US President Barack Obama awards Vice President Joe Biden the Presidential Medal of Freedom during a tribute to Biden at the White House in Washington, DC, on January 12, 2017. (c)


 以前、あるヘッドハンターの方とお話しさせていただいた。その際に、今、ヘッドハンティングの依頼として増えているのはどういう人かと伺うと、「社長ができる人」だと言う。

 多くの会社で社長の後継者がいないことが問題になっており、そういった依頼が増えているとのことだった。

 では、どういう人を社長としてヘッドハンティングするのかというと、その方の答えは「仕事ができる人」でも「カリスマ性がある人」でもなく、「社長の仕事が辛いと思える人」だった。

従業員に余計なストレスを与えない

 部下が気持ちよく働ける場をつくる。

 そのためには、自らが皆の模範となるような姿勢を示し、部下の話を聞き、部下の気持ちに共感し、褒めるべきところは褒め、叱るべきところは叱る。

 ネガティブな社外のやり取りにおいては、自分が矢面に立ち、従業員に余計なストレスや不安を与えないように食い止める。

 そういったことを「社長の仕事って辛いなぁ」と思えるくらいに、真面目に愚直にできる人。そういう人を社長候補としてヘッドハンティングするとのことだった。

 この方は数々の社長をヘッドハントしてきた経験から、こういった人を社長に据えると、部下も「この人のためなら」と一生懸命働くようになり、長期的に会社が発展する。そう話されていた。

 私は公認会計士、心理カウンセラーとして経営コンサルティングを行っているが、その仕事柄、従業員のモチベーションを引き出し、長きにわたって組織をまとめ上げている人に共通する点は何かということを考えることが多い。

 その答えとしてはいろいろな要因が考えられるが、そのうちの1つが「人」に関心を持ち、部下と人間対人間の関わりを持っていることが挙げられる。

 そういった人は部下の話に関心を持ち、部下の気持ちに共感し、部下のために何かできないかという姿勢を持っている。一方で、「仕事」には関心があっても、「人」に関心がない人も少なくない。

 こういった人がリーダーを務める部署では組織の一体感は低くなりがちである。

 人間の心は返報性という性質を持っている。良くも悪くもお返しをしたくなるという性質である。自分に失礼な態度で接してきた相手には、自分もそれなりの態度で接しようという気持ちになる。

 自分を1人の人間として愛情を持って接してくれた相手には、自分も愛情を持って接しようという気持ちになる。そのため、自分に愛情を持って接してくれる上司に対しては、部下も「この人のためなら」という気持ちで、モチベーション高く働けるようになる。

参列者の声を真剣に聞かれる天皇・皇后両陛下

 先日、皇居の勤労奉仕に参加させていただく機会があり、その際に天皇・皇后両陛下とお目にかかることができた。

 元々そこまで皇室に強い関心があったわけではなかったので、あまり緊張することなくお会いさせていただいたのだが、実際にお会いしてみると、参列された方、お一人おひとりの話を真摯に聞かれる両陛下の真剣な眼差しを見て、私は涙がこぼれてきた。

 その眼差しには相手に対する強い関心と、深い共感が表れていた。毎日、何十人、何百人という方とお会いされているにもかかわらず、こうやって一人ひとりに強い関心と深い共感を持ってお会いになられるその姿に心を打たれた。

 それから、車に乗られて次の場所へ向かわれる際には、お姿が見えなくなるまでずっと身を乗り出すようにして一生懸命にこちらに手を降って下さった。その姿を見てまた目頭が熱くなった。

 他の参加者もほとんどの方が感極まって涙されていた。私は人の心が大きく動く瞬間を目の当たりにした。

 人の心を動かすというと、迫力のある演説をしたり、感動的な言葉を投げ掛けたりするケースをイメージしがちである。しかし、多くを語らずとも、相手に強い関心を持ち、真剣な眼差しと深い共感を持って接することで、人の心は動く。

 この両陛下のご対応に多くの方が「この人のためなら」という気持ちを覚えたのではないかと思う。世界にはいろいろなタイプのリーダーがいるが、こういう方がリーダーである日本という国の偉大さを感じた。

 ある大手建設業の営業チームのリーダーとして異例の営業成績を残し続けた方がいる。

 元々その営業チームにはモチベーションの低い部下が何人かいた。にもかかわらずそれだけの成績を残せたのは、部下のやる気に火をつけることができたからだという。

 では、どうやってやる気に火をつけたのか。

 それは「上司と部下」という関係を「人間と人間」の関係にすることだったという。2人で飲みに行き、部下の家族のこと、故郷のこと、学生時代の思い出、将来のこと、そういったことを同じ気持ちになってじっくり聞いた。

部下の家族との触れ合いが信頼生む

 部下の家族と何度も食事を共にし、部下の子供と一緒になって遊んだ。子供が言うことを聞かなくて困っていると部下から相談を受けた時は、その子供に説教をしに行った。

 部下の親が亡くなった時は葬式に出るのみならず、親族と共に葬式の運営を手伝った。部下とそういった付き合いをしながら、叱咤激励を続けた。

 そうするうちに徐々に部下の心が動き、仕事に対する姿勢が変わっていった。定年退職後、部下と飲みに行った際にその部下からこんなことを言われたという。

 「○○さんが親父の葬式の手伝いをしてくれている姿を見た時、この人について行こうって思ったんです」

 こういう関わりをしてくれる上司に、部下は「この人のためなら」と思うようになる。

 上司に対して「この人のためなら」という思いを持った部下から構成されるチームは、自ずと高いパフォーマンスを残すようになる。その結果が異例の営業成績となって表れたという。

 幕末から明治にかけて名を馳せ、大政、小政、森の石松など有名な子分を従えた大親分、清水次郎長。次郎長が勝海舟と面会して話した時、海舟は次郎長にこんなことを聞いた。

 「お前のために命を投げ出す子分は何人おるかえ?」

 その問いに対して次郎長はこう答えた。

 「1人もおりません」

 その答えに戸惑う海舟に対して、次郎長は続けてこう言った。

 「でもわっちは子分のためにいつでも命を投げ出せます」

 海舟はこの答えを聞いて、次郎長が率いる組織の結束力を察したという。

 相手を動かすためにああしろこうしろと言う前に、その相手と深く関わり、人間と人間の関係を作る。それができれば多くを語らずとも相手は動いてくれる。

 そういった関係を作ることは決して楽なことではない。正面から相手と向き合うことが求められる。大きなストレスも伴う。

人間関係への関心が部下の共感を得る

 しかし、そういった上司の在り方は部下の心を動かしていく。

 部下が言うことを聞かず組織がまとまらないと悩む経営者、管理職の方は少なくない。よくよく状況を聞くと、上司は「仕事」には強い関心を持っていても、「人」に関心を持っておらず、部下との人間関係が希薄な場合が多い。

 一方、最近の若手は希薄な人間関係を好むという管理職の声も聞く。ただ、果たしてそう言い切れるのだろうか。そう言い切ってしまって諦めるのは楽なことである。

 まずは相手に人間として関心を持つ。そして、深い共感を持って相手の話を聞き、人間と人間との付き合いとはどういうものかを模索してみる。

 そういった関わりの先に、いつか部下から「この人のためなら」と思われる上司になれる日が来るのではないかと思う。

筆者:藤田 耕司