取材に対応してくれたMECの担当者が着用していたMECTelのバッジ

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 アジア最後のフロンティアと称されることも多いミャンマー連邦共和国(ミャンマー)。同国の携帯電話市場には日本企業も共同事業で参入し、日本でも話題となったが、4社目の新規参入が決まった。ミャンマーのビジネス界では歴史的背景から軍系企業の地位が高いが、新たな携帯電話事業者に軍系企業が関与することになり、その背景や狙いに迫る。

◆軍系企業の資本参加

 ミャンマー政府は専門組織を結成し、2015年より第4の携帯電話事業者に資本参加する企業の選定を本格化した。

 当初よりミャンマー政府、地場企業、外資企業が共同出資する計画で、2015年中に合弁会社へ出資する目的で11社の地場企業が共同でMyanmar National Telecom Holding(MNTH)を設立し、合弁相手となる外資企業の募集も開始した。そして、2016年3月25日に関心を表明した7社の外資企業からベトナムを拠点とするViettel Group傘下のViettel Global Investmentを選定し、ミャンマー政府はStar Highを通じて出資することも併せて発表された。
 Star Highは国防省が所有するミャンマー経済公社(MEC)の子会社で、これが軍系企業である。

◆政権交代と軍の権益確保

 ミャンマーでは2016年3月30日にアウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)主導の新政権が発足しており、Star Highが合弁会社に資本参加することは政権交代直前の発表だった。長期にわたる軍事政権または軍出身者が率いる実質的な軍事政権下では省庁の大臣や副大臣に多数の軍人や軍出身者が任命されたが、NLD政権下では大幅に減少した。それでも軍事政権時代の名残は見られ、国防省、内務省、国境省の大臣任命権は軍最高司令官が保有し、政権交代後も軍人が大臣を務める。そのため、国防省は依然として軍支配下の政府組織で、MECやその子会社は軍系企業と言える。

 軍事政権時代に軍系企業は地位を築き、ビジネス界で様々な分野に進出しているが、軍としてはNLDによる既得権益の排除が懸念事項だ。政権交代を目前に控えて軍系企業が滑り込むように合弁会社に出資することが発表されたが、これは権益確保の狙いがあると考えられる。また、政権交代前に工業省の一部事業を国防省に移管するなど、携帯電話事業以外の分野でも権益確保の動きが見られた。

 なお、米国政府は軍事政権下の民主化阻害や人権侵害を問題視し、軍関連の個人や団体を制裁対象に指定しており、MECもそれに含まれた。しかし、2016年10月7日に軍関連の制裁を全面解除したことに伴い、MECは制裁対象から外れた。

◆「非公式」から「公式」に

 MECによる携帯電話事業への関与は最初ではない。MECは通信設備を保有して移動体通信事業者(MNO)として携帯電話事業を手掛けるための免許は保有しないが、通信設備を持たずにMNOから通信網を借りて仮想移動体通信事業者(MVNO)として携帯電話事業を手掛けるための免許は保有する。ブランド名をMECTelとして携帯電話事業を手掛けているが、自社で通信設備を保有するため、実態は免許内容とは異なるMNOだ。ミャンマーの報道媒体では「非公式な第4の携帯電話事業者」とも呼ばれるが、これが罷り通る状況は軍系企業の地位が高いことの証左と言える。

 MECの携帯電話事業では世界的に縮小傾向にあるCDMA系の通信方式を採用するが、CDMA系は世界各国で停波が進み、将来は明るくない。一方で、第4の携帯電話事業者は世界的に主流なGSM系の通信方式を採用する計画である。MECは「非公式」な状況から「公式」に携帯電話事業へ本格的に参加することになり、しかもCDMA系からGSM系への転向も図れる。MECにとって、いや権益確保に走る軍にとって実に好都合だ。

◆最後発ゆえの戦略は