(左)双腕形の15軸多関節ロボット。人と同等のサイズのため、人の作業スペースに設置することができる。(写真=AFLO)(右)地域別ロボット保有台数推移

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■人手不足の中国で需要が急増している

産業用ロボットの国内最大手・安川電機。同社は世界初の「7軸ロボット」を手がけるなど技術でもトップを走る。いま、この産業用ロボットの市場には大きな変化が現れつつある。キーワードは中国だ。同社のロボット事業のキーパーソンである南善勝常務は話す。

「沿岸部のインフラ関連の工事が内陸部に移り、出稼ぎ労働者の減少が進んでいる。さらに一人っ子政策の世代は学歴が総じて高く、フロアワーカーを避ける。産業用ロボットでそれを補うことは、彼らの喫緊の課題となっています」

人件費高騰や労働力不足は、巨大工場への産業用ロボット導入を加速させる。すでに中国におけるロボットの生産・販売は増加しており、安川電機はその主役の一人だといえる。

「また、中国に限らず、この数年間、現場でのロボットと人との距離が縮まり、お互いが共存して働く環境が整ってきた」と南さんは続ける。

大きな変化はISOの安全基準の改正だ。これまで人とロボットは安全柵で分離する必要があった。改正で、安全性能の高まりと基準に準じた措置をとれば、人とロボットが同じフロアで働くことが可能になった。

「従来の工場の自動化では、『0か100か』という考え方が主流でした。安全柵が工場内から消えれば、人とロボットがお互いの長所を活かし合い、『80%の自動化』といった形で自動化率を割合で示せるようになる。ロボットが主体的に仕事をしてそれを人が補助したり、逆に人の仕事をロボットが補助したりしながら、人とロボットが同じ空間で共存できるわけです」

そのうえで南さんは、次なるロボット事業の展開として「バイオメディカル分野への進出」を挙げる。アーム型ロボットを組み合わせた「双腕ロボット」が、抗がん剤の調合作業や新薬研究で活用されているからだ。

■「実験ノート」不要ロボ創薬への期待

「同じ作業を均一に繰り返す作業は、人間よりもロボットのほうが得意。タッチパネルで薬液の量や培養の手順をフローチャートのように指定すれば、それがそのまま実験ノートにもなるというメリットもあります」(安川電機常務執行役員 南 善勝氏)

このバイオメディカル分野での実証的な成果を、いずれは中小企業の工場にも応用したい、という思惑が同社にはある。

「現在の産業用ロボットの導入には、機器の設定やメンテナンスに知識とコストがかかる点に課題が残る。工場の現場で必要な作業を三次元のビジュアルで簡単に入力できるようになれば、より普及が進むはずです。労働人口の減少に対して80点の答えを用意しながら、同時に100点を見据えていく。今は完全自動化への壁をクリアする端境期だと考えています」

(ノンフィクションライター 稲泉 連=文 永井 浩、森本真哉=撮影(人物)AFLO=写真)