ソニーの平井一夫社長

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 ソニーは2月2日、2017年3月期の連結最終利益(米国会計基準)を従来予想の600億円から260億円(前期比82%減)に下方修正した。映画事業で1121億円の減損損失を計上するためだ。

 そのため会見では、映画事業の先行きに質問が集中したが、「映画はソニーの戦略上、非常に重要。事業の売却は選択肢にない」として、吉田憲一郎副社長は売る考えがないことを強調した。

 ソニーの映画事業をめぐっては、売却の噂が常につきまとってきた。映画・音楽事業を統括する担当執行役でソニー・エンタテインメント最高経営責任者(CEO)のマイケル・リントン氏が2月2日付で退任。急成長する写真・動画共有アプリ「スナップチャット」を運営する米スナップの取締役会長に転身した。

 リントン氏は04年、ソニーの映画部門であるソニー・ピクチャーズエンタテインメント会長兼CEOに就任。12年からはソニー・エンタテインメントCEOになり、映画・音楽事業を統括するトップだった。

 だが最近は、映画はヒット作に恵まれず、経営陣の刷新を求める声が出ていた。経営陣の交代を機に米国メディアは、ソニーがソニー・ピクチャーズを売却するのではないかと報じた。

 ソニーは7月に全米で公開される予定の『スパイダーマン:ホームカミング』とアニメ映画『エモジ・ムービー』に期待をかけている。これがヒットすれば、ソニー・ピクチャーズを高値で売却できると解説する向きもある。

「映画.com」は1月31日付のニュースで、「売却先として最も可能性が高いのは米メディア大手、CBS」とする現地メディアの報道を伝えた。

 コンテンツを欲しがっているアップルがソニー・ピクチャーズに食指を動かしているとの噂が飛び交うなど、報道は過熱気味。ちなみに、ソニー・ピクチャーズの企業価値は120億ドル(約1兆3000億円)前後と試算されているそうだ。

 ソニー・ピクチャーズの売却話は今回が初めてではない。ソニーの議決権のある株式の7%弱を保有していたと主張する米投資ファンド、サードポイントのダニエル・ローブCEOは13年5月、ソニーの平井一夫社長と面談。映画子会社(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)、音楽子会社(ソニー・ミュージックエンタテインメント)を上場させ、全株式のうちの15〜20%を売り出すべきだと提案した。

 だが平井氏は、この提案を拒否。「エンタメもソニーの中核事業。ソニーが100%保有し続ける」と宣言した。サードポイントは14年10月、ソニー株をすべて売却して手を引いた。

 前回と今回の売却話では、映画事業の立ち位置が明確に異なる。前回は大赤字を抱えるエレクトロニクス事業の再建資金を、業績好調な映画・音楽事業を分離して上場することによって調達するというものだった。だが今回は、映画事業が大赤字なのだ。

●DVD市場の変化に対する認識の甘さを露呈

 事業の収益性を見直すなか、映画をコンテンツとするDVD市場が今後、従来想定より2割以上落ち込む見通しとなったため、映画製作にかかわる営業権の価値をゼロに引き下げた結果、1000億円規模の減損が発生した。

 インターネットメディアの普及と回線の高速化、映像技術の進歩と配信サービスの加速的な充実など、もろもろの要因から、映像ソフトの市場規模は縮小してきた。スマートフォン(スマホ)が普及した08年以降、その傾向がより顕著になった。

 ソニーは、こうした市場の変化に追いつけず、資産が陳腐化した。市場の変化に対する見通しの甘さが巨額な損失につながった。

 ソニーの17年3月期の売上高は前期比6%減の7兆6000億円、営業利益は同18%減の2400億円になる見込み。290億円の黒字を見込んでいた映画事業が830億円の営業赤字に転落するためだ。映画事業で1121億円の特別損失を計上するが、医療技術情報サイトを運営するエムスリーの株式5.34%分を370億円で売却して損失を穴埋めしたことから、最終利益は260億円の黒字を確保できそうだ。

 営業利益が2400億円で踏みとどまり、吉田氏が「来期の営業利益5000億円以上という目標は変えない」と明言したことから、ソニーの株価は2月3日、6営業日ぶりに反発。一時、前日比231円(7%)高の3600円と、昨年来の高値を更新した。2月7日には一時、3626円をつけた。

 吉田氏は「映画事業は売却しない」と強調したが、それで売却の観測が消えたわけではない。ソニー・ピクチャーズの売却説は、今後も燻り続けることになろう。

●映画の買収で、3000億円超の減損処理をしていた

 映画事業の失敗の本質は、ソニーがハリウッドを統治できないことにある。バブル時代の1989年、米名門映画会社コロンビア・ピクチャーズ・エンタテインメント(現ソニー・ピクチャーズ)を6400億円で買収した。映画は米国文化の象徴といわれてきた分野だ。コロンビア買収によってソニーは“聖地(ハリウッド)”に手を突っ込んだと受け止められ、「米国の魂を買った」と猛烈なバッシングを浴びた。

 コロンビア買収の最大の失敗は、ガバナンス(企業統治)を放棄したことにある。経営を2人のプロデューサーに丸投げした。ソニーが映画産業に無知であることを見透かした2人は、やりたい放題、浪費を続けた。彼等がつくった映画は、当然のごとくヒットしなかった。コロンビアは巨額の赤字を垂れ流しつづけ、とうとう買収から5年後に、ソニーは買収した金額の半分の減損処理に追い込まれた。ハリウッドへの進出は3000億円超という高い買い物についた。

 誰もがソニーは映画事業から撤退するだろうと思ったが、ハリウッドでソニーの名声を上げることは、創業者のひとりである盛田昭夫氏が晩年に抱いた夢だった。そのため、経営陣は盛田氏を慮って撤退を決断できず、映画事業をずるずると持ち続けた。14年12月、ソニー・ピクチャーズは北朝鮮の金正恩第一書記の暗殺を描いたコメディ映画『ザ・インタビュー』を制作したことからサイバー攻撃を受けた。

 ハッカーが『ザ・インタビュー』の上映館に対する攻撃をちらつかせたことからソニーは公開を中止した。断固闘わなければならないテロにソニーは屈したと非難にさらされ、バラク・オバマ米大統領(当時)も、「ソニーは過ちを犯した」と批判した。

 ハリウッドは、インナーと呼ばれる人々が仕切る排他的で特殊な世界だ。買収して30年近くになるが、結局、ソニー本社はハリウッドを統治できないままだ。映画事業からの撤退説が根強い理由は、ここにある。
(文=編集部)