知的財産の世界が、大笑いできるほど面白かったなんて! (amazonはこちらから)

写真拡大

「PPAP」を商標出願していた元弁理士の狙いとは? 佐野研二郎氏の「東京五輪エンブレム」は何が問題だったのか?  鳩山幸氏が発明したキッチンパーツの特許出願の行方は? メリー喜多川氏の考案した「早変わり舞台衣裳」の秘密とは? ビジネスに役立つ知識を笑いながら学べる究極の入門書『楽しく学べる「知財」入門』が登場! 本書の導入部を、特別公開。

■知的財産権とは何か?

ここのところますます、テレビや新聞で「知的財産権」に関するニュースを目にする機会が増えてきた──そう感じる方は多いだろう。

他人の文章、画像、音楽が無断で流用されているウェブサイトがあったとか、動画共有サイトにテレビ番組や映画が無断でアップロードされていたといった騒ぎは、ひっきりなしに起こっている。中国などのアジア諸国において大量の海賊品や模倣品が作られ、その一部が日本国内に流入している事実もすでに広く知られているところだ。

誰かが苦労して考え出したアイデアや作品をそのままコピーしたものや、それを少し変えただけのものが流通すれば、そのオリジナルを生み出した人が報われなくなってしまう。そのため、知的な創造活動によって生み出されたものを、それを創作した人の財産として保護することが必要だ。

ふつうは財産というと、お金、土地・建物、自家用車などのことを思い浮かべるが、ここでいう財産とは、「経済的な価値のある情報」のことをいい、これを「知的財産」と呼ぶ。

つまり、「知的財産権」とは、ひとことで言えば、「人間の知的な創造活動によって生み出された経済的な価値のある情報を、財産として保護するための権利」のことである。この「知的財産権」のことを、略して「知財」と呼ぶことも今では一般的となっている。

序章で説明するが、知的財産権には、小説・絵画・音楽などの著作物に関する「著作権」、発明に関する「特許権」、物品の形状や構造などの考案に関する「実用新案権」、物品のデザインに関する「意匠権」、商品・サービスに付ける営業標識に関する「商標権」などがある。つまり、知的財産権というのは、これらの権利の総称である。

それぞれの権利について、「聞いたことはあるが、具体的にどのようなものなのかよくわからない」という方が多いのではないだろうか? その背景には、知的財産権が自分の仕事や生活とは特に関係がないと考えている方が多いということがあると思う。

だが、最近は、そのような悠長なことなど言っていられない状況になっている。

たとえば、パソコンやスマートフォンの爆発的普及と通信網の発達によって、時と場所を問わない情報のやり取りが可能となったことから、自分が創作したコンテンツを外部に発信する機会が増えてきた。その半面、それを他人に流用されることは珍しいことではなくなっているし、また、我々自身も、他人が創作したコンテンツを自分のコンテンツに取り込むことで、無意識のうちに他人の知的財産権を侵害している可能性もある。

さらに、デジタルデータを簡単に三次元化できる「3Dプリンター」(立体印刷機)の登場により、知的財産権を巡るトラブルが「インターネット世界」から「リアル世界」に飛び出してくるリスクも格段に高まってきた。

企業・団体のレベルはもちろんのこと、個人のレベルにおいても知的財産権について知っておかねばならない局面が増大していることがおわかりいただけるだろう。現代社会において知的財産権に関する知識をしっかり身に付けることは、企業・団体や個人がこの先、生き残っていくために必要不可欠となっているのだ。

そこで本書は、知的財産権について本格的に勉強したことのない一般読者の方々、特に、ビジネスの第一線で戦っているサラリーマン・自営業の方々や、これから社会で戦う学生の方々に、知的財産権に関する理解を深めてもらうことを目指した。

■「パクリ」を叩き潰す社会

難解な知的財産権の世界をすべて網羅すると膨大な分量になるので、それを可能な限りわかりやすく解きほぐせるよう、本書では主に「模倣」という行為にフォーカスを当てた。というのも、「模倣」というテーマが、知的財産権の面白さを知る取っ掛かりとなるのはもちろんのこと、後述するように、知的財産権に含まれる各権利(著作権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権など)の違いを理解するうえで、実に格好の題材だからである。

「模倣」といえば、ここ数年に起こった様々な「パクリ騒動」を思い出す方も多いだろう。

2014年初頭、理化学研究所の元研究員・小保方晴子氏によるSTAP細胞論文を巡って捏造疑惑が持ち上がった。このとき、小保方氏の過去の論文までもが俎上に載せられ、他の文献から多数の流用があることが大問題となった。

