タイ人として初めてJリーグ移籍が決定した「タイのメッシ」チャナティップ・ソングラシン。コンサドーレ札幌で7月1日選手登録する

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「東南アジアの優等生」といわれ順調な成長を続けるタイ。

 生活水準の向上とともに近年はスポーツ界の発展も顕著で、その象徴といえるのがサッカーだ。2010年代に入り急成長を遂げた国内リーグの盛り上がりを背景に、代表チームの実力も急上昇。オリンピックやワールドカップのアジア予選でも最終予選に駒を進めるまでになった。Jリーグがアジアの国々との連携をはかる「アジア戦略」でも、2012年に真っ先に提携を結んだのがタイリーグ。サッカーにおいても、東南アジアの先頭を走るリーダー的存在となっている。

 昨年12月、日本とタイのサッカー界の間で新展開があった。タイのトッププレーヤーであるチャナティップ・ソングラシンが、今年7月から1年半の契約でJリーグの北海道コンサドーレ札幌にレンタル移籍することが発表されたのだ。Jリーグが「アジア戦略」を掲げて以来、ベトナムやインドネシアなどからはすでにJリーガーが生まれているが、タイ人選手がJリーグクラブと契約を交わしたのはこれが初の事例となる。

「アジア戦略」の最重要国と位置付けられるタイからのJリーガー誕生は、Jリーグにとっても待望のことだった。東南アジアサッカー界のトップを走るタイには当然、好選手は多くいる。それにも関わらず、これまでタイ出身のJリーガーが生まれなかったのはなぜなのか。

◆タイでの高待遇がアダとなりJへの移籍が難航

 タイからのJリーガー排出に尽力してきたJリーグ国際部の小山恵氏は、タイ人Jリーガーの誕生が難航した理由を次のように語る。

「Jリーグとしても、もともとタイは一番のターゲットとして見ていました。ただ、タイリーグは近年、トップ選手のサラリーがどんどん高くなっている状況があり、一方で日本でのタイ人選手の評価はまだそこまで高くない、というギャップがありました。チャナティップも2012年頃からリストアップしていた選手ですが、彼のサラリーも当時とは比べものにならないほど高額になっています」

 国内リーグの急速な発展により、現在、タイではトップクラスの選手であれば数千万円の年俸も珍しくない。選手としての評価も金銭的な待遇も低調な海外のリーグに、わざわざリスクを犯してまで飛び込む必要のない環境がすでに国内に整ってしまっているわけだ。他の東南アジア諸国に先駆けたタイリーグの飛躍が、逆にタイ人Jリーガーの誕生を難しくさせている面があった。

◆「提携国」選手は日本人と同じ扱いで出場可能に

 そういった状況下で今回、ついにタイ人選手がJリーグでプレーすることになったのにはいくつかの背景がある。

 まずは、東南アジア出身Jリーガーがもたらす効果が広く認知されてきたこと。東南アジアからの選手獲得に熱心なクラブの一つである水戸ホーリーホックは、ベトナム人選手の加入によってベトナム航空をスポンサーにつけることに成功。さらに、茨城空港にはベトナムからの直行便が飛ぶようになった。そういった目に見える成果が、Jクラブの東南アジアへの関心を少しずつ高めてきた。

 また、Jリーグ側も各クラブが東南アジア出身の選手を獲得しやすい環境作りに努めてきた。今季からは東南アジア諸国をはじめJリーグが提携を結ぶ「提携国」の選手は外国人として扱わないという思い切ったルール改正も決行。これにより、タイ人選手も日本人と同じ扱いでJリーグの試合に出場できることになった。

◆チャナティップ獲得の背景にある意図とは?

 そして、実際にチャナティップの獲得に踏み切った札幌の本気度も高かった。札幌はこれまでにもベトナムやインドネシア出身の選手を獲得した実績があり、とりわけアジア戦略に熱心なクラブの一つ。かねてからタイ人選手にも強い関心を持っており、チャナティップに関しても3年ほど前から徹底マークしてきたという。