酒場の旬はレモンサワーとジントニック

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■ハイボールは絶妙なポジション獲りに成功

居酒屋で「ハイボールくださーい」と頼むのは、今やごくありふれた光景ですが、10年前にはまったくもって当たり前ではありませんでした。サントリーのウェブサイトによれば、ウイスキー市場はピークであった1983年に比べて、2007年時点で6分の1の規模にまで縮小を続けていたのです。当時はウイスキーが復権するとは、私を含めてほとんどの人が思いもしなかったはずです。

同社が「角ハイボール」を世に大々的に打ち出したのが2008年のこと。「おじさんがバーでちびちび飲む」ような存在だったウイスキーは、そこから10年も経たないうちに、居酒屋や自宅で幅広い世代にワイワイと、そしてガブガブと飲まれる姿へと変貌をとげました。

国税庁が昨年発表した「酒のしおり」の中の酒類販売数量のデータを見ても、底であった2008年から徐々にウイスキーの販売量は伸びており、2014年(データ上はこれが最新)は2008年比で157%となっています。ハイボールについては、もはやブームというステージはとっくに越えており、すっかり定着したと言えるでしょう。

以前私はハイボールについて考察したさいに、「ビールの後の2杯目」というポジションの獲得に成功したのではないか、という仮説を立てたことがあります。乾杯でビールを飲んだあとに、さて次は何にしようかなと迷うことがあります。当時は「これぞ」という決め手がない人も多く、そんな空いていたポジションにハイボールはすっと入り込んだように見えたのです。ちなみに、「糖質」や「プリン体」を避ける傾向が強まるにつれて、最近では1杯目からハイボールという人が増えているのも感じます。

■割って入るか「レモンサワー」「ジン」

そんな「1杯目・2杯目争い」のレースに、ここのところ新たな動きが出てきました。居酒屋の定番ドリンク「レモンサワー」に注目が集まっているのです。これまでもレモンサワーが名物という老舗の居酒屋はありましたが、比較的新しい店の中でレモンサワーに独自のこだわりを見せるところが増えています。

焼酎にレモンを漬けこんでレモン酒にしたり、レモンを凍らせて氷の代わりに使ったり、国産の青いレモンをふんだんに使ったりと、それぞれに工夫を凝らしています。さっぱりした飲み口や健康に良さそうなイメージ(酒飲みのただの言い訳ですが……)、また前述のように糖質を敬遠する流れも追い風となり、アップデートされたレモンサワーが改めて見直されているのです。

一方、違う動きも出てきています。まだまだ小さな芽のようではありますが、この数年「ジン」にも光が当たりつつあります。ジンといえば、ジントニックというこれまた定番中の定番ともいえるカクテルがあります。一定の年齢層以上の人にとっては「あぁ、昔はよく飲んだなぁ」という存在かもしれません。

サントリーは「ビーフィーター」というイギリス産のジンを取り扱っていますが、一部の飲食店で積極的にプロモーションを仕掛けています。ビーフィーターは「BEEFEATER」と書きますが、その名前の由来は「Beef」+「Eater」(牛肉を食べる人)とされています。

それに引っかけて、焼肉店や肉をウリにしたワインバルなどでは、「肉にあわせる」ことを前提としてビーフィーターを使ったジントニックをメニューにのせているのです(ジントニックになぞらえて「ジンと肉」というダジャレまで駆使しています)。

■時代の趨勢は「クラフト」へ?

1杯目、2杯目の話からは逸れるのですが、ジンについては興味深い流れが起きつつあります。キーワードは「クラフトジン」です。「クラフトビール」という言葉は耳にしたことがあるかもしれません。クラフトビールに厳密な定義はありませんが、大手メーカーが「工業的」につくるものとは違い、顔の見える小規模生産者による個性的なビールの総称です。

クラフトビールの先進国はアメリカですが、このトレンドは日本をはじめ世界中に広がっています。そして、これと似たようなことがジンの世界でも生まれているのです。そもそもジンとは、穀物由来の蒸留酒に、ジュニパーベリーという植物の果実で風味付けをしたものです。

風味や香り付けのための植物のことを「ボタニカル」と呼んでいますが、新しいジンのつくり手たちは、これまでとは異なるボタニカルを使って、オリジナルの味わいを生み出そうと試みているのです。ちなみに、日本の京都蒸留所がつくるクラフトジンでは、ボタニカルとして玉露、ゆず、ひのき、山椒などが使われているそうです。

「小規模」「クラフト」「個性的」「地域性」。これらはお酒に限った話ではありません。「大量生産」「工業的」「画一的」「グローバリズム」などに対する、ある種のアンチテーゼやカウンターカルチャーとして、世界的にさまざまなジャンルで同時に起きている大きな流れです。まずはクラフトビールやクラフトジンを飲みながら、こうした時代の移ろいを感じてみてはいかがでしょう。

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子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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(子安大輔=文)