MAKSで飛行するロシアのアクロバットチーム


 国際的な航空ショーとしてパリやファーンボロー(英)が知られている。これらの航空ショーが開催される時は航空機の大型商談がまとまったことが発表されることや、日本の航空関連企業の出展が報道されることがあり、航空業界の方以外でもこうした航空ショーについて耳にしたことがあるかもしれない。

 海外の大規模な航空ショーには航空業界の産業見本市と、航空機の曲芸飛行を見せるショーイベントの2つの性格があり、開催期間中はビジネスイベントとしても、ある種のお祭りとしても大いに盛り上がる。

 パリやファーンボローほどではないが、ロシアにおいてもモスクワで大規模な航空ショーが行われている。

 この航空ショーはMAKS(正式名称は国際航空宇宙サロン)と呼ばれ、ロシアだけではなく海外からもボーイングやエアバスなどの航空産業のメジャープレーヤーが多数参加する。“国際”を冠する名に恥じぬ航空ショーであることは間違いない。

 2年に1度夏に開催されているが、今年は開催年にあたり、7月18日から23日までモスクワ郊外のラメンスコエ飛行場で開催される。

MAKSで飛行するエアバスA380


 ラメンスコエ飛行場はモスクワから約40km東南に位置する。モスクワの中心部のカザン駅から郊外電車で40分のオトディフ駅にて、会場までの無料シャトルバスに乗ることができる。

 ロシアではそれなりに知られたイベントであり、モスクワ市内から公共交通機関のみ簡単に行くことができるので一般のロシア人にも人気であり、主催者発表では前回のMAKS2015に40万4000人がMAKSを訪問したとのことだ。

MAKSでフライトを見物する来場者


 実は、このMAKSには日本人の訪問者は少なくなく、会場で日本人を見ることも珍しくない。

 航空ショーには産業見本市としての性格とショーイベントとしての性格があると書いたが、日本からの訪問客もこの2つの性格をそのまま反映したもので、仕事で訪れるビジネスマンと観客として日本から来た飛行機マニアの2通りである。

 日本人ビジネスマンは何をしているのかと言うと、ロシアの航空関連企業への売り込みを目指しているのだ。

 ロシアの航空産業と言うと、軍用機ばかり作っているイメージを持たれる方も多かろうが、2000年頃から旅客機の開発を復活させる動きがあり、日本企業も参入可能な民需のビジネスが芽生えている。

 MAKSにはボーイングやエアバスも参加しているが、数の上から言うとほとんどの参加者はサプライヤーである。軍用機の共同プロジェクトがあるインドの企業は少し違うようであるが、欧米からの企業はロシアの民間機生産のための資機材の受注を目指し参加している。

 ハネウェル(米)、ロックウェルコリンズ(米)、ターレス(仏)などの部品メーカーが代表例で、ボーイングやエアバスの主要サプライヤーでもある。こうした部品メーカーはスホーイスーパージェットやMC-21のように近年開発された機種のサプライヤーとなっている。現在、ロシアは欧米の制裁下にあるが、民間機のビジネスは可能であるため、制裁発動後の2015年のMAKSでもこれまでどおり商売は継続中である。

フランスの航空産業グループのサフラン(スネクマの親会社)のブース。2013年の写真なので、ドイツのブースも見える。


 制裁の影響として、それまで展示会場の広いエリアを占拠していたドイツパビリオンが消えており、ドイツ企業はほとんどいなくなっていた。

 しかし、MAKSにおけるビジネスの舞台は展示会場だけではない。会議室とフライト見物用のテラスが一体になったシャレーと呼ばれる建物が展示会場とは別にあり、こちらこそが真剣なビジネスの場になっている場合も多い。

 シャレーは特別招待客のみが入ることができ、豪華な食事による接待と一般来訪者の目に付かない所での商談が行われる。

 2015年のMAKSにおいても他のシャレーと比べ特に大きく立派なジーメンスの2階建てのシャレーは例年通り存在し、決して商売の手を抜いていないことをうかがわせる。

MAKS2015におけるジーメンスのシャレー


 さて、日本勢であるが、商社や航空関連のサプライヤーなど、毎回数社が出展しているものの、これまで集団で出展してきた欧米勢と比べると目立たない存在である。確かに、MAKSでは何人もの日本人ビジネスマンが活動しているのだが、欧米企業のロシアの航空産業への売り込みに比べれば劣勢である。

 スホーイスーパージェットの1次サプライヤーを見ると、韓国企業までが顔を出すのに日本企業の名前はない。MC-21においては、2次サプライヤーとしては日本企業の参加もある。

 例えば、MC-21に搭載される米国製PW1400G-JMエンジンの“J”は日本を意味し、エンジンの23%が日本製である。しかし、一次サプライヤーとしては日本企業の名はなく、欧米企業の2次サプライヤーとして、欧米企業経由でのビジネスになっている。ロシアの航空関係者でも日本製部材がMC-21に使われていることを知る人はほとんどいない。

 もちろん日本の航空産業は欧米ほど発展していないため、欧米のサプライヤーの方が有力である。

 しかし、ボーイングやエアバスにおいては、日本勢も主要部材を納入して一定の存在感があるのに対し、ロシアの航空産業においては日本企業が存在感を見せているのは、一部の生産設備に留まっている(程度の差はあれ、設備でも劣勢であることに変わりはない。)。

 これには2つの要因があり、1つはロシアの民間機生産が発展途上であり、規模が小さいことである。スホーイスーパージェットの生産数は年間20機程度である。

 ロシア航空産業の将来性をどう見るかということで力の入り方が違ってくるだろうが、限られた経営資源の中でボーイングやエアバスのビジネスを優先するというのは一定の合理性がある。

