驚異の難病、「ツリーマン(樹木男)症候群」(WIKIPEDIAより)

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 21世紀は科学技術も医療技術も進化した。だが、世界中に解明に至らない難病・奇病・風土病が夥しく厳然と存在する。今回は、奇病のなかの奇病とも言える驚異の難病、「ツリーマン(樹木男)症候群」の実態を見よう。

バングラデシュの10歳の少女が女性として初めて発症

 手や足に木の皮のような巨大なイボが生じる遺伝性皮膚病、それがツリーマン(樹木男)症候群だ。2017年1月31日、バングラデシュのダッカ医科大学病院形成外科部門のマンタ・ラール・セン医師らは、10歳の少女が女性として初めてツリーマン(樹木男)症候群を発症した可能性があると発表した(AFP News 2017年2月2日)。

 発表によれば、この少女サハナ・カトゥンさんの顎、耳、鼻に節くれ立ったイボができていたことから、ダッカ医科大学病院の医師らは、カトゥンさんの症状を疣贅(ゆうぜい)状表皮発育異常症(Epidermodysplasia verruciformis)と診断している。

 この奇病は世界でも極めて稀な難病で、女性の発症例は確認されていないため、カトゥンさんは女性の世界初症例となる。カトゥンさんを担当している医師らによれば、症状は比較的軽度のため、回復は早いと見ている。

 バングラデシュ北部の村で暮らすカトゥンさんの父親ムハンマド・シャージャハンさんによると、イボができ始めたのは4か月程前。当初は心配していなかったが、イボが大きくなったため、急遽、ダッカ医科大学病院へ駆け込んだ。

 シャージャハンさんはAFPの取材に「私たちは貧しく、娘は6歳の時に母親を失った。医師らが娘の美しい顔からイボを取り除いてくれるよう心から願っている」と語っている。

 ツリーマン(樹木男)症候群といえば、日本でも報道されたインドネシアのデデ・コサワさん(1971〜2016年)がいる。コサワさんは、2008年に計13.2圓發離ぅ椶鮴攴したが、予後にイボが再発したことから、2016年1月、合併症のために45歳で逝去。だが、疣贅状表皮発育異常症の仕組みの解明に大きな足がかりを残した。

 一方、今年1月、バングラデシュ南部クルナ出身のアブル・バジャンダルさん(26歳)は、10年前に手足にでき始め、およそ5kgもの重さに肥大化したイボを除去する外科手術をダッカ医科大学病院で受けた。16回に及ぶ大掛かりな切除手術の結果、両手にできた直径およそ5〜8cmの巨大なイボを数10個、足にできた小さいイボを全除去した。再発しなければ世界初の快癒例となる見込みだ。

 バジャンダルさんは手術後のCNNの取材に「かつての状況は耐え難かったが、自分の手で娘を抱いたり、膝に乗せて遊べる日が来るとは思いもしなかった。嬉しい!」と語った。

 ダッカ医科大学病院によると、確認されている患者は、コサワさん、バジャンダルさんなど計3人に過ぎないという。

イボが太陽光を浴びると、がんを発症し、それが全身に広がる恐怖!

 疣贅状表皮発育異常症は、どのような難疾患だろう?

 「疣贅」とはイボ。疣贅状表皮発育異常症は、主にヒトパピローマウイルス(HPV5型・8型)の感染によって小児期から顔面や体幹に癜風(でんぷう)や扁平疣贅(へんぺいゆうぜい)様の皮疹が多発し、少しずつ全身に広がるので、加齢に伴って症状はますます悪化する。

 癜風は癜風菌(マラセチア・ファーファー)の感染によって、背部、胸部、頸部、上腕部、腋窩(腋の下)などに粉をふいた様なかさついた丸い皮疹ができる真菌感染症。扁平疣贅(へんぺいゆうぜい)は、子宮頸がんを誘発するヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって顔部、頸部、腕部にできるウイルス性のイボだ。

