マレーシアのクアラルンプールで15日、金正男氏が運ばれたとされる病院に出入りした、北朝鮮大使館の車両(MANAN VATSYAYANA/AFP/Getty Images)

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  中国当局は、金正恩政権が崩壊した場合、代わりに金正男氏を新たな指導者に擁立しようと考え、金正男氏を保護してきた。金正男氏は将来、北朝鮮の新たな政権の指導者と見なされていた。

 北朝鮮の金政権は長い間、前総書記の江沢民が率いる派閥の支配下に置かれていた。海外メディアも周永康、曽慶紅といった江派閥の重鎮と金ファミリーとの密接な関係や、江派閥要員が北朝鮮の核開発に関与したことを報道している。北朝鮮の最高権力を掌握してから、金正恩氏は江派閥の周永康や劉雲山と頻繁に接触していることが分かる。

 一方、習近平氏の対北朝鮮戦略は、江派閥の戦略と大きく異なっており、金正恩政権と距離を置いている。国家主席に就任後5年間、今まで一度も金正恩氏と会談していない。

 中国共産党政権の金正恩氏に対する「中国の地盤(勢力範囲)内で金正男氏の暗殺を企むな」との警告は、北朝鮮金政権の支配において、中国共産党内の習近平派、江沢民派、各派閥間で共通認識だったと考えられる。同時に、金正恩政権に対して、越えてはいけないレッドラインを突きつけた。しかし金正男氏はマレーシアで暗殺されてしまう。

 中国メディア「鳳凰網」は2月14日、評論記事で、金正恩氏が北朝鮮最高権力の継承権を独占しようとする野心から、兄の暗殺を実行したと分析している。

 金正男氏が暗殺されたことは、中国共産党内部の習近平派と江沢民派の共通認識が打ち破られ、抗争が激しさを示している。同時に、金正恩氏がレッドラインを越えたことで、これまで中国と北朝鮮というイデオロギー的盟友であった関係に亀裂が生じたことも意味する。

 いまや、江派閥の支配を受ける金正恩政権は、習近平政権下の国内外情勢をかく乱し、江派勢力を復活するための一つの駒となった。

金正恩暗殺計画も?窮地に追い込まれた北朝鮮

韓国メディア「朝鮮日報」の2010年の報道によれば、韓国政府の情報筋として、金正恩氏が後継者と内定されてから、その側近が金正男氏への暗殺を企ててきたが、習近平政権当局は金正恩氏に対して「中国の地盤(勢力範囲)内で金正男氏の暗殺を企むな」と警告していたという (JUNG YEON-JE/AFP/Getty Images)
 

 金正男氏が暗殺される前、米国、日本、中国などの国際情勢でも大きな動きがあった。

 2月12日、訪米中の日本の安倍晋三首相とドナルド・トランプ米大統領が首脳会談した直後、北朝鮮は日本海に向かって弾道ミサイルを発射した。これを受け、13日、トランプ大統領は記者会見で、北朝鮮問題について「明らかに極めて重要な問題だ」「より強力に対処していく」と強調した。また国連安保理は緊急会議を開き、北朝鮮に対して「さらなる重大措置を採る」と非難声明を発表した。

 朝鮮半島問題は、米国のアジア太平洋地域外交の核心であり、また米中関係の重要問題の一つでもある。トランプ大統領は中国の習近平国家主席と2月9日電話会談をした際、「一つの中国」原則について尊重する意向を伝えた。中国国内メディアは米中双方が今後密接な連携、タイムリーな意見交換、各方面での協力強化、両国の首脳会談の早期実現などで意見が一致したと伝えた。電話会談において両者は北朝鮮の核問題と金正恩政権について意見を交換したと思われる。

 北朝鮮が2016年1月6日に水素爆弾実験、2月7日に長距離ロケット発射を実行したことに、習当局も国際社会とともに「断固たる反対」を表明した。その後北朝鮮の核開発問題に対して、習当局は米国、韓国と協力をし、北朝鮮に対して制裁や追加制裁を行った。

 中国清華大学現代国際関係研究院の閻学通・院長は16年2月9日、米紙「ニューヨークタイムズ」の取材に対して、「習当局はすでに北朝鮮を盟友として見なしていない」と発言した。

 多くの情報や報道から、米中韓3国はこの2年間に金正恩政権に対して圧力をますます強めており、金正恩氏はすでに四面楚歌という危機に陥っているのを読み取れる。弾道ミサイルの発射、兄の暗殺はまさに瀕死に陥った金正恩政権の反撃であると考えられる。

 韓国国防省は今年1月初め、金正恩氏を含む北朝鮮指導部を排除し暗殺任務を行う特殊部隊を年内に創設すると発表した。韓国メディアによると、この計画に米国特殊部隊も参加するという。

 一方中国国内では、対北朝鮮制裁の強化を主張する強硬派学者、中国共産党中央党校国際戦略研究院の張蓀瑰教授は2月15日、国内外交問題サイト「鈍角網」が主催した討論会で、米トランプ政権が対北朝鮮の強硬姿勢で「今年北朝鮮に対して軍事的動きがみられる可能性が高い」との見解を示している。

 中国共産党内の派閥抗争は重要な時期に差し掛かっている。今年秋に開催予定の中国共産党第19回全国代表大会(19大)の前、法的な裁きを恐れる江沢民派閥はあらゆる手段を使って、必ず反撃してくるだろう。これに対して、習近平陣営は、国内では江派閥人員の摘発をより一層強化させ、国外では米国、韓国、そして日本との連携を強め、北朝鮮に対する制裁を一層強化していくだろう。

(時事評論員・謝天奇、翻訳編集・張哲)