『ぼくのとなりにきみ』小嶋 陽太郎 ポプラ社

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 10代の若者たちがこんなにキラキラしているなんて、自分が10代のときにはわからなかった。どうでもいいような悩みに気をとられていて、もっと優先するべきことには気が回らずにいる。将来のことを考えると不安なのに、「でもなるようにしかならないし」と根拠もないのに楽観的。「周りに流されず自分の意見を持て」「先々のことをしっかり考えて進路を決めろ」という忠告を完璧に実践できていたら、自分は今頃どんな人間になっていただろう。もがいてばかりの自分が可能性のかたまりであるとはとても思えなかった。「どうして若さまっただ中にいると、大人のいうことが耳に入ってこないのかなあ」と、3人の息子たち(15〜21歳)を見ていて思う。「歴史は繰り返す」とは真実なり。

 本書の主人公は中学1年生の佐久田正太郎(サク)。両親と妹・真琴の4人家族だ。小学校からの友だちであるハセ(長谷川だからハセ)と夏休み最終日である今日も一緒に行動している。ふたりは夏休みの宿題である自由研究をラスト1日(思い立ったのがお昼を回っていたから、正確にはあと半日)で片づけようとしているのだ。家の近くにある網川山古墳に行ってその感想をレポートにまとめればよいと言うハセの提案を受け入れて、ふたりは古墳へ出かけた。すると、そこで彼らは竹でできた筒の中に入っていた暗号文を見つけてしまう。翌日も教室で暗号を解こうと頭をひねっていたところを、同じクラスのちょっと変わった女子である近田さんに見られて...。サクはどちらかというとおとなしい性格で、何事にも慎重。一方のハセは天真爛漫で、考えるよりも先に行動するタイプ。近田さん(チカ)はマイペースないわゆる不思議ちゃん。そんな3人が長谷川調査隊(ハセがリーダーだから)を結成した。あまずっぱいこと...。

 サクが大人びているのは、水泳で一度挫折したことがあるからかもしれない。国体に出たこともある水泳選手だったサクのお父さんは、自分の息子にも水泳をやらせたかった。でも、サクの水泳の技術は思うようには伸びなかった。サクは自分が失望させてしまったと思って、それ以来うまくお父さんと話せないでいる。その代わりにお父さんの期待を一身に背負うようになった真琴は、着実に選手として成長している。真琴は努力によって結果を出しているのに、妹の活躍を素直には喜べないサク。家族のことで悩んでいるのはチカも同じだった。チカには、交通事故が原因でずっと目を覚まさないままのやさしく優秀だった姉がいる。なぜ自分ではなくお姉ちゃんがこんな目に遭うのか、お姉ちゃんの代わりに何でもできるようにならなければならないのになぜ少しもうまくいかないのかと、自分を責め続けているのだ。

 彼らはつらくて誰かにわかってほしくてずっと苦しんでいる。交友関係がうまくいかない。部活のことで悩んでいる。将来のことを考えると心配でたまらない。理由はさまざまであっても、どうすればいいのかわからず不安に押しつぶされそうにならない10代がいるだろうか(脳天気という言葉の体現者であるようなハセでさえ、悩んで眠れない夜もあるに違いない。たぶん)。大人の目から見たら、その葛藤すら貴重なものに感じられるのだけれども。長く生きて経験値が上がるにしたがって、大多数の人間は現実と折り合いをつける技術も身につくものだから、ちょっとしたことで傷ついていた心も痛みに対して鈍くなってくる。

 だとしたら、若い者の中にしか純粋さはないのか? そんなことはない! 多くの小嶋作品で私が最も好きなキャラは先生たちだ。本書でもゴリラのような顔をした角田先生というナイス大人が登場する。生徒たちによく目を配り、絶妙なタイミングで的確なアドバイスを繰り出す。もちろん想像でしかないのだが、角田先生にも大いに悩んだ若き日があったからこそ、そしてそれを自分が成長する糧にしてきたからこそ、生徒たちの気持ちに寄り添うことができるのだろう。たいていの場合、若さが失われてからの人生の方が長い。でも少年少女の頃の気持ちを忘れ去ってしまうことなくいろいろな感情に鈍感にならずにいられれば、もっと柔軟な気持ちでいられるしほんとうに自由な心を持てるんじゃない? ぜんぜん前に進んでいないように思えた日々が、現在の、そしてさらに未来の自分を作っているってことだ。サクやハセそしてチカが将来どんな大人になるとしても、この冒険と友情(と恋)の日々は必ずや彼らを支えることだろう。

 さて、本書にはさらなる素敵キャラが登場することを付け加えておきたい。美術部の先輩で何かとサクのことを気にかけてくれる竹丸先輩だ。身長が180cm近くあって力士のように大きい体で、文房具の絵を描き続ける心優しき先輩。登場人物の誰よりも大人なのではと思わせる懐の深さに胸を打たれずにはいられない。

 現在発売中の雑誌「CREA」(文藝春秋)に、小嶋さんと前回当コーナーで取り上げた『自由なサメと人間たちの夢』(よろしかったらバックナンバーもお読みになってみてください)の著者である渡辺優さんの対談が掲載されている。気鋭の作家でいらっしゃるおふたりの顔合わせということで、こちらもご一読をおすすめしたい。中でも特に興味を引かれたのは、小嶋さんの"ザ・リアルな感じで書かれてないけどリアルなものを書きたい。それが小説の意味だと思う"という趣旨のコメント。確かにこれまでにも、"首まで土に埋まった七三分けの中年(のちに幽霊)"や"火星人を名乗る女子高生"などひねりの効いたキャラクターで勝負しておられるが、彼らの心の動きは驚くほどの実感を伴って読者に訴えかけてくる。この半年ほど定期的に「小説新潮」(新潮社)誌上で発表されているダーク寄りの作品では新たなる一面もみられ、今後ますます小嶋陽太郎という作家に注目が集まるに違いない。

(松井ゆかり)