「シンプルに形を決めて伝えれば、出来ると思う。でも、それだけではダメ。どこかで頭打ちになってしまう。僕は、一昨年のJ2で学んだ。ひとつの形を作って完成度を高めていっても、選手が変わるだけになってしまうので、勝ち続けられない。だから、形ではなくて、ポジショニングの意味を分かってもらわないといけない。メンバーを固定していないから、具体的な形はまだ伝えられない」
 
 ある程度、時間がかかることは覚悟しているようだ。当然、開幕戦には間に合わせたいところだが、焦っては意味がない。クラブが今季の目標を「勝点50以上、9位以上」と設定したのは、チーム再構築の難しさも考慮したものであるはずだ。
 大事なのは、昨季のように結果を残しながら、後退せずにチームを右肩上がりに成長させることである。
 
 現段階では速攻頼みのところがあるが、ベテランMF金澤慎は「昨季までアキ(家長)が中心でやって来たので、彼が抜けた穴はある。でも、このメンバーで昨年以上の目標(昨年の目標は勝点48)を達成しないといけない。昨年より早い攻撃が増えているのは、現段階での今季の良さ。元紀は、シュートがすごく上手いし、ラストパスを出せる。チームの武器になるし、ひとつの形になると思う。ビルドアップは、できるようになっていて、ボールを持つ時間は長くなっている。全部、ショートパスでつながなければいけないレベルじゃない。崩すことにこだわらなくても、点を取る形はある。状況を判断して点を取りに行くのがサッカー」と話した。
 
 群馬とのプレシーズンマッチでも、後半から打開力のあるMFマテウスを投入すると、ドリブルで押し込み、攻撃参加した右SB奥井諒がクロスを供給するなど、ゴールへの形が見え始めた。前線は、合流が遅れたFWムルジャがコンディションを上げてくれば先発候補に食い込んで来る。J2群馬から加入のMF瀬川祐輔も持ち前のスピードで存在感を示しており、両者の抜け出しを生かす速攻も生きて来るだろう。
 
 元々、渋谷監督は「堅守多攻」をテーマに打ち出し、1試合中にポゼッション、カウンター、セットプレーの3種類の形からゴールを決めることを目指して来た。ポゼッションからのゴールを生み出すのに時間はかかっているが、堅守というベースがあれば勝負はできる。おそらく、昨季と同様にシーズン序盤は守備をベースに戦い、少しずつ、つなぎからの崩しを磨いて行く形になるだろう。
 
 思い返せば、昨季の序盤はJ1相手にはポゼッションをほぼできなかった。しかし、今季は、ボール保持はできるという半歩進んだところに土台がある。あとは、より高い位置でボールを奪うシーンと、パスワークの中から大前や江坂、あるいは中盤の選手が得点するシーンを増やしていけば良い。
 
 当面、新たなエースとなる大前へのルート開拓がチーム進化の道筋となるだろう。ルートが見えた時には、チームは自信を得て大きく前進するはずだ。開幕戦の相手は、家長が移籍した川崎。新たな攻撃の形を見せつけるため、チームは最終調整を続けている。
 
取材・文・写真:平野貴也(フリーライター)