柴田昌治 スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表

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■「エキスパート」は全社的な視野を持つ人

最近は減ってきてはいますが、社員のなかでも専門的な知識や技術を持つ「エキスパート」と呼ばれる人がいます。確かに、1つの部門に長く在籍すると、専門性が高くなることは間違いありません。彼らは人事のプロとか財務の達人などと周囲からも認められ、自分自身もそれに誇りとやりがいを持って働いています。

しかし、昨今のようにビジネス環境が大きく転換されようとしているときにそれでいいのでしょうか。自部門さえ何とかなっていればそれでいい。関心があるのは自分の部署やチームだけというのでは、社員としての役割を果たすことはできません。周囲が大きく変わったのにも関わらず、自分は何も変わらないというのでは、組織全体にとって大きなマイナスになってしまいます。

人事や財務といった間接部門に求められるのは、会社の総論としての経営戦略を各論に落とし込み、現場での実行をサポートすることです。自社の経営戦略に大きな転換があったならば、自分たちの仕事での判断基準や中味も変えていく必要が出てきます。本当の意味の「エキスパート」というのは全社的な視野を持つ人です。

もちろん、間接部門だけではありません。先日もある企業で「海外展開」をテーマに語り合ったのですが、国内営業部も率いる部長は「私には関係ないでしょう」とまったく関心を示そうとしないのです。しかし、少しアンテナを海外営業に向ければ、新しい販路が拡大できるかもしれない。そんなビジネスチャンスをみすみす失ってしまっていることになります。

■担当部門のことを考えるのは部長クラスの仕事

会社が新しい経営計画を打ち出そうというのであれば、「私は一体何をすればいいのか」と自問し、部内では「自分たちが目指す方向は何なのだ?」という議論をするべきでしょう。そうでないと、その社員や部署は新戦略を展開に乗り遅れ、戦力になることはできません。

こうした傾向は管理職だけでなく、トップマネジメントにも見られます。私がサポートをする際、まず、その会社の役員に「あなたのミッションは何ですか」と聞くことがあります。すると、専務・常務クラスでも、自分の担当部門の目標達成を挙げるケースがほとんど。役員というのは、まず全社的な方向性の中での自部門を考えるのが役割であって、担当部門のことを中心に考えるのは部長クラスの仕事です。

もし、自分自身が視野狭窄に陥っているという自覚があるなら、思い切って他部門への異動を願い出るのも悪くありません。いってみれば、畑違いの部署で新しい知見を養うわけです。最大のメリットは、物事を見る角度が変わり、多角的な判断ができるようになることです。それにより、いつか経営に参画するポジションになったとき、幅の広い意思決定ができるようになります。

そうでないと「井の中の蛙」にもなってしまいます。とはいえ、そう簡単に異動の希望が通るとは限りません。けれども、同じ部門にずっと居続けるとしても、さまざまな部門の人たちと積極的につき合うことによって全体観を獲得していくことができます。もともと、例えば人事のプロである人が広い視野を持てば「鬼に金棒」。しばらくして振り返れば、仕事の幅は人事ひと筋だった頃より確実に広がっているはずです。

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柴田昌治(しばた・まさはる)
1986年、日本企業の風土・体質改革を支援するスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。著者に『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『成果を出す会社はどう考え動くのか』『日本起業の組織風土改革』など多数。近著に『「できる人」が会社を滅ぼす』がある。

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(スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表 柴田昌治 構成=岡村繁雄)