また、2015年夏、アートディレクター・佐野研二郎氏が考案した東京五輪エンブレムを巡って盗作疑惑が持ち上がったときも、佐野氏の過去の作品が俎上に載せられ、「他の作品にも多数の盗用があるのではないか?」という疑惑の連鎖が起こった。

インターネットが普及する前は、ここまでの「パクリ騒動」は珍しかった。実際、バブルの頃までは、ロッテの菓子「ビックリマンチョコ」のオマケシールを模倣して、「ロッチ」の「ドッキリマンシール」が作られたり、「なめんなよ」の合い言葉で著名となった「なめ猫」のグッズの模倣品として「なめるなよ」と称するものが出回ったりしていたが、それほどの大騒ぎにはならなかった。

ところが最近では、インターネットに著作権侵害コンテンツが溢れかえっている一方で、メディアなどで注目を浴びた人が、いったん「パクリをする人物」というレッテルを貼られると、再起不能なまでに叩き潰される傾向にある。「パクリ」は「不倫」と並んで、血祭りに上げられた人間が、その一生を棒に振ってしまうかもしれないリスクファクターと認識されつつあるのだ。

そのため、現在では、「パクリ」と指摘されることを必要以上に恐れる人や会社も増えているように思う。法的にアウトなら仕方がないにしても、法的にはセーフであるにもかかわらず、他人とのトラブルを抱え込みたくないとか、ネットで炎上したときの対応が面倒という理由だけで、せっかく作った作品の発表を諦めたり、またはそれを撤回したり、さらには、自分の権利を強硬に主張する人に対して、本当に権利侵害であるのか怪しい状況であっても、素直に謝ったりお金を支払ったりする例まで出てきている。

ここからわかることは、「パクリ」を糾弾する社会風潮は醸成されているが、必ずしも、日本人の知的財産権に関する理解が深まっているとは限らないということだ。モラル的にも問題のない合法的な「模倣」までもが葬り去られるようになってしまっては、本末転倒である。

■「模倣」がすべてダメというわけではない

そもそも、人類は「模倣」を通じて進歩してきたという側面を見逃してはならない。

農業や文字の伝搬からもわかるように、人類の歴史は「模倣」の歴史でもある。古今東西、何かを創作する際には先行物を参考にし、それを前提として文明は進歩してきた。産業や文化だけではなく、宗教も「模倣」の要素がある。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は、それ以前のゾロアスター教から大きな影響を受けている。日本の神仏習合(神仏混淆)など、既存の宗教に新しい宗教を取り入れる手法も、「模倣」の一形態と言えるだろう。

知的財産制度においても、「模倣」というのは織り込み済みである。

まず、知的財産権が発生していないものは、いくつかの例外はあるものの、基本的には保護されない。つまり、権利が発生していなければ、原則としては、「模倣」をしても問題がないということだ。

また、知的財産権が発生している場合でも、「模倣」が許される場合がある。

というのも、知的財産制度は、知的財産権を持つ人を保護するだけではなく、それ以外の人たちにもその知的財産を利用できる機会を与えることで、「保護」と「利用」のバランスを図っているからだ。つまり、特定の人に独占的な権利を与える一方で、それ以外の人たちに対しても、「模倣をしてもよい」という「安全地帯」を設けているのである。

具体的には、「内容的な安全地帯」と「時期的な安全地帯」がある。

たとえば、Aさんの知的財産を「少し変えたもの」を使う行為が、Aさんの「権利の及ぶ範囲の外側」であれば、法的にはセーフとなるし、Aさんの知的財産をそのまま使っても、その行為が「例外的に許されるケース」に該当すれば、やはり法的にはセーフとなる。この「権利の及ぶ範囲の外側」や「例外的に許されるケース」が、「模倣をしてもよい」という「内容的な安全地帯」となる。

他方、知的財産権には保護期間(存続期間)が定められており、それを過ぎると誰でも自由に使える「パブリックドメイン」となる。これは、ある一定期間、権利を独占させれば、それまでに権利者が十分な利益を回収できるであろうし、その期間が終了すれば、誰でも自由に使えるようにすることが世のためになると考えられているからである。この保護期間の満了後が、「模倣をしてもよい」という「時期的な安全地帯」となる。

■判断は、実は曖昧

ここでやっかいなのは、知的財産権に含まれる著作権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などは、それぞれ保護対象と保護期間が異なっているため、「内容的な安全地帯」と「時期的な安全地帯」についても、それぞれの権利でまちまちという点である。