 稀な常染色体劣性の遺伝性疾患の疣贅状表皮発育異常症の顕著な特徴は、イボが太陽光によって活性化されると、露光部にがんを発症し、徐々に悪性化する点だ。

 先述のコサワさんとバジャンダルさんの場合は、遺伝子異常が自己免疫システムを阻害し、ヒトパピローマウイルス(HPV)が皮膚細胞に侵入したため、発症したとされる。

 イボは「EVER1」と「EVER2」という遺伝子変異が原因である事実は突き止められているが、この遺伝子異常による発症の機序は未開明だ。したがって、根治療法はなく、紫外線の防御や、イボ、がんの外科的切除などの進行を緩和する対症療法しかない。

 現在、主に次の治療法が試みられている。医療機器の滅菌、殺菌、消毒に用いられるグルタルアルデヒドを1日1〜2回綿棒を用いてイボに塗布し、乾固した表面を削除する20%グルタルアルデヒド塗布法、大きさに合わせて切った酒精綿をイボに当て、油紙やサランラップで密封し、1日1回取り替えるアルコール湿布法、液体窒素を含んだ綿棒で凍結・融解を5〜6回繰り返す液体窒素凍結療法のほか、局所麻酔下でイボを焼灼する電気焼灼法やCO2レーザー焼灼法などが施されている。
そもそも難病とは何か? 指定難病306疾病の医療費助成がスタート

 奇病のなかの奇病とも言える驚異の難病、ツリーマン(樹木男)症候群の真相を追って来た。最後に難病とは何かを考えたい。

 難病は「治りにくい疾患や不治の病」を指すが、医学用語として明確な定義はない。施策上の難病は、厚労省の難病対策要綱によると、原因が不明である、治療方法が未確立である、後遺症を残す恐れがある、経過が慢性的である、介護に著しく人手を要するため、経済的・物理的・精神的な家庭の負担が大きい疾病と定義している。

 難病は、特定疾患(特定疾患治療研究事業対象疾患)とも言われる。特定疾患は、厚労省が実施する難治性疾患克服研究事業の臨床調査研究分野の対象になる指定疾患だ。

 2014(平成26)年5月に、持続可能な社会保障制度の確立を進めるために「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」が成立。治療費は国と都道府県が折半して負担すると定められ、医療費の公費負担を受けられる疾患は、特定疾患から指定難病に移行した。指定難病は、患者数が一定の人数(人口の約0.1%程度)に達していない、かつ客観的な診断基準が成立している疾患を指す。

 平成27年7月現在、パーキンソン病、ハンチントン病、ミトコンドリア病、もやもや病、プリオン病、悪性関節リウマチ、シェーグレン症候群、ベーチェット病、アジソン病、クローン病、潰瘍性大腸炎、筋ジストロフィーなど306疾病の医療費助成が始まっている。患者数は約150万人、医療費助成規模は約1820億円に上る(参考:指定難病病名一覧表)。

 このような実態を知れば知るほど、難病は、まさに時代をそのまま映す鏡だ。グローバリゼーション、気候風土、環境異変、科学技術の進歩、医療水準、突然変異、ライフスタイル、ストレス、生活習慣の申し子でもある。疣贅状表皮発育異常の真相を知って、改めて気づかされたことがある。

 それは、未知と不確実性の脅威があるからこそ、人類はその克服に挑み続けながら、真実を直視し、探求する情熱を決して失わないという気づきだ。

 しかも、人間は誰も、予知せぬ病魔や障害に見舞われるリスクを担ったTA(temporary ability:束の間の健康者)にすぎないものの、免疫システムやホメオスタシス(生体の恒常性)に守られた強かな生命体だという気づきでもある。

 人間は闇を恐れる。恐怖は無知と逃避から生まれる。だからこそ、人間は、知への飽くなき好奇心と勇気を奮い立たせ、ヘルス・リテラシーを深めつつ、リスク・マネジメントを高める。それを人生の基本スタンスにしたい。本サイトの役割も存在価値も、そこにある。

 難病、難題、難関への不屈のチャレンジは続く。人類の敵は、難病やウイルスではない。それは、無知を恐れない人間の怠惰な悪癖なのだ。10歳の少女サハナ・カトゥンさんの1日も早い快癒と健やかな成長を祈りたい。
(文=編集部)