートメーション化されており、従業員は不良品が発見され、製造ラインがストップしたときに備える人が数人いるのみだ。オペレーターが少ないため異物混入の可能性も少なくなっているという。

 また、冒頭でも述べたとおり、製造拠点が国内に集約されているため、労務費も安く抑えられ、海外輸送中のチップのコンタミネーション(汚染)リスクもない。これらの工程を経て完成した「PrecisionCoreマイクロTFPプリントチップ」の組み立て作業などは、フィリピンやインドネシアにある同社の海外製造所で行われているが、「コアデバイスとなるプリントヘッドを、国内生産としている方針に変更はございません」(エプソン販売広報)と述べる通り、国内生産にこだわることで、安定した品質を実現しているのだ。

◆新商品発表会でも自信を覗かせる

 2月2日には前述の新商品の記者発表会が行われた。登壇したセイコーエプソン社長の碓井稔氏は、長期ビジョン「Epson25」について説明。

「すべての事業領域において独自のコアデバイスを作り上げ、印刷が遅い、メンテナンスに手間がかかる、コストが気になるとったオフィスの悩みを解決。プリンティング事業においても、独創のマイクロピエゾ義重を磨き上げ、さまざまなソリューションを通して、コストを気にすることなく、カラーの印刷ができる、まったく新しいオフィス環境を提案したい」

 そう語り、自信を覗かせた碓井社長。東北エプソンで見せた先端技術を用いて、同社がどのようなソリューションを提案してくれるのか。これからも注視していくべきだろう。

<取材・文/井野祐真(本誌)>