今季からキャプテンを務める小林。前線から攻守両面でアグレッシブに戦っていくことで引っ張っていきたいと抱負を語った。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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「昨季、川崎の中で最も躍進した選手は誰か?」
 
 こう問われれば、人それぞれに様々な見方があるかもしれないが、筆者は間違いなく小林悠を選ぶだろう。攻撃自慢のチームにおいて15得点・11アシストと、実に26得点にも絡む活躍を見せ、自身初のベストイレブンにも選出された。
 
 数字に目を向ければ、36歳を迎えるシーズンで9ゴール・11アシストを記録し、リーグMVPとなった中村憲剛の存在が際立っているのも確かだ。キャリアの終盤と言っても過言ではない年齢でこれだけの成績を残したという事実はさすがの一言である。ただ、成績だけでなく、一プレーヤーとしての意識の変化を考慮すれば、2016年に小林ほど責任感と自覚を強めた選手はいないはずだ。
 
 これまで、チームが不甲斐ない結果を出せば、味方の選手にもメディアに対しても、厳しい言葉を投げるのは、大久保嘉人であり、中村憲剛であった。外野からの批判を覚悟してまでもチームに警鐘を鳴らすことは、チームを強くしていくためには必要だ。その役割をふたりのベテランが常に担っていたのだが、昨季から小林もその“一員”に加わったのだ。安々と失点を喫してしまった守備陣に対し、「ああいう失点の仕方はありえない」と一蹴することは一度や二度ではなかった。チームメイトのミスに対して「やってはいけないこと」とはっきりと言い切ることもあった。
 
 小林がこう口にするようになった背景には、試合に出続けて得た成功体験と、その過程で身につけたエースとしての自覚があることは間違いない。
 
「目に見える結果としてあれだけ点を取っているので自信にもつながってきたのだと思うし、それで要求も高くなっていった。“自分が引っ張っていく””自分が中心だ”という思いもそういう結果から来ているのかな、とは見ていて感じました」と谷口彰悟は語る。
 
 プロ入り後、小林は度重なる怪我に苦しめられ、1シーズンを通して安定したパフォーマンスを発揮することができなかった。ただ「怪我をしなければ結果を残す自信はある」とは常に口にしており、それを証明したのがベストイレブンを獲得した昨シーズンのプレーぶりだった。この有言実行が彼を強くしたことは間違いない。
 そして、4年間チームのトップスコアラーとして最前線に君臨していた大久保嘉人が去ることがシーズン中に明らかになったことも、彼の意識を大きく変えるきっかけとなった。
 
「偉大なストライカーがいなくなるので、フロンターレを自分が引っ張らなければいけないという気持ちはあります」
 鹿島に敗れてまたも準優勝に泣いた元日の天皇杯決勝の後、悔しさを押し殺しながらも力強く、こう口にしていたのが印象的だ。
 
 そして今年、小林は主将の座を任された。中心選手として結果を残し、他クラブからの巨額オファーを断って愛するクラブへの残留を決断した生え抜き選手に帝位を授けるには、最適なタイミングだっただろう。
 
 今季、川崎の背番号11はストライカーとして結果を残すことに加えて、先頭に立ってチームを引っ張っていくことが求められる。それは外野から見ても、非常に荷が重い役割だ。だが、本人は良い意味で“自分がすべてを背負っていく”ことを放棄しているようだ。
 
「チームのことや周りに気を遣いすぎないで自分のことに集中したほうがチームに良い結果がくると、オニさん(鬼木監督)には言われたので。あまり気にしすぎず、今まで通りにやれれば良いかなと思っています。キャプテンのFWがゴールを決めればチームも勢いに乗りますし、自分が先頭に立って前線で攻守に渡って激しく戦うことでチームはグッと締まると思うので。そういうのが僕のイメージするキャプテン像かなと」
 
 小林はあくまでも、今まで通りに戦うと宣言している。腕章を巻くことになったからと言って、何かを変えるつもりはない。昨季に見せた強く頼りがいのある姿を、ピッチ内外で常に示し続けるだけだ。
 
取材・文:竹中玲央奈