 もう1つの要因は欧米諸国には存在しない社会的なメンタリティー上の壁であろう。これは個々の企業や担当者ではいかんともしがたいものである。

 確かに、ロシアの航空産業は冷戦時代にソ連の軍事力を支えていたのだから、ソ連時代は交流を持つことが難しい世界であった。しかし、ソ連崩壊後四半世紀が経ち、ロシアの航空産業は世界の航空産業に組み込まれつつある。

 事実、近年ロシアで開発された旅客機には欧米製の部品が広範に採用されている。また、以前紹介したVSMPO-Avismaのようにロシアから欧米の航空産業へのサプライヤーになっている例もある。

 短期的には景気動向や政治的要因の影響を受けるが、長期的にこの傾向は変わらないだろう。こうした変化への感受性において日本は欧米諸国に遅れをとっているように見える。

 前述のとおり、MAKSにはビジネスイベントとしての側面だけではなく、普通の人が普通に楽しむショーイベントとしての側面もある。MAKSを訪れる日本人の大半はこちらが目当ての航空機マニアである。

 ビジネスイベントでは日本勢は劣勢であるが、マニアの数では必ずしもそうは見えない。日本からMAKSへのパックツアーは読売旅行やJIC旅行センターなど複数があり、望遠鏡のようなレンズの付いたカメラを持った日本人の集団は非常に目立つ。

MAKSでのロシア空軍機の飛行 先頭の飛行機は新開発のステルス戦闘機。こうした航空機を追い求めて日本から来るマニアも少なくない。


 航空機マニアが目当てとするのはここでしか見ることができないロシアの航空機である。パリやファーンボローのようなトップクラスの航空ショーと比べると、MAKSは規模では劣る。

 しかし、他の航空ショーは世界中から満遍なく航空機が集まるため、MAKSのような珍しいロシアの航空機が集まるという際立った特徴がない。一方で、MAKSにははっきりとした売りがある。こうしたところで、MAKSに日本人マニアが集まっているのだろう。

 ショーイベントにおいても、ロシアの航空界が決して閉鎖的な世界ではなくなっていることを感じることができる。MAKSで飛行する飛行機はロシアの航空機が中心であるが、これまで欧米の空軍の参加が普通だった。

 さすがに制裁発動後のMAKS2015では欧米の空軍は参加していなかったが、それまではフランス空軍、スイス空軍、イタリア空軍などが参加していた。2011年には米空軍までが参加していた。

 この時は、戦略爆撃機のような大型機を複数含む米軍機の集団がMAKS会場の一角を、あたかもそこが米軍基地であるかのように占拠していた。

 MAKSの会場であるラメンスコエ飛行場は、ソ連時代から軍用機を含む新開発機の飛行試験を一手に担ってきた場所である。かつては外国人にとって近寄ることなど思いもよらなかった性質の場所である。

  しかし、そのような場所が、一般人に広く公開されるにとどまらず、米軍機までがやって来るようになっている。ロシアの航空業界は日本人が思っているほど閉鎖的ではないのである。

MAKS2011で飛行する米空軍の戦闘機 背景には垂直尾翼にソ連国旗を残す飛行機が見える。


 MAKSは40万人を集めるイベントなので、航空機とは関係ない一般向けPRの場所として有効活用する日本企業もある。2013年にはソニーがパソコンの宣伝のためにブースを出していたし、2015年には横浜ゴムがタイヤのPRを行った。

 横浜ゴムはタイヤのPR会場を設けて車のドリフト走行を披露していただけではなく、スポンサーとなり航空機と自動車のレースを行った。航空機と自動車が滑走路上で競争し、折り返し地点を回ってどれだけ早くスタート地点に戻って来るかを競うものだ。

 当たり前の話だが、飛行機の方が自動車よりも圧倒的に早いので、飛行機が圧勝するに決まっているではないかと思ったが、飛行機は折り返し地点で大回りでの旋回をする必要があるのに対し、自動車ははるかに小さく回ることができる。

 大回りをしている間に車に追い抜かされてしまい、ほとんどの飛行機は自動車に負けていた。テレビ局所有の民間機登録された超音速戦闘機まで出てきたことには驚いたが、明らかに参加した乗り物で一番速いはずのこの民間超音速戦闘機が、小回りが利かないことが仇となり車に大きく差をつけられて惨敗していた。このレースは観客のロシア人には大受けだったという。

横浜ゴムがスポンサーとなった航空機と自動車のレース 手前のヘリコプターと奥の自動車が競走している。


 航空ショーは産業的側面とショーイベントとしての側面があるため、今年のMAKSにおいても注目するべき点はそれぞれ異なる。

 産業的には今年の7月のMAKSでは、新型旅客機であるMC-21が会場に現れるかということが注目されるところである。

 航空ショーで展示されることで、ロシアの航空産業を今後担う機種の開発状況が明らかになる。原稿執筆時点では初飛行は3月と発表されているが、計画通りに初飛行したとしても間に合うかどうかは微妙なところである。

 MC-21の機体はすでにほぼ完成しているため、部材の選定は終わっているが、量産用設備の発注がまだされていない。ロシアの航空産業向けビジネスをしている方にとっては次の大きなビジネスがいつあるのかが関心事であり、開発の進展は気になるところである。

 ロシアにとってもこの旅客機の成否が、順調に航空産業を発展させることができるかのカギとなる。

 ショーイベントとしては、2015年に縮小された海外の空軍の参加がどれだけ戻って来るかが重要な点であろうか。こちらは政治的な情勢次第であろう。

 いずれにしても、MAKSはロシアの航空業界が置かれた状況を映す鏡であり、MAKS2017を通じてどのようなロシアの航空業界の姿が見えてくるのか楽しみである。

筆者:渡邊 光太郎