この夫婦の絆を断ち切ると?

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「亭主元気で留守がいい」という言葉がある。夫がいない方が元気でいられる中高年女性は少なくない。そこから、夫の定年退職を契機に「熟年離婚」に踏み切る女性もいるが、実は「健康面を考えると別れた方が正しい」という驚きの研究がまとまった。

米アリゾナ大学のチームが女性の健康専門誌「ジャーナル・オブ・ウーマンズ・ヘルス」(電子版)の2017年2月8日号に発表した。

専門家が面談して直接体調を検査

同誌の論文要約とアリゾナ大学のプレスリリースによると、研究チームは「全米女性健康イニシアチブ」という大規模な健康調査データを使った。これは米国立衛生研究所が予防医学のために行なっているもので、精度が高いとされている。通常の健康調査は対象者がアンケートに答える方式がほとんどだが、この調査は専門家が面談し、直接体調を検査し健康状態などを聞き取るからだ。

研究では調査に参加した50〜79歳の、閉経した女性7万9094人を対象に3年間にわたり、結婚や離婚が健康と生活状態に与える影響を追跡調査した。健康の指標には肥満度を示す「体格指数」(BMI)と「ウエストサイズ」「血圧」を使った。生活状態では「食事の内容」「運動などの身体活動量」「飲酒」「喫煙」を調べた。対象者からは夫と死別した「未亡人」は省いた。閉経後の女性が自分の意志で結婚・離婚することが健康に与える影響を検証するためだ。

健康データの分析のために、対象の女性たちを次の4つのグループに分けた。

(1)3年間変わらずに結婚状態(事実婚を含む)を続けている人(結婚継続組)。

(2)同じく未婚状態(あるいは離別状態)を続けている人(シングル継続組)。

(3)3年の調査期間中に未婚状態(あるいは離別状態)から結婚した人(新規結婚組)。

(4)同じく結婚状態(事実婚を含む)から離婚した人(新規シングル組)。

米研究では「熟年結婚」は逆に健康に悪い

調査の結果、「結婚継続組」と「シングル継続組」との間ではほとんど差がなかったが、3年間で婚姻関係が劇的に変化した「新規結婚組」と「新規シングル組」との間では、健康状態にはっきりした差がみられた。「新規シングル組」の方が「新規結婚組」より、健康指標と生活状態のほとんどの項目でよかったのだ。まず、「新規結婚組」は次のように健康・生活状態が悪くなった。

(1)結婚する前に比べ、体重が増え肥満度を示すBMIの数値が高くなった。ウエストサイズも増加した。

(2)飲酒量が増え、血圧が上昇した。

逆に、「新規シングル組」は次のように健康・生活状態が良くなった。

(1)離婚する前に比べ、体重が減りBMIの数値が下がった。ウエストサイズも減った。

(2)血圧が下がったが、飲酒量には変化はなかった。

(3)健康的な食事をとるようになり、身体活動量が増えた。

しかし、「新規シングル組」には悪くなったことが1つあった。タバコを吸っていなかった人が、喫煙を始める割合が高まったのだ。ただし、初めて吸い始めた人は少なく、元喫煙者が多かった。

つまり、たった1つの例外を除き、女性は中高年になったら離婚した方が健康的になれるという結果が出た。ここで1つの疑問が残る。離婚した女性の体重が減ったのは、「離婚の悲劇からくるストレスによるもので、不健康を示す証拠ではないか」という見方だ。この点に関しては、大学のプレスリリースの中でクトブ博士はこう否定している。

「私たちはうつ症状についても調べましたが、離婚した女性に特に多くみられたということはありません」

自分の人生と健康にもっと集中できる

今回の結果は女性の健康医学の常識を破るショッキングなものだった。論文を掲載した「ジャーナル・オブ・ウーマンズ・ヘルス」誌編集長のスーザン・コルンスタイン医師は、論文要旨の中でこう語っている。

「婚姻状態と健康に関する、これまでの20余りの研究では、結婚生活は女性の健康の改善に役立ち、離婚は死亡リスクを高めるというものでした。ところが今回の研究は、それらのものとは真逆の結果で、非常に対照的です。おそらく従来の研究の多くが若年女性を対象にしており、クトブ博士とその研究仲間は、心血管疾患や糖尿病にかかりやすい閉経後の女性に焦点を当て、婚姻状態の影響を調べたためと思われます」

それでは、どうして高齢女性はひとり身になると元気になるのだろうか。クトブ博士は「メカニズムはまだわからないが」と言いながら、大学のプレスリリースの中でこう語っている。

「医療者として私は、新たに結婚する中高年女性に『お祝い』を述べるだけでなく、健康のためのアドバイスやツールを提供し、身体活動を続けるよう励まさなくてはならなくなりました。離婚すると健康になれる理由は、自分自身の健康にもっと集中できるようになるからだと思います。新しくシングルになった女性たちは健康な生活を意識的に心がけていました。食事が健康的に改善した割合は、4つのグループの中でこの女性たちが最も高かったのです」
「離婚のようなかなり致命的な人生の出来事でさえ、健康面で考えると肯定的な成果をもたらします。もし、私たち医療者が肯定的な立場を促すことができれば、女性たちが同様に対処することに役立つでしょう」

それまでの人生が、子どものため、老親のため、夫のためだった中高年女性。ひとりになって自分ための健康と人生を見つめ直しては、とクトブ博士は言っているようだ。