連続テレビ小説「べっぴんさん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第20週「旅立ちの時」第111回 2月14日(火)放送より。 
脚本:渡辺千穂 演出:梛川善郎


111話はこんな話


忠さん(曾我廼家文童)と喜代(宮田圭子)さんのふたりと、龍一(森永悠希)、それぞれが冒険の旅に出ることになる。

お嬢様たち、みごとにそれぞれの美しい花を咲かせておられます


使用人生活何10年、ご主人様を亡くした忠さんと、大切に仕えてきたお嬢さんたちが独り立ちしていく喜代さん(↑上記の台詞、長い時間の想いがしゅんでる。喜代さんの煮物そのもの)。
長年、ひとのために生きてきて、はたと「自分」について考える。
すごいなあ、人生のほとんどを「他人」のために費やすなんて。

残りの人生、貯めた給金で自分のために楽しく生きる。いまでいう「フルムーン旅行」的な感じだろうか。
当時の日本人の旅意識を感じさせるのは、「ジャパンアーカイブ」というサイトにある、昭和36年(61年)のJTBによる、老いも若きも旅するイラストが描かれた広告。サイトはそれに「旅行ブーム」とコピーをつけている。
観光で海外に行けるようになるのが2年後の昭和39年(64年)。昭和40年(65年)には、ノーベル文学賞受賞前の川端康成が原作を書き下ろした朝ドラ「たまゆら」が大人気になって、ロケ地の宮崎に観光ブームが起こる。このドラマも会社を退いた男(永山絢斗が尊敬する俳優・笠智衆)が妻とふたりで旅をする。
忠さん、喜代さんの冒険願望は日本の旅ブームの走りといえそう。
ふたりで世界一周でもしちゃうんだろうか。龍一の冒険資金提供できるなんて、貯金多いんだろうか。

今日は決戦の日なんや


龍一は、反対されても冒険への想いが諦められない。
キアリスファミリー大集合(家族経営感がハンパない)のなかへ突入し、気持ちを吐露する。
「型紙切ってるときのお母ちゃんが一番好きや」って言われて良子(百田夏菜子)嬉しかっただろうなあ。
息子はやりたいことをやってる母の背中を見て成長したのだ。
「大人の、私たちのなかの常識を押し付けたらいけないのかもね」と言う良子。
良子たちだって、女が働くなんてという常識を破って今があるわけで。
龍一が一風変わっている原因を何かに限定することなく、どこにでもある事情として向き合い続け、こういうふうに帰着させることは、誰に対しても配慮があってええなあと思う。
「べっぴんさん」は、人間が生きていくうえで出会う困難を無視せず、普遍性をもって描く、その手つきがじつに知性的だ。そういう姿勢の最高峰はボブ・ディランの歌(たとえば「激しい雨が降る」)だろう。さすがにそこまでに至ってないから、淡さにもやもやしたり、何かに特定させたくなったりするひとの気持ちもわからないではない。

しかし、すみれ(芳根京子)よ、立ち聞きはドラマの常だが、正直に立ち聞きしていたって言わず、さも、いま聞いた芝居をしても良かったのでは。まあ、そんな不器用さも好ましいのです。

ふたりの雰囲気に胸騒ぎの武ちゃんなのです


はなさん(菅野美穂)に心配される武ちゃん(中島広稀)。
忠さんの長い初恋が実ったのを見て、明美(谷村美月)への想いに俄然、燃える。ジャズの音楽がそれを表現。
ところが、恋のライバルが。
ヨーソローで、同じバーボンを頼む栄輔(松下優也)と明美。このふたり、孤独な者同士、前からなんとなく引き合っている感じがあった。武ちゃん、がんばれ。

今日の、紀夫くん


「えっ(大きく) え(小さく)、いや(動揺)、え・・・(さらに小さく)喜代さんがいなくなるなんて考えたこともなかった」とショックを受ける紀夫くん。
「え」の三段活用がすばらしいし、所在なく何かをかじる姿もいい。
今日もほっこりをありがとう、紀夫くん。
(木俣冬)