つまり、「模倣がどこまで許されるのか?」と判断する際の勘所が、各権利で異なっているのである。

これが、他人のアイデアや作品を参考にする際に、「どこまでが許されて、どこからが許されないのか」という疑問をわかりにくくしている大きな要因ともなっている。

そしてこの辺りの「さじ加減」を誤ると、他人の権利を侵害してトラブルに巻き込まれたり、またそれとは逆に、委縮しすぎてせっかくのビジネスチャンスを逃したりするといった不利益を被ることになる。と同時に、権利者の視点に立てば、ひとつの対象に複数の知的財産権を共存させることができる場合であっても、そのことを知らなければ、それら複数の権利を組み合わせる効果的な知財戦略を思いつくこともない。

にもかかわらず、この点について、一般読者向けにわかりやすく書かれた本は、今までほとんどなかったように思う。一部の権利だけを取り上げたものや、それぞれの権利を別々に紹介するだけのものが大半であった。

知的財産権の世界では、実務家であっても学者であっても、業界内でそれぞれ専門の得意分野(縄張りのようなもの)ができているため、そこからあえて外に飛び出すことをためらう執筆者が多いことも、その一因となっているかもしれない。多くの人が様々な知的財産権についてきちんと整理できていないのには、そうした背景もある。

以上のことを筆者が強く意識する契機となったのは、前述した、佐野研二郎氏による東京五輪エンブレム盗作疑惑である。テレビを見ていても、商標権の話が出たり、著作権の話が出たり、論理に一貫性がなく、報道側の人間たちが知的財産権についてどこまで正しく理解しているのか、疑問を感じさせる内容が多かった。

佐野氏の過去の作品に関する盗作疑惑を巡って世論が異常なまでにヒートアップしたときには、誰かの探し出してきた「よく似ている図柄」を次から次へと紹介することにメディアは明け暮れていた。このとき、法的な観点からの考察があまりなされていなかった危機感が、本書を執筆する動機のひとつとなったのである。

本書には、読者の「知財リテラシー」を最大限高めることができるよう、以下の3つの特長を盛り込んでいる。

/閥瓩亡兇犬蕕譴襯罐法璽な事例(事件化したものに限定されない)をふんだんに盛り込み、「模倣」という切り口から知的財産権について楽しく学べるようにした。特に、独自の調査や取材を通じて各事例の背景にある人間ドラマを描き出し、「事実は小説よりも奇なり」を体感してもらうことで、読者の理解が一層深まるようにした。

¬滅鬚気伴騨兩を両立させることで、知的財産権に関連した実践的な知識を自然と読者に身に付けてもらい、それをビジネスなどに役立てられるようにした。

C療財産権に含まれる各権利(著作権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権など)の違いを際立たせた。さらに、各権利が交錯したエピソードを紹介することで、読者に対して複数の知的財産権を組み合わせた効果的な知財戦略を考えるヒントを示した。

皆さんの知的財産権に関する理解の向上に、本書が少しでも役立てば本望である。

■付録:本書で取り上げた具体的事例


●佐野研二郎氏の「東京五輪エンブレム」は何が問題だったのか?

●エコハちゃんはピカチュウの著作権侵害ではなかった?

●槇原敬之氏と小保方晴子氏が『銀河鉄道999』をパクった?

●「ファイトー、イッパーツ」も登録商標!?

●なぜ「どこでもドア」は登録OKで、「お魚くわえたどら猫」は登録NGだったのか?

●「1・2・3・ダァーッ!」と叫んだら商標権侵害なのか?

●「PPAP」を商標出願していた元弁理士の狙いとは?

●鳩山幸氏が発明したキッチンパーツの特許出願の行方

●メリー喜多川氏の考案した「早変わり舞台衣裳」の秘密

●孫正義氏が特許を取ったゴルフシミュレーションゲーム環境装置とは?

●「自撮り棒」と「3Dプリンタ」の特許出願は早すぎた?

●スーパーカブの権利とヤクルト容器の権利が突然復活したワケ

●東京ドームを勝手に撮影したら肖像使用料を取られる?

知的財産の世界が、大笑いできるほど面白かったなんて! (amazonはこちらから)

稲穂 健市
東京都生まれ。東北大学研究推進本部特任准教授、弁理士、米国公認会計士(デラウェア州Certificate)。横浜国立大学大学院工学研究科博士前期課程修了後、大手電気機器メーカーにおいてソフトウェア関連発明の権利化業務、新規事業領域における企画推進・産学連携・国際連携などに従事。約7年間は米国カリフォルニア州にある研究開発拠点の運営にかかわった。知的財産権を楽しくわかりやすく伝える知財啓蒙の第一人者。科学技術ジャーナリスト(筆名:稲森謙太郎)として執筆した著作に、『すばらしき特殊特許の世界』(太田出版)、『女子大生マイの特許ファイル』(楽工社)などがある。