旭川実業では11月から4月までのほぼ半年間、雪との共存を余儀なくされる。写真:龍フェルケル

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 昨年、イギリスのサッカープロジェクトに招待されて、自国のサッカーを撮る機会を頂いた。厳密に言えばドイツ人の僕が、日本のサッカーを撮ることになったのだ。
 
 そこで、前々から興味があった“日本の部活”に焦点を当てる決心をした。とはいえ、ただの部活を撮るのは面白くない。『キャプテン翼』世代の僕は子供の頃、雪国での過酷な条件にも負けない松山光くんに惹かれていた。だから、ジャーナリストの安藤隆人氏にお願いして、雪国の高校を紹介してもらった。
 
 やはり日本で積雪が多いのは北海道。松山くんの故郷は富良野だが、今回の行き先は違う。ちなみに、後で聞いた話では、松山くんの銅像は富良野FCには立っていないとのこと。
 
 聞いたことはあるが一体どこにあるか分からない、旭川実業高校が取材を許可してくれた。空港に降り立つと、旭川実業の石山コーチがお出迎えしてくれた。
 
 気温はマイナス6度。ヨーロッパの中でも寒さが厳しいほうのベルリンに住む僕でも、かなり堪える。「寒いですね」と言うと、「今日は暖かいですよ」と返された。実際、数日後にはマイナス6度を暖かく感じることになる。
 
 空港から旭川実業までの道のりは文字通りの白銀世界。車で走っても走っても真っ白な雪道が続く。
 
 丘の上にある学校に着くと、富居徹雄監督が待っていた。45歳、体育教員。25年前にサッカー部を任された時の部員数はわずか8人。数合わせが大変だったという。現在は72名の選手が在籍し、全国高校サッカー選手権にも5度の出場を果たすほどの強豪校に育て上げた。
 
 真っ白なグラウンドは、雪の壁に囲まれている。毎週、ブルドーザーが雪を集め、固め、わずか半面のピッチを作る。11月から4月までのほぼ半年間は、雪との共存を余儀なくされるという。富居監督はこう語る。
 
「雪中サッカーとは、悪く言えば場所がないから。環境的に、場所がないから仕方なくやっていること。よく言えば足腰を鍛えるトレーニングになる」
 冬場にグラウンドで雪中トレーニングをするのは週2、3回で、残りの時間は他部活と共有する体育館。良くて体育館全部、悪くて4分の1しか使えない。富居監督はそのデメリットとメリットをこう分析する。
 
「体育館でやる2時間のトレーニングは、とにかくタッチ数が多くなる。際の感覚ばかりになるから良くないな部分もあるけど、球際の感覚とか2人、3人での崩しっていう部分の練習はできる。本当に細かいところで、バスケットコート規格の中で細かい感覚を磨き上げたり、ボールワーク的なものを作ったりということは、メリットにしていかないといけないと思っている」
 
 サッカー部が体育館を頻繁に使える高校は旭川内でも少ないという。同市内の進学高・旭川東高校では雪中練習が体育館使用時間を上回る。
 
 グラウンドでの練習は、まずピッチに行くまでが一苦労。膝まである雪をかき分け、ズボズボと進む。動き始める前にトンボで雪の表面を均す。そして、練習中にもなるべく動き回り、足下の雪を固める。
 
 選手はスパイクを履く前に、水が入らないよう靴下の上にビニールを履く。スパイクも凍り、プラスチックが頻繁に折れる。ゴールも通常サイズではなく、フットサル用を2つ繋ぎ合わせていた。
 
 しかし、雪中グラウンドでの練習は、選手たちに笑顔を与える。体育館では得られない開放感。それが彼らの表情を煌めかせる。
 
「肉体的には、本州より北海道の子のほうが身体が強いと言われますね。北海道から本州に出て行った子もそうですし、ウチと対戦した本州の監督さんにもそう言っていただけます。メンタル的には、北海道の子のほうが内向的で、本州の子とか静岡の子とかと戦うと、ゲーム中の喋る回数とか表現力の違いはあるかなと。ただ、逆に良く言えば我慢強さ、貫く能力みたいな部分は北海道のほう上じゃないかと感じているところもありますね」