「経済的な成功は悪」という群集心理――連続投資小説「おかねのかみさま」

写真拡大

みなさまこんにゃちは大川です。

『おかねのかみさま』67回めです。

1周年で賑わう六本木SLOW PLAYで書いています。

※⇒前回「同じ目標」

〈登場人物紹介〉
健太(健) 平凡な大学生。神様に師事しながら世界の仕組みを学んでいる
神様(神) お金の世界の法則と矛盾に精通。B級グルメへの造詣も深い
死神(死) 浮き沈みの激しくなった人間のそばに現れる。謙虚かつ無邪気
美琴(美) 普通の幸せに憧れるAラン女子大生。死神の出現に不安を募らせる
杉ちゃん(杉) ITベンチャー社長。ヒットアプリ「アリファン」を運営
沼貝(沼) 杉ちゃんの先輩ベンチャー経営者で株主。脅迫事件の対処に勇躍

〈第67回 クレーマー〉
22:40 銀座 サーティーンスフロア

美「ぬまぬまの会社は、なんでそんなにお金が入ってくるんですか?」

熟「ちょっと!美琴ちゃん!」

沼「すごい!いやーすばらしい!いろいろ取材とか受けるけど、こんなに直球で聞いてくる人はいなかった!」

死「…」

沼「彼女がこれだけ真剣に聞いてくれるということは、僕も真剣に答えなきゃいけませんね」

死「ゴクリ…」

沼「あの、もうちょっとそっちのほう行ってもらえますか?」

死「カシコマリマシタ」

沼「そうですね、まず、僕は人に恵まれています。次に、会社というのはみんなで目標を持って叶えていくものだとおもいます。つまり、同じ目標をもった集団の中には大きな力が宿るんです。だから一人ではできなかったこともできるようになる。もちろん僕一人でもできないことも、みんなと力を合わせて乗り越えていけるようになる。そういうことの連続で、次々に階段を昇っていくんです」

死「クハー」

美「すごい。なんか勇気が出る気がする」

沼「でしょー。だから僕はいつもみんなに感謝しています。たとえば…」

杉「沼貝さん」

沼「はい」

杉「もしその同じ目標を持った集団の中に、裏切り者が出たらどうしますか?」

沼「すぐに排除します」

美・死「!!!」

沼「と、言いたいとこだけど、排除すると逆に遺恨が残るんですよね。だからゆっくり対話して、お互いの誤解をなくした上で距離を置きます」

杉「じゃあ、対話しても無駄だった場合はどうしたらいいんでしょう」

沼「そうですねぇ。見えないところでたくさん準備をします。」

美「じゅんび?」

沼「はい。ある程度レベルが近い人間同士の話し合いであれば、お互いの優先順位や共通の目的を探すという話し合いができるんです。でも対話が無駄になるケースというのは、ほとんどの場合、相手にゴールがないことが多い」

死「ホウ…」

沼「つまり、断片的な情報からの勝手な思い込みとか、自分自身の狭い了見から見ておかしいとか、とにかく腹が立つからわめくとか、それと…」

美「それと?」

沼「戦っちゃってる自分が好きなだけの人と、とりまきです」

死「アー」

沼「でもね、不確かな情報で動く人って、どこにでもケンカ売る癖がついてるうえに、負けを認めないから、小さな案件の勝率は高くても脇が甘いんです。クレーマーなんかに多いですね。企業が相手であればいくら大げさなことを言っても許される、という驕りがあります。だからそういう方々と話し合っても無駄なので、そういう方々と話し合うときは、反論も謝罪もせずに何回も話を聞くんです。つまり、情報収集。これが準備ですね」

杉「おー」

沼「プロならまだしも、低いレベルでクレームを付ける人や無駄に時間だけ有り余ってる人なんかだと、関わるだけ無駄ですからね。普段から暴れてるから周囲に対する発信力もないし、負けを認めないもんだからどんどん話に尾ヒレがつく」

熟「いやぁねぇ…下品。」

沼「彼らの多くは公平とか不公平に対するものの考え方が小学生から進歩していないから、自分より短時間でお金を稼いだ人間は必ず悪事をしたはずだって思ってるんですよ。だから僕らみたいなベンチャーに頭を下げさせることが、我慢しかしてこなかった彼らの人生を肯定することにつながって、みんなで溜飲を下げることができる。経済的な成功はその集団の共通の悪なわけですから、とにかく相互監視をしながらも表面上平和を保って、月替りでターゲットを決める。まぁこれが日本のどこにでもある傾向です」

美「相手がプロの場合はどうするんですか?」

沼「こちらもプロに任せます」

死「ウンウン」

沼「でもねー。そういうひとたちでも株が買えちゃうのが僕らみたいな上場企業ですから。大事にしなくちゃいけないんですけどね」

熟「いいんじゃない?別にたくさん株買えないでしょ」

沼「そうなんです。株主総会で質問という名の演説したがる方に限って演説自体が目的になってますから、そういう方のあしらい方は事前に全部準備してあります。株主総会では僕が議長になって挙手している株主の方のご意見を順番に伺うんですが、その方々がしてくるであろう質問は僕の背後にいる事務方4名がリアルタイムで返答を探すようになってます。つまり、僕が壇上で質問者の目を見てうんうん頷いている間に、後ろの4名はものすごいスピードで理想の回答やその回答に必要なデータを準備するんです」

死「ハー」

杉「なんか…たいへんそうですね…」

沼「はじめはたいへんだったけどねー。何回かやるうちに予想通りの質問がくるようになるとみんな心の中でガッツポーズですよ。真剣白刃取り!みたいな」

美「でも、そこまでしないと会社ってもうからないんですね…」

沼「んー、最近はそうでもないようにもおもいますねぇ…」

次号へつづく

【大川弘一(おおかわ・こういち)】
1970年、埼玉県生まれ。経営コンサルタント、ポーカープレイヤー。株式会社まぐまぐ創業者。慶応義塾大学商学部を中退後、酒販コンサルチェーンKLCで学び95年に独立。97年に株式会社まぐまぐを設立後、メールマガジンの配信事業を行う。99年に設立した子会社は日本最短記録(364日)で上場したが、その後10年間あらゆる地雷を踏んづける。

Twitterアカウント
https://twitter.com/daiokawa

2011年創刊メルマガ《頻繁》
http://www.mag2.com/m/0001289496.html

「大井戸塾」
http://hilltop.academy/
井戸実氏とともに運営している起業塾

〈イラスト/松原ひろみ〉