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下の漫画は最近ネットで共有されている「セキュリティ」だ。

暗号化を信頼するナードは、ノートPCを盗られたとしても4096ビットのRSA暗号をクラックするタイヘンな労力を前に強盗が中身にアクセスするのをあきらめると安心している。しかし、実際の強盗は5ドルのスパナを振りかざして「パスワードを言え!」と脅す。それで終わりである。

AppleがTouch IDをiPhoneに搭載した時や昨年AppleがFBIと対立した時にも、こうしたシチュエーションが話題になった。スマートフォンの中身を暗号化しても、その場でアンロックしろと脅されたらどうしようもない。米国でスマホ強盗に遭ったら、間違いなく私は素直に従うだろう。バットで頭を殴られたくはない。余裕があったら「スマホは渡しますよ〜」という雰囲気でその場を満たしながら「リセットしてもいいか」と交渉すると思う。

さて、今この漫画が共有されているのは強盗事件が理由ではない。NASAの職員がテキサス州の国際空港で直面した入国時のトラブルがきっかけだ。

NASAのジェット推進力研究所の科学者であるSidd Bikkannavar氏が、1月30日にチリのサンチアゴから米国に帰国した。27日にトランプ政権が入国制限の大統領令を出した数日後である。Bikkannavar氏の名前はインド系を想像させるが、米国生まれ、見た目も含めて普通の米国人である。ところが、テキサス州ヒューストンの国際空港において、税関・国境警備局のエージェントに所持していたスマートフォンをアンロックするように言われた。Bikkannavar氏は自身がNASAの職員であり、スマートフォンにはNASAの機密情報が入っていると一度は拒否した。だが、同氏の主張は認められず、最後はあきらめてアンロックした。税関・国境警備局の職員はスマートフォンを持って部屋を出て行き、約30分後にスマートフォンはBikkannavar氏の手に戻ってきたという。

私は公にはAppleのプライバシー保護を支持しているが、心の中では「見られてマズいものがないならデータは便利に活用するべき」というGoogleにも同意というゆるい人である。それでもアンロックしたスマートフォンが自分の見ていないところでチェックを受けるのには抵抗がある。丸ごと中身のコピーが取られているかもしれないし、スマートフォンに入っている情報なら「なりすまし」やアカウントの乗っ取りも可能である。いつの間にか知らないクレジットカードが作られているということにもなりかねない。

NASA職員で米国人のBikkannavar氏でも、入国時にスマートフォンをアンロックしなければならないのだ。誰だって同じ要求を受ける可能性がある。税関・国境警備局の職員の要求は合法なのか、という議論が広がったが、入国審査を終えて扉の向こうに足を踏み入れるまで、そこは米国であっても米国ではない。だから、1月30日の時点では、スムーズに米国に入国したいなら税関・国境警備局の職員の要求に従ってアンロックするしかなかった。

このニュースを読んだ時、すぐに自分だったらどうするか考えた。アンロックしたスマートフォンを見られても「大丈夫」と思ったものの、よく考えてみると、リベラルなデモとか、反トランプのプラカードなど、仕事に使えそうなものを日頃撮影している。Amazonの購入履歴も勘違いを呼ぶ可能性が無くもない。「見られても大丈夫」は自分の思い込みで、水際の番人がどのように判断するかは分からない。

それなら、どうすれば良いか。FreeCodeCampのQuincy Larson氏の答えは「私は国際的なフライトにもう携帯を持っていかない。キミたちもそうするべきだ」だ。スマートフォンが必要なら旅行先で安い端末とSIMを調達する。たしかに、その場にないものは見られない。だが、自分が税関・国境警備局の職員だったら、今どきスマートフォンも持たずに国際旅行する人を見逃しはしないだろう。間違いなく、怪しむ。スマートフォンの中身は見られなくても、違う面倒に巻き込まれてしまいそうだ。

現実的なソリューションは、旅行用のアカウントでログインしたスマートフォンで、その時に必要なファイルだけを収めて旅をすることだ。私のケースだと、普段の環境が必要ならアカウントをログインし直すだけで、どこでもすぐに呼び出せる態勢がすでに整っているし、ネット経由で自宅のNASにもアクセスできる。旅行先である程度高速なネット接続を確保できるなら、仕事の出張でもなんとかなりそうだ。ただ、ノートPCはスマートフォンやタブレットほど簡単ではない。今後ノートPCもローカルストレージに情報やファイルをため込まず、スマートフォンやタブレットと同じようなクラウドをメインストレージとする使い方にシフトさせていかなければならないかもしれない。

スマートフォンやタブレット、ノートPCとクラウドサービスの個人アカウントが密に統合され、モバイル端末を通じて個人のあらゆることが端末とクラウドに蓄積されるようになった。それによってスマートフォンの有用性が増し、スマートフォンを利用した便利なサービスが実現している。SNSなどに接続した今日のスマートフォンは、パスポート以上にその人の素性をよく説明するから、スマートフォンの提示は国土安全保障の向上につながるだろう。しかし、それが深刻なプライバシー侵害や重要な情報の漏洩につながるかもしれないという不安が残る。デジタルプライバシーを保護する方法として暗号化は2016年には有効だったが、今年はパスワードを渡すのを前提とした対策を考えなければならない。それは決して正しい状況とは言いがたい。だから、旅行用のスマートフォンを用意するか、個人的に今はまだ様子見である。だが、快適に旅行するための備えはしておくつもりだ。

(Yoichi Yamashita)