By Vladimir Pustovit

発達障害のひとつである注意欠陥・多動性障害(ADHD)に関する研究はこれまでたくさん存在しましたが、過去最大級の「ADHD患者と健常者のMRIスキャンを比較する研究調査」が行われ、これまであやふやだったADHDと脳の関係が明らかになっています。

Large imaging study confirms brain differences in ADHD | Science Bulletin

http://sciencebulletin.org/archives/10505.html



ADHDに関する新しい研究結果が精神医学関連の学術誌であるThe Lancet Psychiatryで公表され、ADHD患者の脳で見られる一部領域の発達の遅れは、脳障害と見なされるべきものであるという見解が示されました。

ADHDの症状は「不注意」「多動性」「衝動的な行動」といったものが知られており、18歳未満の20人に1人(5.3%)がADHDと診断されており、患者の3人に2人は成人後もそのADHDの症状が続くそうです。これまでのADHDに関する研究で、「脳体積の違いが障害と関係していること」、ADHDに関係すると考えられる脳の領域は感情・随意運動・認知といった機能を制御する「大脳基底核」と呼ばれる領域であること、さらに、ADHD患者は大脳基底核の「尾状核被殻が通常よりも小さくなること」が判明していました。

しかし、これまでの研究結果はサンプル数が少なく、「脳体積の違いと障害の相関関係」を明確にすることはできずにいたそうです。



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そういった状況を打破するべく、新しい研究調査では4歳から63歳までの男女をターゲットに、ADHDと診断された1713人と健常者1529人を対象に脳の検査を行いました。被験者全員の脳体積および、ADHDと関連すると考えられる「淡蒼球」「視床」「尾状核」「被殻」「側坐核」「扁桃体」「海馬」という脳の7つの領域をMRIスキャンして調査しています。

調査の結果、ADHD患者は脳全体の体積、特に尾状核・被殻・側坐核・扁桃体・海馬という5つの領域が通常よりも小さくなっていることが明らかになりました。この研究を進めたオランダのラドバード大学のメディカルセンターで働くマーティン・ホーグマン博士は、「ADHD患者の脳と健常者の脳の違いはとても小さいもので、数値にするとわずか数%にしかなりません。よって、ADHD患者の脳が小さくなることを特定するにはこれまでにない規模の調査を行う必要がありました」と、過去最大級の調査を行った理由について語っています。なお、特に健常者と比較した際に脳体積が小さくなるのが幼少期で、成人するとADHD患者と健常者の脳体積にはそれほど大きな差が見られなくなるそうです。また、ホーグマン博士は「ADHD患者と健常者の間で見られたような脳のサイズの差は、他の精神障害、特に大うつ病性障害の患者でも見られます」と語っています。

これらの事実から、脳科学者たちはADHDが脳の障害であり、ADHDの特徴は「いくつかの脳領域の発展遅延」にあると示唆しています。また、従来の研究では尾状核と被殻の体積がADHDと関係することが明らかになっていましたが、新しく側坐核・扁桃体・海馬の3つもADHDと関係することが判明。なお、ホーグマン博士たちは、扁桃体は感情調整、側坐核は動機づけや情緒問題、海馬はモチベーションや感情といった部分でADHDと関連しているのかもしれない、と推測しています。



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これらの結果に加え、ADHD患者の被験者のうち455人が精神刺激薬の投薬を行っており、637人がこれまでに薬物治療の経験があると語ったそうです。しかし、脳の5つの領域の体積の差異は薬物治療を行ったことがあるかどうかにかかわらず存在していたため、ADHD患者の脳体積が小さくなる現象は精神刺激薬が原因ではないことも明らかになっています。

ホーグマン博士は、「我々の研究結果から、ADHD患者は脳構造に変化があり、ADHDが脳障害であることが示唆されます。この研究結果が、ADHDは気むずかしい子どもや貧しい子どもに向けられるレッテルではなく、ひとつの障害として見られるようになることを願っています。また、今回の研究がADHDのより良い理解につながることを願っています」と語っています。

なお、今回の研究では被験者の年齢が4歳から63歳と幅広かったものの、年齢と共にADHDの症状がどのように変化していくのかは明らかになっていません。よって、ADHD患者を幼少期から成人するまで追跡調査したりすることで、脳体積がどのように変化するのかを断続的に調査することが今後のADHD研究で必要になってくるそうです。